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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄編ー最後にわらった人ー
309/353

その意味は

 


 先王妃は病によって亡くなったと聞く。苛烈な女性で侍女が産んだシエルを非常に敵視し、常にシリウスと競わせどちらが次期国王に相応しいかと示し続けていたと以前シエルから聞いている。シエル自身はシリウスにもエリザベスにも関わらないよう、幼少期は後宮で過ごしていたと聞く。今でこそ後宮は閉鎖されているが先王の時代は多数の女性が閉じ込められていた。

 シエルからどんな女性が入っていたかを聞いているファウスティーナからすると女性好きだと悪評を立てられていた先王の印象は非常に変わる。


 公爵夫人から見てエリザベスがどの様な女性だったかを訊ねた。



「私は実際にお会いしたことは片手で数えるしかありません。お義父様はとても寂しがり屋な人だとは仰っていました」

「寂しがり屋?」

「ええ。エリザベス様が苛烈だったのは、夭折された姉君リジェット様があまりに美しい人だったからだと聞いています」



 王国では他にいない髪と瞳の色をした絶世の美女だったらしく、どんな異性でも虜にしてしまう魅力的な女性。性格は優しく誰に対しても穏やかに接し、妹のエリザベスとは姉妹なのかと疑ってしまう程に違いがあった。

 エリザベスも非常に美しい女性だと王妃から聞いているファウスティーナはある事を訊ねてみた。



「先王陛下もリジェット様をご存知だったのですか?」

「ええ。お義父様が時折、懐かしそうに語られているのを見たら、私も1度は会ってみたかった」



 ファウスティーナも同じ気持ちを抱いた。アーヴァの時と全く同じだ。

 アーヴァといい、リジェットといい、美人薄命と聞くが確かに美女達の寿命は短く見えてしまう。



「公爵夫人はエルリカおば様とお会いしたことは?」

「ええ、ありますよ。エルリカ様、お顔には滅多に出しませんでしたがオルトリウス様を慕っておりました」

「え?」



 エルリカがオルトリウスを?

 昔からの付き合いで良好な風には見えたがエルリカが異性として慕っているとは思わなんだ。ファウスティーナの目から見ても、エルリカとフリューリング先代侯爵は仲睦まじかった筈。



「貴族にとって政略結婚は避けられない道。どれだけお互いを尊重しても、心に嘘を完璧に纏わせるのは難しいのですよ?」

「心に嘘を……」

「ええ。熱い恋愛をしようが、パートナーとして見ようが結局のところ組み合わせの問題です」

「私にもいつか分かる時が来ますか?」

「勿論。さあ、そろそろアップルパイを持って来させますね」

「ありがとうございます!」



 出来立てのアップルパイを内心楽しみにしていたファウスティーナは公爵夫人の声でアップルパイの準備を始めた使用人達へ期待を込めた薄黄色の眼をやった。


 


 ――オズウェルに外へ連れ出されたシエルは聞かされた内容に表情も変えず「そう」とだけ零した。



「後は『建国際』が終わるのを待つだけかな」

「坊やはどうしました」

「叔父上とデート」

「はあ。こんな時に」



 呑気な人達だと嘆息するもオズウェルはこの後をシエルに訊ねた。



「ファウスティーナを預け次第、私は王城に戻るよ。侍女長に話を聞かせてもらいたい」

「素直に聴取を受けているようですよ。息子の方は虫の息、娘の方は精神が安定せず聞き出すのに苦労しているとか」

「メルディアスは?」

「ローズマリー夫人を担当していた筈では」

「平行して尋問すればいいものを」

「何事も限度がある。1人の人間がやれる事などたかが知れてる。……エルリカ様とフリューリング先代侯爵ですが」

「さっき言ったじゃないか」



 外に連れ出され、真っ先に聞かされたのはフリューリング領に向かっていたエルリカの馬車が故障。立往生している所に賊に襲われ重傷を負った。幸いなのは馬と御者が無事なところのみ。

 はは、とシエルは薄く笑った。



「御者が無事ねえ……王家が用意した替え玉なのに」



 本来は細工をした馬車を故障させ、立往生をしている間に故意に馬を逃がし、馬を馬車から一旦離した御者も行ってしまいエルリカ1人を道中に置いて行くというものだった。夜は野獣が出るその道は日がある内に渡らないとならず、1人置いて行かれたエルリカを野獣に喰わせて始末するつもりだった。それならば誰もエルリカを手に掛けていない上、不運な事故に見せかけて始末出来た。



「確認の為、後を付けさせていた騎士で賊を退治させ、重傷を負った夫人を手当てが済み次第フリューリング領へ再び送ったそうです」

「病院には送らなかったんだ」

「リオニー様のご指示だそうで」

「大層恨まれているね。無理もないか」



 今回の一件、直接的に関わっていないにしろ、エルリカの持つアーヴァへの憎しみがファウスティーナの命を危険に晒した。ローズマリー伯爵夫人についてはメルディアスが落とし次第、始末する方向だ。



「夫人の重傷を知って先代侯爵がぽっくり逝く危険は?」

「なんとも」

「リオニーはまだ引継ぎはしてないんだろう?」

「ええ」

「そう。死ぬ前に引継ぎをさせないとヴェレッドは外に出れなくなるね」



 ヴェレッドが外に出れなくなると私が困るとシエルは言う。扱き使うからでしょうとオズウェルは呆れた口調で零す。



「父上もどうしてあんな目立つ色にしたのやら」



 ヴェレッドの髪や瞳は元々薔薇色ではなかった。そうなるようフリューリング先代侯爵に命じたのは先王。オズウェルやエリザベスの姉リジェットも薔薇色の髪と瞳を持つ美しい女性だった。



「ティベリウス様はリジェット姉上を好いていましたから」

「まあ、そうだろうね」

「坊やが……ローゼ様が陛下やベルンハルド殿下と同じ王族の特徴をそのまま引き継いで生まれてしまった為に、姿を変えざるを得なかったのです」

「先王妃が初代国王の特徴を持つ女児を欲していたから、でしょう?」

「ええ……」



 初代国王と同じ紫がかった銀髪と瑠璃色の瞳は王子にしか現れず、王女には一切現れない。女神の生まれ変わりが必ず女性であるのと同じで初代国王の生まれ変わりも同じ髪や瞳の色も必ず男性である。



「ローゼを先王妃の狂気から守る為に髪と瞳の色を変えるのは納得出来る。貧民街に住まわせる必要はあったのかな?」

「当時は平民ですら、グランレオド家やエリザベス姉上の息の掛かった者がいた。そんな場所にリジェット姉上と同じ特徴を持つ赤子を置いてはおけないでしょう」

「貧民街の方が危ないでしょうに」

「そうですが貧民街は他人に一切の関心を向けない点に置いては、どんな人間がいようが気にされなかった」



 貧民街で生活をしていようとヴェレッドは地下深くに隠されていたので見つかる事は無かったのだ。



「そこに貴方がふらふらと行ってしまい、見つけてしまったから貴方や陛下に隠し通せないと判断して、ローゼ様をシエル様のように後宮に住まわせたのです」



 後に兄王子2人を支えるようにするつもりだったと先王にも愚痴を言われていたらしいシエルは肩を竦めた。



「私は良いよ。最初は話を聞いて気になって会いに行っただけだから」



 そうは言いつつも、腹違いの兄とはああだから、同じ腹違いの弟だけでも兄弟らしい事をしたかったのだとオズウェルは見抜いている。口にしたら真正面から否定されるだけだから何も言わないでおく。



「そろそろ行こうか」

「どちらへ」

「さっき言ったでしょう。侍女長のところ」

「あまり、過激な尋問はしないように。貴方は加減を知らない」

「失礼だな」



 本当の事でしょうとオズウェルは溜め息を吐き、歩き出したシエルの後を追った。


 


 ——同じ頃、屋敷に戻って母クリスタや妹ルイーザから散々小言と文句を言われやっと解放されたクラウドは早々に私室に駆け込んだ。手当てを受けた形跡があるのを心配されるが転んだとしか言わなかった。


 ベッドに腰掛けたクラウドはごろんと仰向けに倒れた。

 興味本位で結んでしまったベルンハルドとエルヴィラの運命の糸を解く方法はないか。魔術師たるリオニーの力を借りないとやはり難しい。よっこいしょ、と起きると「クラウド、入るよ」とノックの後に届いた声で相手が祖父イエガーだと知る。



「どうしました?」

「もしかして、ベルンハルド殿下とエルヴィラ様の運命の糸をどうするか考えてないかと思ってね」

「考えてましたよ。どうすれば解けるか。お祖父様はどうして黙っていろと?」

「結ばれたままでも困らないからさ」

「え?」



 戸惑いを隠せないクラウドは理由を問うた。クラウドの目から見てもベルンハルドはファウスティーナが好きで、関係も良好だ。態々引き離す理由がない。



「女神の生まれ変わりではない相手と運命の糸が結べる時点でベルンハルド殿下が誰と結ばれようと私達にはどうでもいいからさ」





読んで頂きありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
あーもう一難去ってまた一難。
[一言] やはり信仰は過ぎるとやっかいなものだと思いました。
[一言] なるほど、そういう事なんですね。 今の時点では、ファウスティーナとベルンハルトが可哀想になってしまいますが…。 死んだファウスティーナを血だらけのベルンハルトかが抱えているシーン、泣いた…。…
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