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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄編ー最後にわらった人ー
349/353

出発①

 



 ケインの提案でお茶の場所をケインの部屋に変え、運ばれたお茶を飲むファウスティーナは隣に座るケインを一瞥し、移動する前にヴェレッドを追い掛けて行った理由を訊ねてみた。泣いているエルヴィラをリュドミーラが慰めている光景を見つつ、場所を移動しようと言った本人はヴェレッドを追い掛けて行ったのを見た時、自分も追い掛けようとしたのを止めた。自分、若しくは2人がいても問題ない話なら追い掛けず呼び止めていた。そうしなかったのは聞かれるのは宜しくないと思ったからだ。


 ファウスティーナの予想は当たっていた。



「あの人にお祖父様が実際どうなっているか聞いたんだ」

「お祖父様の?」

「うん。父上がファナを領地へ送るのを躊躇しているのは、お祖父様が原因とは分かってるね?」

「はい」

「あの人が言うに、お祖父様はかなり大人しくしてるってさ」



 詳しく理由を知りたいと話せば、幾許かの沈黙が降りた後、ケインは「秘密だよ?」と前置きして『リ・アマンティ祭』を襲撃した『女神の狂信者』は祖父オールドが手引きしたものと教えられた。正確に言うと『女神の狂信者』を語った偽者であったが危険な目に遭わされた点は変わらず、彼等の裏に祖父の存在があったと知らされたファウスティーナは大きな衝撃とショックを受けた。連中の狙いは紛れもなくファウスティーナ自身であった為尚更。シエルに毒薬を掛けた女性ニンファは、周囲の目を向けさせる為に引き入れられた捨て駒に過ぎなかった。



「お祖父様がどうして……私が『女神の生まれ変わり』だからですか?」

「それもあるが……薄々感じてるでしょ? お祖父様は、アーヴァ様に似たファナを欲したんだ」



 実の妹たるエルリカにアーヴァを生ませた祖父オールドの欲は、アーヴァに似たファウスティーナにも手を伸ばした。魔性の令嬢と言われたアーヴァの魅力に憑りつかれたのもあるが、元々欲深い人間がより深い欲を出したが為に——最後は破滅してしまった。



「お祖父様が黒幕だと知ったあの人が先代司祭様と一緒にお祖父様を咎めてくれたんだって」

「だから、お祖父様が大人しくなっているということですか……」

「ああ」



 知らされた事実と現状に複雑極まる思いを抱くも、逆にファウスティーナはオールドがその様な状態なら領地行についても前向きに検討されると期待した。ヴェレッドは城に帰ってきっとシエルやオルトリウス等に話してくれる。



「司祭様達からお父様にお話が行けば、私とお兄様の領地行は叶えられそうですね」

「だね」



 結果が分かるのは早くても明日以降。良い結果になりますように、と心の中で祈りながらお茶の続きを再開した。


 


 ——2日後。昨日と合わせて今日も多忙なシトリンに呼び出されたファウスティーナとケインは書斎へと来ていた。数冊の本をクラッカーに渡していたシトリンが「来たね、2人とも」と気付き、手招きで2人を自身の側へ寄せた。



「ファウスティーナ、ケイン。2人が希望していた領地行についてだが、正式に認める事にした」

「本当ですか!?」

「うん」



 2日前ヴェレッドに話した甲斐があった。ファウスティーナは初めて行く領地に心躍らせ、共に行くケインと喜びを分かち合いたくて横を向いた。



「良かったですね! お兄様!」

「俺よりもファナの方が嬉しいんじゃない?」

「はい!」

「そっか」 

「ただ、前にも言った通りファナが領地へ行くなら幾つか条件を付けられた」

「条件ですか?」



 教会で暮らしていたのと同様で王都を離れる事となる。教会には王家の目や腕利きの護衛がいた為滞在を認められた。ヴィトケンシュタイン領となると王家の目はなくなり、護衛も自ら用意しないとならない。



「シエル様が出した条件だと、シエル様が選んだ護衛を同行させる事になった」



 誰が? と聞かずとも相手は分かっており、誰だか予想がついているとファウスティーナが言うとシトリンは分かっていると頷いた。



「王家主催の行事には必ず参加だけれど、頻繁に行われるものじゃない。2人でゆっくりしてきなさい。あ、ただ」



 シトリンは領地に滞在する期間は貴族学院入学までと2人に告げた。



「領地から通学するのは、移動や時間の問題で難しい。先にケインが戻ることになるだろうけど、それだけは頭に入れておいてほしいんだ」



 ファウスティーナが繰り返してきた中でも教会から通学した過去はなく、どの回においても王都の屋敷から通学していた。



「父上。母上やエルヴィラにはもう話しましたか?」

「これから話すところだよ。反対されると思うけど、ファナとケインが望んだことなら納得してもらえるよう説明するよ」



 エルヴィラについては反対どころか賛成されるだろうがリュドミーラはどうなのだろう。ファウスティーナが教会で暮らすとなった当初も反対していた。



「お父様。エルヴィラは今後王太子妃教育を受けることになりますか?」



 “運命の恋人たち”に選ばれてしまった以上、エルヴィラにはベルンハルドの婚約者となる資格が大いにある。が、王太子妃になれる素質があるかと問われれば——答えは否、となる。現状のままでは誰にも認められない、この後エルヴィラに今後の事を話すとシトリンは言うが表情は薄暗く、上手く纏められない未来が見えてしまう。


 話は終わり、書斎を後にしたファウスティーナとケインは書庫室に入った。



「私が今まで公爵家を追放された後、エルヴィラは王太子妃教育を受けていたんですよね?」

「受けていた()()、だよ。はあ」



 だけ、という2文字を強調した後溜め息を吐いたケインを見るだけで光景がありありと浮かぶ。ファウスティーナがもっと早く婚約破棄され、自分が婚約者になっていれば苦しむ事も追い込まれる事もなかったと恨み節が炸裂してばかりで後は泣き出して時間を無駄にして終わっていた。



「他国の話になるけど、成人間近になって王太子妃になると決まり短い期間で教養を身に着けた妃も実在する」



 そういう場合は本人が持っている素養と努力と集中力、勉学に励めるかの性質を持っているかで決まる。エルヴィラと比べれば極端な例になってしまうも目を世界に向ければ珍しくはないのだ。



「領地に行く正式な日取りが決まるまでに準備をしておきましょうか。殿下にも手紙で……あ」



 いつものように自身の近況を記した手紙をベルンハルドに送ろうと口にしかけたファウスティーナは咄嗟に声を上げ、もう婚約者ではなくなった為気安く送れないと思い出す。ファウスティーナにとってはもう癖、否、日常になってしまっていた手紙のやり取りは簡単に出来なくなってしまった。ただ、護衛として付いて来る人に——ヴェレッドに——頼めばいいと至る。ファウスティーナの言葉にケインも頷いた。



「それがいいね。あの人なら、別ルートで殿下に手紙を送るくらい簡単だろうね」

「はい。それとお兄様、私達が領地で暮らす事をアエリア様にもお知らせしますがクラウド様はどうしますか?」

「クラウドか……知らせておくよ。クラウドとは、定期的にお互いの家を行き来していたからね」



 ケインが公爵家を継がないなら自分も後継者の座を降り、更にケインやファウスティーナと一緒に領地運営をするのも悪くないと豪語したクラウドの事、事前に報せる方が良心的と言える。



「お兄様この後お時間がありましたら、一緒に便箋を買いに行きませんか?」

「元からある物で書かないの?」

「心機一転です。生活拠点を変える手紙を書くなら、珍しい柄の便箋を使って送りたいです」

「いいかもね。リュンに馬車を回すよう言ってくる」

「はい!」



 ファウスティーナは1人書庫室に残り、ケインが戻るまで読書用の本を見繕うべく本棚に意識を変えた。領地は王都と違い、のびのびと暮らせるだろう。が、気を抜いてしまえばずっとダラダラと過ごしてしまう危険もある。



「私もお兄様が普段読んでいるような本を読んでみようかな」



 何時だったか、翻訳書を片手に外国の本を読んでいたケインに内容が頭に入るのか訊ねたら、1つずつ言葉の意味を理解しながら読むと頭に残りやすいのだとか。翻訳しながらなので普段よりも倍以上の時間を掛ける必要はあるけれど、挑戦してみる価値はある。外国の本が並んでいる本棚は、部屋の奥から3番目の棚。室内は広く、奥へ行くのも遠い。最奥に到着し、壁側の本棚から数えて3番目の本棚の前に立ったファウスティーナは最初の1冊となる本を慎重に選んだのだった。


 


 ●○●○●○



 同じ頃、200年前に親交を交わして以来、友好国の1つとなった西の王国より王太子夫妻が2ヵ月後新婚旅行を兼ねて我が国に来るとシリウスより聞かされたベルンハルドとネージュの2人は、かの国の言語を扱える教師に習っていた。今日は初日ということもあり、かの国の歴史を習い、現在の王族についての説明を受け途中から日常挨拶の言葉を習った。

「今日はここまでにしましょう」との言葉により今日の授業は終わり、教師が出て行くとネージュは思い切り伸びをした。



「ふうー。初めて聞く言葉ばかりだったけど面白かったね兄上!」

「うん。僕達が普段使わない発音の仕方もあって興味が出て来た。後で復習も兼ねて発音の練習をするよ」

「僕もそうしようかな」



 開いていた教科書を閉じた。次はそれぞれ習うものが異なり、ベルンハルドの方が先に時間がくる。次は剣の鍛錬の為、早目に稽古場に行くべくベルンハルドは席から立ち、まだ時間に余裕があるネージュに声を掛け出て行こうと歩き出した。



「兄上!」



 ヒスイが扉を開けようとした間際ネージュに呼び止められた。



「どうした?」

「僕、兄上が元気そうで良かった」

「ネージュ」



『建国祭』でエルヴィラが運命の相手と女神に示されて以降、こうしてネージュに心配されてしまう回数が増えた。今までだったら逆だったのに。それが嬉しくて擽ったい。



「王子の僕がこんな事を言ったら駄目なんだけど……女神様が決めた運命に間違いはないと思うけど……なんでエルヴィラ嬢なのかなって」

「気にしなくて良いネージュ。ありがとう」



 王国は運命を司る女神フォルトゥーナと魅力と愛の女神リンナモラートを崇拝する。故に、運命を信じ、大切にしている。

 女神の選んだ相手なら間違いはないと誰でも信じる。


 当人の意思と気持ちは重要視されない。



「エルヴィラ嬢は嫌いじゃないよ? でも、兄上とファウスティーナ嬢が今まで仲良くしているところを沢山見ている分、納得がいかないんだ」



 仲が悪ければ女神の決定は間違いではないと言えただろうと言うネージュの言葉には一理ある。



「心配しないでいいよ。きっと、なんとかなる」

「うん……」



 不安げなネージュの蜂蜜色の頭を撫でたベルンハルドは部屋を出て行き、ヒスイを連れて一旦部屋へ戻る道を歩く。


 ——あの人の言う通り、運命を否とする事をネージュには話さなかったけれど……何故なんだろう。


 ファウスティーナと真夜中話し合えた帰り道中、ヴェレッドに幾つか約束事をさせられた内の1つに他言無用があった。ベルンハルドとて承知の事だったのに、ヴェレッドは相手の特定を出した。

 その相手がネージュ。

 自身の事を誰よりも慕ってくれる弟に話さないのは心苦しいがファウスティーナともう1度婚約する為ならばと受け入れた。



「……頑張ろう」



 ネージュに話すのは運命を否とした後でもきっと遅くない。





読んでいただきありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
そりゃネージュには言っちゃ駄目だわ
ネージュは信用できない……ヴェレッドにはわかってるんだね。 エルヴィラを除けば、ベルンハルドとファウスティーナの婚約が破棄されて一番喜んでるのは多分ネージュだろうから。この上、ベルンハルドとファナが…
じいさま、ヨコミゾっぽい人だよね(TдT) 気の触れた王子のところにエルヴィラを投げ込むネージュ殿下にしても、尊属を手に掛ける伯母上にしても、スゴく苛烈だなぁ。こんな爛れた物語にハッピーエンドが似つか…
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