明日に備えて
途中、寝てしまいそうになりながらも湯浴みを終えたファウスティーナ。体の保湿や髪のケアを終え、寝間着を着せられると部屋へ案内された。室内では先にケインとクラウドがいて。ケインの隣に座ったファウスティーナは、マグカップに入れられたスープの香りを嗅いで頬を緩めた。
「美味しそう……」
「具材を小さく切ってくれてるから食べやすいよ。お腹減ってるでしょう」
「はい。いただきます」
スープの他にはリンゴとイチゴが置かれていた。
野菜を長時間じっくりと煮込んだスープの味は優しく、疲れ果て空腹な体を癒してくれた。あっという間に飲み干してしまうと侍女がお代わりを入れてくれた。お礼を述べ、再度飲んでいく。
「ふあ……ふふ、真夜中まで起きているのは久しぶりかな。あまり遅くまで起きると叱られるから」
「程々が大事ってこと」
「ケインだって、続きが気になる本があったら夜更かしするって言ってたじゃないか」
「俺はちゃんと朝起きてるからクラウドとは違うよ」
「言うねえ。ふわあ……眠いねえ」
ファウスティーナも眠気は強いが空腹には勝てない。半分くらいスープを飲み干し、シエル達はどうしているかをケインに訊いてみた。
「メルディアス様やヴェレッド様、司祭様もかなりお疲れでは」
「司祭様達は大人だから、子供の俺達より体力がある。至急の報告を求められてはいるけど、今は湯浴みをしてる最中の筈さ」
自分達は食事を終えたら就寝するのみ。大人達は休む間もなく起き続ける。申し訳ない気持ちが湧き上がるも、役割の違いだとケインに諭された。
「俺達だって、明日になれば話を聞かれる。きちんと答えられるように、十分休みを取って明日に備えよう。『建国祭』ももう間もなくだ」
「今日1日が濃すぎて他の事は暫く頭から戻ってきませんよ……」
「それも含めてゆっくり休もう」
頭を撫でられ、不満げにしながらも最後は笑って「はい」と返事をした。
残り半分のスープを飲み干し、次に果物に手を伸ばした。どれにしようか悩みイチゴに手を伸ばした。少し酸っぱいが今はこの酸味が眠気を少しマシにしてくれる。
前の人生を含めて最も濃い半日だった。『リ・アマンティ祭』を上塗りする修羅場はもう勘弁願いたいが何が起きるのが分からないのが人生。
次々にイチゴを食べていると不意にケインが頭を撫でてきた。指で頭皮を触られ、珍しい行動を黙って見ていると手が離れた。何だったのかと訊ねると“女神の狂信者”の男に髪を鷲掴みにされ地面に放り投げられた話をされた。あの時の痛みは尋常ではなかったが、それよりもファウスティーナが必死だったのはケインが殺されてしまうかもしれない未来をどう回避するべきかという事。偶々連中に紛れ込んだメルディアスのお陰で助かったが最悪の事態もあった。
頭に乗っていた手は頬に移り、怪我の有無を確認され怪我はしていないと笑んだ。
「運が良かったんですね」
「痛かっただろ」
「とても痛かったですがこうやってお兄様と一緒にいられるだけで満足です」
「そう」
もしも、もしも、なんて考えたくないのに考えてしまう。
1人黙々と食事を続けるクラウドにも怪我の有無を確認したケイン。リンゴを飲み込んだクラウドは不満げな声を発した。
「もう、折角気を遣って食べていたのに」
「何に気を遣ったの。その様子なら、大丈夫そうかな」
「大丈夫だよ。寧ろ、あの場で1番元気だったのは多分僕だよ」
直接襲われてもなければ、あまり体を動かしてもいない。
2つ目のリンゴを取ったクラウドの視線はケインを通り越してファウスティーナへ。
「こっちのリンゴ食べる?」
「頂きます!」
「食べ過ぎるとお腹が一杯になって寝苦しくなるよ」
「そこまで食べません!」
しおらしいのは一瞬で終わり、すぐに普段の兄に戻った。イチゴの美味しさに何度も手を伸ばすもケインに言われた手前途中で止めた。リンゴも3つ頂いて食事を終えた。
食べてすぐ寝るのは体に良くない。少しの間起きて、それから寝ようとする。
「お兄様やクラウド様はこの後どうするのですか?」
「部屋に戻るよ。念の為、今日は食事を終えたら外に出るなって言われてるから」
「僕も同じ。ファウスティーナ様もそうしなよ。城の人に本でも見繕ってもらえばいいさ」
「読書か……」
本を読めば強い眠気はより強くなる。話を最後まで読みたいからと短編集をお願いすると聞き入れた侍女は書庫室へと向かった。
食堂を出てケインやクラウドと別れ、宛がわれた部屋に戻ったファウスティーナ。短編集を取りに行った侍女が入ると本を受け取った。
目次を読み、どの話を読むかを選ぶ。全て違う作家が書いており、知っている作家の名を見つけたファウスティーナはページを捲っていった。
読んで頂きありがとうございます。
次回も兄妹回です。




