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3人のとある使用人のお話


番外編二つ目、モブ使用人から見る三兄妹です。



 


 ○とある執事見習い○



 王国に住む貴族の内、唯一女神の生まれ変わりが生まれる家系ヴィトケンシュタイン公爵家。そこで執事見習いをしています。運命の女神フォルトゥナ、愛の女神リンナモラートの姉妹神を崇めるこの国は、稀に女神が人間の願いを叶えてくれることで有名です。

 そんな国で唯一女神の生まれ変わりが生まれるヴィトケンシュタイン公爵家には、今正にその生まれ変わりがいる。



「お嬢様、おはようございます」

「おはよう」



 ファウスティーナお嬢様。今年8歳になる公爵家の長女。女神の生まれ変わりの証である空色の髪と薄黄色の瞳。男性なら稀に生まれるらしいが女性となると生まれる可能性は極端に低くなるらしい。

 僕が公爵家の執事見習いをしているのは、執事長を務めるのが僕の祖父だから。代々公爵家に仕えるアンダーソン男爵家とは遠縁にあたるので、長男であるケイン様の専属を務めるリュンとはよく愚痴を言い合う。

 というのも、この家――中々に濃い人達が多い。


 朝の挨拶をしたファウスティーナお嬢様もその1人。女神の生まれ変わりは、必ず王族に嫁ぐのが決まりとなっているので、お嬢様には生まれた時からの婚約者がいらっしゃる。王国の王太子ベルンハルド=ルイス=ガルシア殿下だ。僕は今でも覚えている。

 お嬢様は王太子殿下との顔合わせの日、突然倒れた。一瞬にして室内は騒然となったのは記憶に新しい。その後高熱を出して非常に心配されたが、幸いにも熱は下がり、後遺症もなく今は元気に過ごされている。


 が。

 ファウスティーナお嬢様は……なんというか、倒れてから変わられた。

 まず、奥様に対し、なんというか……どうでも良さそうな態度をされる。前までは、お嬢様にだけ勉強だのレッスンだのを強要する割に妹君であるエルヴィラお嬢様だけ甘々なのを何度も噛み付かれ、その度奥様は凄い勢いで叱りつけていた。将来王妃になるのだから、遊んでいる暇はお嬢様にはなくて当然だと。

 あんまりだと思った。お嬢様はまだ7歳。4歳から公爵令嬢としての教育が始まり、1度も授業をサボらず頑張っているのに。偶に終わった後、家庭教師と遊んでいたりもしたが。

 奥様がファウスティーナお嬢様に対し、理不尽極まりないからエルヴィラお嬢様も姉であるファウスティーナお嬢様を下に見るのだ。

 ……まあ、倒れてからは奥様だけでなく、エルヴィラお嬢様に対しても無関心になってるけど。奥様と庭でお茶をしても、可愛いドレスを買ってもらったと自慢してもファウスティーナお嬢様は適当な返事と相槌を打って終わらせている。


 ほんのちょっと見ない間にファウスティーナお嬢様が大人になられた……!



「今日は王太子殿下がいらっしゃいますね。楽しみですねお嬢様」

「え゛……う、うん! トッテモタノシミ!」



 婚約者の王太子殿下は、倒れたお嬢様を心配してかなりの頻度で訪問していらっしゃる。倒れる前のお嬢様は王太子殿下に会うのを毎日楽しみにしておられた。でも、今は会うのを嫌がっている。殿下が来る日は必ず前以て知らされるのに、当日になると絶対に逃げ出す。で、お嬢様付きの侍女リンスーが追い掛け回している。


 成功の日と失敗の日がある。

 成功の日は、殿下は満足げに帰って行くが失敗の日はしょんぼりと落ち込んだ様子で帰って行く。因みにリンスーがお嬢様を追い掛け回している最中、必ずと言っていいほどエルヴィラお嬢様が来る。じいちゃんや他の人がやんわりと此処に来てはいけないと説明しても、聞く耳を持たないエルヴィラお嬢様は殿下の隣に座り話し始める。殿下も婚約者の妹を蔑ろには出来ないので話し相手になっている。僕達が不甲斐ないばかりに、幼い殿下に気を遣わせて申し訳ないです……!

 なので、ファウスティーナお嬢様には、逃げずにちゃんと来てあげてほしい。殿下はファウスティーナお嬢様が来るのをとても楽しみにして待っているから。

 奥様に止めてもらうようお願いしても効果なし。まあ、エルヴィラお嬢様に甘々な奥様じゃ無理か。旦那様にもお願いしたが、じいちゃんによると奥様が庇われたせいで効果なし。ケイン様も幼いながら、自分の妹をしっかり叱りつけた(……とても8歳に見えないのは何故なんだろう)

 が、全く懲りてないのを見ると結果は無駄に終わった。


 ファウスティーナお嬢様が全く気にしていないから、……良いのかな?



「それか、王太子殿下がビシッと言ってくれたら……」と言いながら殿下もファウスティーナお嬢様と同じ7歳。無茶な願いを抱いちゃいけないな。


 ファウスティーナお嬢様と別れた僕は自分の仕事に取り掛かった。


 今日こそは逃げずに殿下と会ってあげてくださいと願いながら。



 ――願いがある意味で叶ったと知ったのは、カインに首根っこを掴まれて項垂れる葉っぱまみれなファウスティーナを目撃してである。



 ーEndー





 ○とある使用人○



 1年前からヴィトケンシュタイン公爵家の使用人として働き始めた私の仕事は多岐に渡る。掃除、買い物、お使い、公爵家の方のお世話等。他の家はよく知らないが此処の待遇はかなり良い。交代で定期的なお休みは頂けるし、お給金も高い。使用人同士の仲……は、悪くない。

 曖昧な言い方になってしまったのは訳があります。



「お嬢様のリボン可愛いらしいですわね!」

「ふふ、この前わたしに似合うってお母様が選んでくれたの!」

「さすが奥様ですわ!」



 ロビーを箒で掃いていると公爵家の次女エルヴィラお嬢様が2人の侍女を連れてやって来た。真っ白なフリルドレスを着たエルヴィラお嬢様は、絵本に出てくる愛らしい妖精そのものだ。先程から侍女達が絶賛するピンク色のリボンは黒髪に結ばれており、更に可愛い。奥様似で将来美女になること間違いなしのエルヴィラお嬢様の機嫌は絶好調で安心だ。

 不機嫌だとずっと拗ねた表情をしておられ、私達が何を言っても聞いてくれない。唯一、信頼しているトリシャの言うことなら聞く。後は奥様や旦那様、兄君であるケイン様。姉君のファウスティーナお嬢様の言うことはほぼ聞かない。寧ろ、自分がしでかしたことをファウスティーナお嬢様のせいにすることがままある。

 目撃者は私達使用人。普通なら悪さをしたエルヴィラお嬢様を叱らないといけないのに、エルヴィラお嬢様の泣き声を聞いて駆け付ける奥様はいつもファウスティーナお嬢様を叱る。リンスーや他の使用人が違うと言っても、エルヴィラお嬢様付きの侍女達が嘘の証言をし、そちらを鵜呑みにする奥様はそれ見たかと言わんばかりに更に叱る。


 いくらファウスティーナお嬢様が将来王妃になる特別な存在だとしても、何をしても誉めずに叱るだけなのは違う。奥様は誉めたらファウスティーナお嬢様が駄目になるとでも思っていらっしゃるのではないかと不安になる。誉めている場面を私より長く務めているリンスーは見たことがないと零す程。

 けど、それも今ではファウスティーナお嬢様が謎の高熱で倒れて以来無くなった。何故か分からないがファウスティーナお嬢様は、急に奥様やエルヴィラお嬢様に無関心になられた。無理をしている様子は一切ない。

 挨拶や必要最低限会話が必要な時は声を交わす。でも、それ以外で話し掛ける様子はなくなった。


 そうなってから急にファウスティーナお嬢様に優しく? なり始めた奥様だけど、庶民の目から見ても既に手遅れだ。世の中の子供全員が無条件に母親を好きでい続けると思ったら大間違いだ。


 エルヴィラお嬢様に対しても無関心なので彼女側の侍女からの評判は良くない。前からファウスティーナお嬢様派とエルヴィラお嬢様派で表面化はしてないが色々あったので。勝手に筆頭に立たされているリンスーとトリシャが少し可哀想だが、2人はそれぞれ専属を長く務めているので仕方ない。


 エルヴィラお嬢様一行が近くに来たので軽く(こうべ)を垂れた。過ぎ去るとまた箒で床を掃き始めたのだが。



「お姉様」



 掃き掃除をしながら盗み見た。一行の先にファウスティーナお嬢様とリンスー、あら珍しいカインもいる。3人は両手に本を抱えていた。ファウスティーナお嬢様は3冊、リンスーは大体5冊、カインは更に2倍の10冊。厚みはバラバラだけど中には辞書並に分厚いのもある。



「何ですか、その本の量は」

「これ? 一昨日書庫室から持って来てもらった小説や参考書だよ。もう全部読んだから戻しに行くところ」



 あれ全部を2日で!? 



「使用人がする仕事を自分からするなんて……。ベルンハルド様の婚約者である自覚がありますか?」



 なんでそこで王太子殿下が出る?



「自分でも出来ることを率先してやることが何が悪いの? それに、ずっと部屋に籠ってばかりいても体に悪いから、こうやって外に出て体を動かすのも大事よ。いざという時、体力がなくて困るのは自分なんだから」

「お嬢様はある方が困りますけどね……」



 ……リンスーの気持ち、すごく分かる。王太子殿下が来る度に毎回逃げるファウスティーナお嬢様を追い掛け回しているから。

 うぐっとダメージを食らったファウスティーナお嬢様は気まずそうにリンスーを見上げるも、話を誤魔化そうとカインに話を振った。



「カインも手伝ってくれてありがとうね! 自分の仕事は良かったの?」

「はい。丁度、手が空いていた所なので。こういった力仕事はファウスティーナお嬢様にはまだ早いですよ」

「何でも早くから準備をしなきゃ、遅くなってからやったんじゃ手遅れだもの」

「そうですか。書庫室に運ぶ本の殆どが、平民についての生活が書かれた本なのはどうしてですか?」

「王妃様に平民の人達の生活を知るのも、王妃には必要だって言われたから。私もすごく興味があったしね。本棚に戻し終えたら、また新しい本を探さなきゃ」

「でしたら、幾つかオススメの本がありますので運び終えたら部屋まで運びましょう」



 高熱を出して倒れて以来、ファウスティーナお嬢様は変わった部分が多いけれど、変わっていない部分も多い。

 平民の生活に興味を示した理由は尤もらしいが、多分ファウスティーナお嬢様自身元から興味が強くあったのだろう。本から知識を得て、また新たな知識を得ようとする姿勢は将来人の上に立つ者には必要な要素。

 使用人相手にもフレンドリーに接してくれるファウスティーナお嬢様と――



「わ、わたしが出来ないからそうやって馬鹿にするのですね!」

「へ?」

「エルヴィラお嬢様、ファウスティーナお嬢様はそのようには一切仰有っていませんよ。考え過ぎです」



 よく分からない所で怒りの値を急上昇させて怒るエルヴィラお嬢様とでは、断然私はファウスティーナお嬢様派である。

 突然怒りだしたエルヴィラお嬢様に困惑しつつも、側にいる侍女達に奥様の所へ連れて行ってあげてと言い残しファウスティーナお嬢様達は書庫室へ向かわれた。

 うわーん! と両手で顔を覆って泣き始めたエルヴィラお嬢様に慌てつつ、1人は奥様を呼びに走った。私も掃き掃除をしている暇ではなくなった。


 絶対これ、後でファウスティーナお嬢様が奥様に叱られるパターンのやつじゃない! リンスー、カイン! 必ずファウスティーナお嬢様を庇ってね!



 ――その後私の予想はある意味当たった。泣き声を聞き付け、駆け付けた奥様に縋りついたエルヴィラお嬢様がお姉様がと訴え、碌に理由も聞かずファウスティーナお嬢様を呼べと叫ばれた。丁度そこへ、枕代わりにしても十分寝れる厚さの本を両手に抱いてケイン様が登場。書庫室でファウスティーナお嬢様達と会って話を聞いており、心配になってロビーへ来たのだとか。



「リンスーやカインにも聞いた。ファナは何も悪くありませんよ母上。エルヴィラが泣いてファナの名前を出すからと言って、何でもファナのせいにしないでください」

「ケインっ、私はそんなつもりじゃ……」

「母上が自分そっくりなエルヴィラを可愛がるのは勝手ですが、後々困るのはエルヴィラなんです。6歳だからは言い訳にはなりません。同じ歳でも、エルヴィラよりちゃんとした令嬢は下位貴族にだっていますよ」

「あ、あんまりです! お兄様!」

「そう思うなら、こんな下らないことで泣いてないで家庭教師の先生とちゃんと勉強するんだ。ファナはおっちょこちょいで間抜けなことするけど馬鹿ではないんだから」



 ……ケイン様、それって褒めてますか?

 8歳ながら、跡取りの自覚がある故なのかケイン様は子供なのに精神年齢が既に大人だ。見た目は子供、中身は大人と言っても過言ではない。阿呆なことを言ってしまうが稀に年齢を誤魔化しているのではないかと疑う。そんな訳ないけれど。

 言うべきことを言ったケイン様は、更に泣き叫ぶエルヴィラお嬢様に見向きもせず屋敷の奥へ行ってしまわれた。


 ……私、何時までロビーを掃いていたらいいかな。気まずいけど話を聞いていた野次馬根性のせいで今暫く掃き掃除を続けました。



 ーEndー




 ○とある侍女○



 明後日、あたしが仕える公爵家の長女であるファウスティーナ様の8歳の誕生日を迎える。旦那様に欲しい物を無事リクエスト出来たとリンスーに嬉しげに話すファウスティーナお嬢様の笑顔は、お日様のように暖かく愛らしい。

 社交界でもトップクラスの美貌を持つ奥様と優しげで暖かな雰囲気が素敵な旦那様の血を引くのだから当然と言えば当然。ファウスティーナお嬢様の兄君ケイン様は、髪や瞳の色、顔立ちも奥様譲り。滅多に笑われないがふとした時に見せる微笑は旦那様に似ている。ケイン様の笑みを見ると、その日は幸運になるらしい(ファウスティーナお嬢様談)。また、妹君であるエルヴィラお嬢様も奥様に似ている。というか、そっくりだ。耳の形が旦那様にそっくりな以外奥様の遺伝子が勝っている。

 対して、ファウスティーナお嬢様はというと……髪と瞳の色は旦那様と同じだけれど、顔はどちらともにあまり似てない気がする。細かい部分を探せばあるのだろうけど、仕える家のお嬢様をじろじろと見る訳にもいかない。性格で言うと奥様なのだろうか。ファウスティーナお嬢様は謎の高熱で倒れるまで、エルヴィラお嬢様に対する不満を毎日奥様にぶつけていて、それに対し奥様は倍にして怒鳴り返していた。あまりにも酷い時には頬を叩いていたりもしていた。

 ファウスティーナお嬢様に期待する気持ちが大きすぎるのだろうけど、小さな子供に求めることじゃない。理由は違えどケイン様やエルヴィラお嬢様を叱ったりはしないのに……。

 謎の高熱で倒れて以降は、なんというか、奥様やエルヴィラお嬢様に対し無関心になられた。他の皆は心配しているけど、あたし個人としてはこれはこれでいいのではないかと思っている。こんなこと口に出せないけど、きっと待ち続けても奥様はファウスティーナお嬢様が期待するものは与えてくれない。なら、いっそ自分から離れて広い視野を持って探せばいい。幸いにも旦那様は3人の子供達を平等に接せられている。両親ともにアレだったら最悪過ぎる。


 今は午前の休憩。使用人の休憩室でクッキーを食べている。紅茶はティーポットに入ってあるのが無くなったら自分で淹れないといけないが飲み放題なのが嬉しい。運のいいことに今の休憩はあたししかいない。ちょっとだらしないが足を思い切り伸ばした。慣れたとはいえ、毎日の立ち仕事は疲れる。

 すると――


 コンコン、と休憩室がノックされた。態々ノックをして入る部屋じゃないのに……。ゆっくりと開いた扉の隙間から、ひょっこり顔を出したのはケイン様だった。あたしはすぐに立ち上がり駆け寄った。



「ケイン様。どうなされました?」

「リュンを探してるんだけど、此処に来てない?」

「いえ、先程からあたし1人です」

「そう。邪魔したね、ゆっくり休憩するといいよ」



 ケイン様ってホントに8歳? 大人顔負けの口調だよ……。



「リュンを探して来ましょうか?」

「いや、いい。持って来てほしい本が沢山あるから手伝ってほしかっただけ」

「なら、あたしがお手伝いします」

「休憩中の使用人を使う程困ってないよ」

「いえいえ、そういったことはあたし達の仕事ですのでお気になさらず。メモはありますか?」

「じゃあ、お願い。ここに書いてあるのを俺の部屋でまで持って来てほしい」

「畏まりました」



 メモ用紙を受け取ると「頼んだよ」と言い残しケイン様は部屋への道を歩いて行った。お給金分の仕事はしないとね。それに好印象を与えていれば、いつかいいことだってあるでしょう。

 途中、厨房からカートを借り、メモを持って書庫室を訪れた。本のタイトルと置いてある棚の番号を頼りに上を見ながら探す。

 異国の言語を学ぶ辞書がある本棚から目当ての本を探していると下から「何を探してるの?」と声が。

 見るとファウスティーナお嬢様がキョトンとして見上げていた。



「ああ、ファウスティーナお嬢様。ケイン様に頼まれた本を探しております」

「お兄様の? じゃあ、私も手伝うよ。お兄様が探してる本はどれかすぐに分かるから!」



 胸を張って自信満々に言い放ったファウスティーナお嬢様のところへ――



「お嬢様! ない胸を張ってないで早く準備をしましょう! 今日も王太子殿下が来られるのですよ!?」

「げっ! リンスー!? というか、ない胸で悪かったわね!」

「げっ、ではありません! あと、お嬢様にはまだ胸は必要ありません! さあ、行きますよ」



 きっとファウスティーナお嬢様を探し続けていたのだろう、髪が乱れているリンスーが怖い形相をしてやって来てそのまま連れて行かれた。うわーん、と涙目なファウスティーナお嬢様にバイバイと手を振られたので、つい振り返してしまった。

 ……専属って、責任や仕事が増える分お給金増えるから憧れてたけど、無理かも。王太子殿下が来る日になる度逃げ回るファウスティーナお嬢様を捕まえるのも大変そうだし。

 これがエルヴィラお嬢様なら、逃げもせず、喜んで準備をして待っているのに。ただ、いくら姉の婚約者と言っても相手は王太子で、子供でも良い気分じゃない筈。ずっと王太子殿下に会うのを楽しみにしていたファウスティーナお嬢様が何故今会うのを嫌がっているのかを知るのは誰もいない。



「……あ、考えてないでケイン様の本を探さないと」



 再び本探しを始めた。

 メモを頼りに何とか書かれている本全部を見つけ、カートに乗せて部屋を目指した。途中、陽気な顔をしたファウスティーナお嬢様と出会した。本が無事に見つけられて良かったと安堵されてしまうが、此方は逆に今は王太子殿下がいらしているのでは? と突っ込んだ。触れてほしくなかったようで隙を見て逃げてきたと冷や汗をダラダラ流された。

 それに、聞いてはないが「とても楽しそうだったから、行ったら邪魔になっちゃうしね」と呟かれた。ああ……またエルヴィラお嬢様が先回りしたのか。これもよく聞く。ファウスティーナお嬢様を待っている王太子殿下の所へ先にエルヴィラお嬢様が来ると。

 子供ながらに図太い神経の持ち主であるエルヴィラお嬢様を止められる者はほぼいない。



「リンスーに見つかる前に逃げなきゃ。またね」

「あの、以前カインに捕まってませんでした?」

「うぐ、そ、そうなんだ。カインに見つかって逃がしてくれると信じたら大間違いだった……」

「怒られる前に行った方が良いのでは?」


「――お嬢様?」

「「!?」」



 今聞こえてはいけない声が……。

 2人同時に振り向くと、笑顔なのに背後で怒れる炎を燃やすリンスーがいた。倍の冷や汗を流すファウスティーナお嬢様は観念し、諦めの涙を流しながらリンスーに連行されて行った。



「……大変ね」



 ファウスティーナお嬢様も、リンスーも……。


 ――この後、本をカートでケインの部屋へ送り届けた。途中、休憩室に入って行くカインを見掛けた。



「浮き足だってるね、屋敷の人皆。はは……3日後の朝、どんな顔をしてくれるんだろう。愉しみで仕方ない」

「いなくなったと知った時の反応が見れなくて残念だけど、仕方ないよね。取り敢えず『ピッコリーノ』に着いて、ある程度落ち着いたら始末してお嬢様を連れてシエル様の所に行こうっと」

「運が良ければ、公爵家の警備問題を突いてシエル様が強制的に引き剥がせるかもしれないしね」



 誰もいない休憩室にて、掛けている眼鏡を外したカインの瞳は、触れたら大怪我を負ってしまう程鋭利な薔薇色だった……。





読んで頂きありがとうございます。

ももーにゃ様、この度は素敵なリクエストありがとうございました(*´∀`)


また、2章の最後に過去編の最後をちょっと前に追加しております。まだの方は是非!

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― 新着の感想 ―
[一言] SHIGERU様 これ異世界ものなので、現代の海外のマナー云々は野暮ですよ。
[気になる点] 他の作者でも多いのですが,ノックがコンコンとなっています。海外のマナーではノックは3回が基本です(2回はトイレの場合)。海外の映画で確認できますよ。
[一言] 改めて養母がクズ。 今世のベルンハルドはましだけど、4回分のクズがまとわりついて、好きになれない。。 ケインか、今のところ無害なクラウドとか、王子以外と結ばれて欲しい。
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