表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄まで~運命=呪い~
75/351

56 お迎え①


前話からの更新になります(*´∀`)


 


 教会へ行く当日――。

 何時もより30分は早起きして、身支度を整えたファウスティーナはくるりとリンスーの前で回った。今日は青色のワンピースを選んだ。大きな白い鍔の帽子を被り、もう1度回った。何度回っても同じだが気分が良い。天気は快晴、息苦しい生活から解放される。父や兄、リンスーといった仲良しな使用人達と離れるのは寂しいが自分が選んだ道だ。後悔はない。

 リンスーから見てもはしゃいでいると伝わっているのだろう、苦笑しつつ「帽子が落ちますよ」と頭からずれた帽子を直した。



「ありがとう。そうだ、月に1回は手紙を書くから返事ちょうだいね」

「もちろんです! お嬢様からのお手紙楽しみに待っていますね」

「うん」



 嬉しげに笑みを見せれば、リンスーも笑ってくれた。

 時計を見たリンスーに促され部屋を出た。

 玄関ホールに行くと迎え人は既に来ていた。



「やあ、ファウスティーナ様」

「司祭様」



 白と青を基調とした高貴な衣装を身に纏う、銀髪の男性が柔らかくファウスティーナに微笑んだ。天上人の如き美貌は、更に磨きが掛かって眩しい程の美しさを醸し出していた。とても上機嫌なのは何故なんだろうと疑問に思いつつ、にこりと微笑まれてファウスティーナも釣られて微笑み返した。

「王弟殿下はあんなにも美しい方だったのね……」「眩しい……」「存在自体がもう罪な人……」気のせいか何処からか使用人達の声がするがスルーに限る。ファウスティーナが足下まで行き、綺麗なカーテシーを披露すると目線が合うようしゃがまれた。



「これからお世話になります」

「そう畏まらなくていい。楽にしなさい」

「ふわあ……、……あのさ、帰っていい?」

「人の会話を邪魔しないの」



 欠伸の横槍を入れた相手をシエルがジト眼で睨む先には、柱に凭れて眠そうに再度欠伸をしたヴェレッドがいて。非常に眠そうだ。

 会ったら言おうと決めていたことがあった。



「司祭様」

「何かな? ファウスティーナ様」

「眠る前にハーブティーを飲むとよく眠れるそうですよ。あと、ホットミルクも効果的です!」

「?」

「??」



 前にヴェレッドがシエルに夜中叩き起こされて眠れないと愚痴っていたので、ファウスティーナは夜眠れる方法を本で探したり、リンスーに聞いて探したりしていた。誰でも簡単に実践出来る快眠作戦を自信たっぷりに伝えるも、肝心のシエルには首を傾げられたので自身もうん? となった。

「ああ……そういうこと」と1人納得したシエルに頭を撫でられた。立ち上がり、後ろを向いたシエルの表情は伺えない。ヴェレッドは面倒臭そうにまた欠伸をし、此方に来た。



「なんて顔向けるの」

「君の気のせいだよ。さて、私は公爵夫妻と話があるから必要な荷物を運ばせて」

「もう終わってるよ」



 ファウスティーナが持って行くのは着替えと装飾品、本、お気に入りの小物やシトリンに誕生日プレゼントで欲しがったコールダックのぬいぐるみ。荷物はリンスーに身支度を整えられている間にも運び込まれていた。その他に必要な物は全て以前書面に書いて教会に送られており、向こうで準備されている。

 公爵夫妻と名前が出て気付いたが、両親が見送りにいないのだ。エルヴィラやケインも。ファウスティーナはシエルを見上げた。



「お父様達とどのようなお話をされるのですか?」

「気になるかい?」



 シエルの話題が出ると過剰に反応する両親を不審に感じずにはいられない。



「ちょっとだけ」

「ふふ……いつか教えてあげるよ。でも今は内緒にしておこう。私もそこまで鬼じゃないよ」

「司祭様がですか? とても優しいのに」

「優しいから善人とは限らないよ。厳しいから悪人とも限らない。その定義に当てはまらない相手を……何人か知ってはいるけどね」



 帽子を取られ、大きな手が頭に乗った。とても暖かくて、優しい手。何度か撫でられると、帽子を戻され呼びに来た執事長に連れて行かれた。残されたファウスティーナはヴェレッドを見上げた。



「ヴェレッド様は行かないの?」

「うん? うん。今日のシエル様はとっても上機嫌だからね。不機嫌になることはないよ」

「確かに……。司祭様、どんな嬉しいことが?」

「内緒。自分で考えなよ。何でも教えてもらえると思ったら大間違い」

「……」



 言っている言葉は正しいが些か悔しい。むくれて見せるとニヤニヤとした笑みを浮かべられ、しゃがまれ頬を掴まれた。



「ははっ、変な顔。子供の顔ってもちもちしてて触り心地いいよね」



 太っていると言いたいのかと、非難の意を込めた瞳で見返した。



「太ってはないよ? でもさ、鶏の足みたいなガリガリよりある程度ふくよかな方が男は好きなんだよ? 健康的で」

「ひゃるほろ」



 世の女性は細身を好む人が多い。特に令嬢は。体型を保ち、美しくあろうとする意欲はすごい。将来、自分より家格が上の相手と縁談を結ぶ為容姿を磨く。太るのを嫌がる為か、明らかに不健康なまでに痩せている人もいた。前の記憶でも何人かいた。あれはあれで大丈夫なのかと、心配になったほど。


 ヴェレッドが手を離した。仕返しのつもりでヴェレッドの頬を掴んだファウスティーナは衝撃を受けた。



「……!!」

(す、すべすべ……!!)



 女性よりもすべすべした肌だった。凝視すると、ハリ、ツヤ、肌のきめ細かさ、どれも男性なのに高レベルで。シミもない、日焼けをしたこともないだろう白い肌。

 どのような食生活をしたら維持が可能なのか。ということは、である。ヴェレッド以上の美貌の持ち主であるシエルはこれ以上であるからして……。



「……司祭様とお父様達のお話が終わるまで、庭園を見に行きます?」

「俺はどっちでもいいよ。お嬢様が決めたらいい」

「……でしたら、行きましょう。我が家自慢の庭をお見せしますわ」



 教会での生活で身に付けたいのは、平民達の暮らしぶり、生活技術。最終目標は貴族学院入学までの婚約破棄。


 そこにプラスで美肌維持のコツを教えてもらおう。


 ファウスティーナはヴェレッドを庭へ案内しようと先を歩き始めた。ヴェレッドも着いて来る。

 途中ケインと遭遇した。驚いた様子のケインに問うと邸内を歩いていたのをビックリされただけだった。



「お兄様はお見送りには来てくれないのですか?」

「先に、父上達と司祭様の話があるからって言われてね。終わったら呼んでもらう予定だったよ」

「そうだったのですね。エルヴィラもですか?」

「勿論だよ。ファナは庭に向かってるの?」

「はい。案内しようと思いまして」



 あのまま玄関ホールにいたままも退屈。着いて歩くヴェレッドは眠そうだが足取りはしっかりしている。薄い反応でヴェレッドを見上げた後、再びファウスティーナに視線を変えたケインは帽子越しからそっと頭をポンポン撫でた。



「そう。話が終わったら、ファナのことを呼びに来るから、あまり奥には行かないこと」

「はい」



 会話を終えるとケインは奥の方へ行ってしまった。こっちだよ、とファウスティーナは庭まで案内した。季節によって咲く花は違ってくる。庭師が丹精込めて育てた花を眺めるのが大好きだったが、当分の間はお預けとなると寂しい気持ちがあった。子供と大人。歩幅が必然と違ってくる。ファウスティーナの歩幅に合わせてヴェレッドは歩いてくれる。

 何でも教えてもらえると思ったら大間違い。先程ヴェレッドに言われた台詞、聞かないと分からない話だってやっぱりある。



「司祭様とお父様達はどんな話をされているのでしょうか?」



 答えてくれないのを分かりながらも訊いてしまった。



「……さあ。俺には関係ないから興味ない」

「そうですか……」



 今度は本人の興味の問題だった。



「気になる?」

「ま、まあ、多少は」

「ひょっとしてさ、シエル様の名前出したら公爵夫妻の様子が変わるから?」

「え、分かりますか?」

「うん。ふふ、向こうの気持ちは分からないでもないけどさ、自業自得だよ」

「よく分かりませんがお父様達と司祭様は仲が悪いのですか?」

「仲が悪いというか、シエル様に嫌われているというか」



 誰に対しても優しそうなあのシエルに嫌われている?

 一体何をしてしまったのだろうか。これ以上の詮索は、自分が踏み込んではいけない気がしてファウスティーナは訊かなかった。




 ――シエルと公爵夫妻の話が終わったのは、それから15分後だった。





読んで頂きありがとうございます。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新がないので、凄くさみしいです。お忙しいとは思いますが、是非、続きをお願いします。
[良い点] 鏡の前でくるくる回るファナがとても可愛らしいです( *´꒳`* ) 最愛の娘とようやく一緒に暮らせるシエル様、嬉しそうで何よりです。ヴェレッドのスベスベ肌…羨ましい…何食べてるんだろう… …
[良い点] 気になるのが他の貴族、特に当主夫妻達がどう考えているのかです 彼らは女神の写し身と王家の婚姻は王国の正統性、根底そのものであると知ってはていると思いますが、数百年ぶりともなればどこまで理解…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ