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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄編ー最後にわらった人ー
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天国のような安心感

 

 王国の騎士が馭者を務める馬車内にて。漸く安全な場所へ行ける、と安堵しているファウスティーナとケインの表情には濃い疲労の色が。ケインの向かいに座るクラウドはふわふわっとした笑みを浮かべてはいるが若干疲れた顔をしている。彼の隣に座るシエルは普通である。大急ぎで馬を走らせ休む間もなくファウスティーナ達の救出に駆け付けたシエルも疲れているだろうに、疲労の色を見せず馬車を発車させる前に渡された小さなマグカップに水筒を傾け冷たいお茶を注ぎ、それぞれに手渡した。



「温かい方が良いだろうに」

「でも、今は冷たいお茶が却って落ち着きます」

「そう?」



 緊張状態がずっと続き、あちこち歩き回り走り回った体は温もりよりも冷たさを求めていた。普段飲むより何倍も美味しい。中身は普通のお茶だとしても。



「王城に着いたら湯浴みをしようね。準備は既にさせているとリオニーは言っていたから、すぐに入れるよ」

「やった……」



 全身汗に濡れ、所々泥にまみれ、服もかなり汚れた。この姿のまま話を聞かれる訳がないと信じていて良かった。

 心底安心するファウスティーナに呆れつつも、冷たいお茶を飲み干したケインはとある事をシエルに訊ねた。



「事件の事を父上達はご存知なのですか?」

「ヴィトケンシュタイン公爵、フワーリン公爵にはリオニーが伝えている。今頃城で君達の帰りを待っているよ」

「……エルリカおば様は知っているでしょうか」

「さて……どうだか。公爵が口を滑らせてなければ知らないかな」

「……」



 2人の話を聞く傍ら、心配性な父にまた迷惑を掛けてしまった。8歳の誕生日に誘拐された時もかなり心配をさせてしまったのに。事件に巻き込まれても毎回生きて帰れるだけ、自分の悪運は強いのだと開き直るしかない。



「フワーリン家の方は、きっとお祖父様しか知らないね。身内に混乱を招くのは防ぎたいだろうから」

「その観点で言えば、ヴィトケンシュタイン家も同じかな。母上やエルヴィラに心配を掛けさせまいと父上は何も言ってなさそうだ」



 クラウドとケインの言い分にも一理ある。

 着いてからのお楽しみだとシエルにお代わりのお茶を注がれた。



 ――眠気が襲い、うつらうつらとしているとケインに肩を揺すられた。瞬きを繰り返して外を見ると「王都に着いて、今王城にも着いた」と教えられた。漸く安全な場所へ戻って来たのだと実感し、眠気は吹き飛んだ。

 外から扉が開けられた。馭者を務めた騎士に従い、先ずはシエルから降り、その次にファウスティーナ、ケイン、クラウドの順に降りた。



「子供達を浴室へ――」とシエルが騎士に指示を出し掛けた時、ファウスティーナとケインの名を発した声に中断した。

 建物内からシトリンが大慌てでやって来た。



「お父様!」



 走って来た父シトリンに揃って抱き締められると今度はファウスティーナが慌てた。今はとても抱き締めてもらう恰好じゃないと。



「何を言っているんだい! そんなことはどうでもいい! 君達2人が無事で良かったっ」

「あ、あの、でもお父様の服が汚れます」

「汚れたら洗って綺麗にしたらいい。ケインだけじゃなく、ファナまで誘拐されていたなんて」



 シトリンの口振りから、誘拐されていると報せを受けたのはケインとクラウドのみだったらしく、ファウスティーナについては知らされていなかった。何故かと言えば、ネズミのチューティー君に手紙を託したのはリオニーで。リオニーはファウスティーナ誘拐については敢えて触れず、時間を指定しシトリンを登城させた。



「リオニー様は何か考えがあったのでは?」とケイン。

「多分……。……いや、よそう。先ずは湯浴みをしなさい。2人とも、ゆっくり浸かっておいで」

「長湯をしたら眠ってしまいそうですね」

「はは。それだけ疲れているんだ。入浴は程々に、上がったら軽食を食べなさい。お腹も減っているだろう」



 そう言われた途端、急激に空腹を覚えた。今までは強い緊張感のせいで空腹は全く感じなかったのに、安心しきった今は空腹が襲い掛かった。お腹が鳴ったファウスティーナは恥ずかしそうにするも、照れたように笑って誤魔化した。

 側には城の侍女達が控えており。

 クラウドの所にはいつの間にかフワーリン公爵イエガーがいた。



「ああ、良かった良かった。君達が無事に帰って来てホッとしたよクラウド」

「父上達は?」

「アーノルド達には、君がいきなりヴィトケンシュタイン公子に無理を言って泊まりに行った事にしたよ。公子にも口裏を合わせてもらってね」

「はあ……ルイーザや母上から小言が飛んでくるね」

「仕方ないさ。上手い理由がなかったんだ」



 あちらはあちらで感動の再会となっているが身内への説明をどうするかで話し合っていた。


 そうしている内にも、シエルに促された3人は侍女達と城内へ。ファウスティーナ、ケインとクラウドで分かれて浴室へと案内された。


 ファウスティーナは浴室に入るとドレスを脱がしてもらい、お湯で髪や体を洗ってもらった後湯船に浸かった。水面に浮かぶのは乾燥させたオレンジの皮。柑橘系の香りに濃厚に蓄積された疲労が消えていく。



「癒される……」



 半日以上体験したとても濃い出来事。今こうして湯船に浸かっているのが夢で、現実はまだあの修羅場の真ん中にいるのではと、思わず頬を抓った。

 痛みはしっかりあるので湯船に浸かっている今が現実だ。


 ギリギリ呼吸可能なラインまで顔を浸けた。



 ――寝ちゃいそう……




読んでいただきありがとうございます。



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[一言] 久々に、平和です…♪
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