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こんな異世界、お兄さんは認めません!  作者: アカポッポ
第一章 いざ異世界へ!
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Part10 異人は人間に、嫌われる

2021/11/23 追記


な、なんだか凄く沢山の誤字報告をして下さっている方が……!

拙作を丁寧に読んでくださり、ありがとうございます。

内容を精査して、問題のある箇所は直して行きます

「ハルトー、夕飯出来たから降りてらっしゃーい」

「......ん?」


 聞き慣れた声がして目を開けると、そこに映るは見慣れた天井。

 ......いや、おかしいだろ。

 『出掛けた先の森で意識を失うまでが遠足です』とか言い出したら、PTAから苦情が殺到するぞ。

 .....じゃなくて。え、ナニコレ? どういう事?

 

「夢オチ......じゃないよな」


 ちょい確認しよう。枕をめくって、隠していた写真を見ます。ミヨが消えています。なるほど、ここまでは事実、と。

 じゃあ森の中の出来事はどうなんだ? と言っても、何も証明するものが――

 

「ん?」


 ズボンのポケットに違和感があったので手を突っ込んでみると、何やら棒が入っていた。

 いや、棒じゃなくて杖か。

 つまりは全部現実だった、と。


「ハルトー、寝てるのー?」


 取り敢えず下に降りよう。夕飯が俺を待ってる。


「どうしたの、ボーっとして?」

「ん? あーいや、別に」


 夕飯の最中、箸の進みが遅い俺の様子を伺うのはマイマザー。

 いやそりゃボーッとしてしまいますとも。

 家に帰ってこれた俺は良いとして、アリスはちゃんと帰れたのか?

 それと、マヤが気になる......

 あの様子だと俺がエルフじゃないって納得して無かったみたいだし、だとすると今後異世界には行き辛くなるな。

 はて、どうしたもんかなぁ……


 ――などと心配していたが、夕食後、俺の机の上に一枚の紙が置いてあった。

 メモ書きを手に取り、ベッドに腰掛ける。

 それによると、アリスとマヤは無事帰宅したとの事。で、マヤの『俺がエルフではないか』という疑いはどうにか晴れたらしい。


 え、あの状況から? どうやって?

 なんだろう、胡散臭い。


 このメモ書いたの誰なんだ? 名前が書いてないんだが......

 もしこれが嘘だったら、異世界に行った途端マヤに殺されかねないんだが。

 本当かどうか確かめないといけないけど、結構気が重い。

 うーん、どうしようか。取り敢えず布団に寝ころびながら……考えて……

 ............

 スヤァ......


「ハッ!?」


 いかん、完全に爆睡してしまった。

 時計は12時手前まで回っているし、これは明日の方がいいか。

 軽くシャワーでも浴びて、今日は寝よう。


 ――結局、その後も俺は深い眠りに落ち、翌朝親に起こされるまで寝ているのだった。

 朝食を食べ、ボンヤリしつつ身支度を整えると時刻は九時すぎ。

 

「さて、と」


 昨日は行くべきか行かないべきかちょっと迷っていたけど......決めた、行く。

 誤解が解かれてないなら、例え一年後であろうとダメだろう。

 だったら今日行こう。

 と言うか一年も待ってたら、妹成分が枯渇してマイナスに振り切れる。


 さて。


 紙に書いてあるには、異世界への通路はクローゼット内側の鏡とのこと。

 そこにマナを流し込むといいらしいが......


「お?」


 変化はすぐに表れた。

 俺の姿を映していた鏡がみるみる黒ずんでいき、何も反射しない、真っ黒な闇へと姿を変える。

 手を入れても痛みはないが、水に手を突っ込んだような変な違和感がある。

 トプン、って感じだ。音はしないけど。

 ちょっと怖い気もするが、ウジウジしてても何も始まらんし。


 ――よし、行くか。


 一気に身体ごと飛び込んでみる。

 周りが真っ暗闇で戸惑ったが、少し顔を前に動かすと別の景色が目に飛び込んできた。


「お邪魔するわよ~」


 窓から差し込んだ光が、部屋を照らしている。

 こじんまりとした部屋だ。正面にはベッド、右を向くと小さな机に小窓、左を向くと――

 

「おはようございます」

「うぉう!?」


 背筋を伸ばして佇むマヤがいた。


「いきなり驚かすな……し?」

「どうかされましたか?」

「いや、どうっていうか......」


 別に、某市の非公認ゆるキャラの語尾を真似したつもりは微塵も無い。

 いや、そんなのはどうでもいい話だな。

 正直、また斬りかかって来るかも、なんて心配事も、今となっては後回しだ。

 だって、俺の目の前には――


「マヤ……何でネコミミとシッポがあるんだ?」

「ッ!?」


 コスプレなんて可能性は、絶対に無い。

 俺が言及した瞬間、耳も尻尾もピンと跳ね上がったからだ。

 

 マヤの顔色が、みるみる青くなっていく。

 その表情は、どう見ても恥ずかしがっているようには見えない。

 絶望に叩き墜とされたかのような、そんな反応。

 ヤバイ、とんでもない地雷を踏んだぞ、コレ。


「わ、悪いっ! 変な事――」

「何故! 何故見えるのですか!?」

「ぬわっ!?」


 頭が揺れる程の勢いで掴みかかって来るマヤ。

 だが表情も含めて、そこに相手を威嚇しようと言う気持ちは一切感じられない。

 まるで何かを恐れている、そんな感じに見えた。


「そう言われても……ついさっきから見えるようになったから、俺も驚いててさ」

「さっき……?」

「あ、ああ。……あ」


 焦って本当のまま伝えたけど、これ信じて貰えるのか? 

 俺自身、このタイミングで見え始めた理由が分からないと言うのに……


 昨日の出来事以上に、冷や汗が噴き出して来る。

 が、


「なるほど、そう言う事ですか……」

「え? 信じるのか?」

「嘘だと、そう言うのですか?」

「いや、嘘じゃないけどさ……」


 俺がエルフじゃないかと言う嫌疑に関してもそうだけど、マヤの納得する理由が分からない。

 俺自身の事なのに、俺の知らない所で話が進んでたりしたのか……?


 マヤは掴みかかっていた両手を力なく離し、鏡と向かい合わせに置いてあるベッドに座る。

 マヤの軽い身体が、ベッドの反発力に押されてボンと跳ねた。


「お嬢様には、伝えているのでしょうか? 他の方には……」

「だから言っただろ、さっき見え始めたばかりなんだ」

「そう、でしたね……」

「……」


 森の中で出会ったマヤであれば、この程度の事は考えるまでも無いはずだ。

 頭が回っていないと言う事は、つまりそれだけ精神的なショックが大きかったと言う訳で。

 

 ……聞いて、いいのだろうか?

 いや、この流れで聞かないのは逆におかしい。

 マヤの様子を見る。大丈夫……そうか?


「それで……何で、耳と尻尾が?」

「何で、ですか。そうですね、あなたは無知なのでしたね、ハルト」

「あ、いや、話しにくい事なら――」

「いいですよ、話しましょう。周りの方に尋ねられては、それこそ困りますからね」


 そう言ってから、マヤは静かに息を吐く。

 少し間を開けた後、ゆっくりと口を開いた。


「私は、異人なのです」

「イジン? え、じゃあエルフと――」

「エルフは亜人、私は異人です。異人については、魔術により姿が変わってしまった人間、と言うと分かりやすいでしょうか」

「え、つまりマヤは元々――」

「はい、そうですよ。生まれた時は、普通の人間でした」

「そう、か」

 

 大変だぞ、俺。

 これは……予想以上に重い話になる予感……


「私……と言うより殆どの場合の異人は、禁忌の魔法に失敗して元に戻れなくなった、そんな存在なのですよ」

「禁忌の魔法……!?」

「許可の無い者の使用が判明すると、普通は記憶を奪われて牢屋行き。私の場合は偶然助けられまして、のうのうと生きていますが」

「な、なんでバレないんだ?」

「助けられた時に、これを渡されたのですよ」


 そう言って、マヤは森の中でもしていた髪留めを指差す。


「これをしている限り、誰にも耳や尾は見えない……はずだったのですが」

「俺には見えてしまった。と言うかもしかしなくても、アリスにはこの事を――」

「ええ、伝えていません。お母様であるアイラ様には、偶然の出来事で知られてしまいましたが」

「……」


 歪な感情ではあるものの、あそこまで強く入れ込んでいたアリスにさえ伝えていない事実。

 いや、入れ込んでいるからこそ、か。

 この事がアリスにバレたとしたら、どんな反応をされるか。

 例えアリスなら受け入れてくれると信じていても、考えただけで恐いに違いない。


「他に何か、聞く事は」

「い、いや、もういい。これ以上は俺の精神力が持つ自信が無い」

「そう、ですか」


 小さく息を吐く真耶。

 が、少しすると立ち上がり


「申し訳ございませんでした」


 改まった様子でマヤが深々と頭を下げた。


「え、な、何だ?」

「理由があったとは言え、私を、そしてお嬢様を助けてくださった御仁に非礼を働いた事。加えて、その謝罪が遅れた事。深く、深くお詫びします。何か罰を与えると言うのであれば、何なりとお申し付けください。甘んじて、お受けします」


 それは、腰を90°まで折った深い謝罪の姿勢。

 俺はマヤの謝罪を黙って聞き入れる。

 こういうのは、ちゃかさずに正面から受け止めるのがマナー......なんだと思う。ただ。

 

「もう、襲い掛かって来たりはしないのか?」

「はい、疑いは晴れましたので」

「俺が、その、ええっと……」

「異世界出身者と言う話ですね、それも理解しています」

「そう、か……」


 どうやら、本当に俺の事情については納得してくれているようだ。良かった。


「だったら、今の所は要望も特に無し。しいて言えば、フランクに接してほしい、って感じだな」


 目の前の問題は解決したし、罰ウンヌンについては別にいいかなと思う。

 何より、あんな過去を話されたばかりなんだ。

 ここで何か要求するとか、まるで悪者みたいで嫌じゃないか。


 ……まあ正直、その猫耳と尻尾は触ってみたいが……流石に言えんでしょ、ねえ?


「はあ。まあ、それで良いのでしたら……」


 どこか拍子抜けしたような声を出すマヤ。

 が、俺の言葉は伝わってくれたようだ。

 その証拠に、再びベッドに腰を降ろしたマヤのには緊張した様子が無かった。


「それにしても、今後はどうすれば……」


 と、窓の外を眺めながら呟くマヤ。

 諦めと苦悩が混じったような、そんな表情だ。


「どうって、何がだ?」

「いえ、周りの方には見えないとは言え、ハルトにはこの耳と尾が見えるのでしょう」

「まあ、多分そうだろうな」

「尾はどうにか隠せそうですが、耳を隠すとなると……」

「え?」


 ドユコト? え、つまり?

 あのミミとシッポは俺に見えないよう、隠してしまうと? 拝めなくなると?


「なあ、マヤ」

「なんですか、ハルト」

「さっき言ってた要望なんだけど……『そのネコミミとシッポを隠さない』ってのはアリか?」

「分かって……え?」


 部屋から音が消える。

 マヤは俺の顔を見たまま暫く硬直するも、少し視線を落としたかと思うと、何かを吐き捨てるような声で力無く笑い始めた。


「……なるほど、そう言う事ですか。罰を与えると言う意味では、あなたも中々良い選択を――」

「違う違う、俺はネコミミが素晴らしいと思ってて……って言っても、すぐには納得できないか」


 マヤが言っている事も分かる。

 異世界の人間にとってネコミミは落ちこぼれの象徴であり、それを晒す事でどんな目を向けられるかは言うに及ばず、だ。


 だが現状において、マヤのネコミミとシッポが見えているのは俺だけ。

 つまりマヤが納得しさえすれば万事OK!

 転移者が地球の知識で異世界人を驚かせる、これぞ異世界モノの展開!

 テンション上がって来たぜよっ! 


「良いかねマヤくん!? 頭から覗いたネコミミは、可愛いの象徴! 感情に合わせて動くシッポは、見る者に癒しを与える! それがネコミミ属性と言うものだ!」

「ッ……属性、等と言う言葉は理解出来かねます、それにあなたの世界ではこの耳と尾は一般的なのかもしれませんが、こちらの世界では――」

「ノンノン! 俺の世界には、耳やら尻尾が生えた人間は誰一人として居ない!」

「……は?」

「人は仮装してまでも、それを求めようとする! しかし今! 目の前に居る天然ネコミミ少女は、それを隠そうとしている! ネコミミ属性を、自ら手放そうとしている!」

「え、ええ、と――」

「ネコミミは希少価値だ、ステータスだ! それを すてる なんて とんでもない!」


 一人のオタクとして気持ちを滾らせる俺に、マヤは完全に気圧されていた。

 無音。まるで、時間が止まったと感じる程。

 それでも時の流れを感じられたのは、時計の針がその音を刻んでいたお陰。


 やがて、またマヤが力の無い笑い声を上げる。

 表面上は似通って聞こえても、それは安堵から来る笑いなんだと直ぐに分かった。


「分かりました。答えましょう、その要望に」

「いよっし! サンキュー マヤ、恩に切る!」


 やったー、天然ネコミミを拝めるぞーい!

 ミヨと再会出来なかったのは残念だけど、これは嬉しい誤算!

 僥倖っ・・・! 何という僥倖・・・!

 感謝っ・・・! 圧倒的感謝っ・・・!


「私とは別の世界から来た者、ですか。確かにそうかもしれませんね」


 喜びで跳ねる俺を見て、マヤは口元を緩める。

 身体を囲むようにして巻き付けた尾が、その手に優しく触れていた。

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