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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄編ー最後にわらった人ー
229/359

安心感が違う

 


「あ」と零し、目を開けたファウスティーナは数度瞬きをした。前の自分とベルンハルドが言い争う悪夢を見ていたら、急に夢が消えた。そして目覚めた。唐突な悪夢の終わりは最近よくあった。エルヴィラの見る悪夢ほど酷くない。あれらは全部、嘗ての自分が犯した過ち。悪いのは自分だけなのだから。

 外を見ると薄暗い。起きるには少し早いが目が覚めてしまい、2度寝したい睡魔がない。伸びをした後ベッドから降りた。

 部屋を出て廊下を歩いていると「お嬢様?」と怪訝な声が後ろから飛んできた。



「今日はお早い起床ですね」

「あ、リンスー」



『リ・アマンティ祭』が終わって暫くしてから公爵家から呼び寄せたリンスーに近付く。というのも、事件発生後、実家の都合でメルセスが長い休暇が必要となり、代わりにファウスティーナの世話をしてくれる人をとなった時に。ファウスティーナ自身が公爵家から自分の侍女を呼びたいとシエルに頼んだのだ。今よりももっと幼い時から仕えてくれるリンスーがいないのは、やっぱり寂しい気持ちがあった。

 教会に住むと決まった当初は、公爵家の侍女も使用人もいらないと突っ撥ねたらしいシエルもファウスティーナのお願いには滅法弱いのであっさりと承諾した。シエルが父に報せを送るとリンスーは数日後にやって来た。



「ちょっと目が覚めちゃって。司祭様はまだ寝てるよね?」

「はい。皆様が起きるまでには、まだ時間があります」

「だよね。屋敷の周りを歩こうよ」

「では、上にブランケットを掛けて外に出ましょう。冬は南側も冷えますから」

「うん」



 一旦部屋に戻ってもこもこのブランケットを羽織って再び出た。


 屋敷から外に出ると冷たい風が直に襲う。もこもこブランケットを羽織っていて良かった。



「寒いね〜。リンスーは暖かい格好をしなくていいの?」

「私、これでも寒い土地で育ったので寒さには自信があります」



 リンスーの実家シャーレット家は、王国から北の端に領地を持つ。ヴィトケンシュタイン家とは初代国王の時代より交流があり、姉妹神とも関わりのある家柄。



「偶には実家に帰りたいって思う?」

「時々は。ですが、お嬢様を置いてまで帰ろうとは思いません。両親は健在ですし、歳の離れた弟や妹達がいるので寂しくはないでしょう」



 だが、リンスー自身はどうなのだろう。女神の生まれ変わり(ファウスティーナ)が生まれ、信頼出来る家の娘を侍女にと父が決めた際、古くから交流のあるシャーレット家のリンスーが選ばれたと聞く。2人の年齢差は8歳。19になったリンスーも結婚適齢期に入った。相手はいないのかと1度訊ねるとファウスティーナの世話が最優先だと言われた。

 ふと、こんな事を聞いた。



「リンスーは」

「はい」

「私がお母様にエルヴィラを泣かせたって叱られている時庇ってくれたよね」

「当然です! お嬢様は何も悪くないのに、お嬢様のせいにして奥様に泣きつくエルヴィラ様やちゃんとした事情を聞かないでお嬢様を叱る奥様からお嬢様を守るのは」



 そのせいで前の時、自分が公爵家を追放された後肩身の狭い思いをしたのではないかと抱いてしまう。追放される時、せめて兄ケイン付きの侍女にしてほしいと頼んでいるかどうかだけでも思い出せていたら。



「そのせいでリンスーに迷惑を掛けていたら……」

「そんな事はありません。何度か奥様から旦那様に話はいきましたがお咎めは受けておりません」

「え? お父様の耳にも入っていたの!?」

「はい。でも、殆どはエルヴィラ様が原因なので逆にエルヴィラ様と奥様が旦那様に窘められていました」



 どれも初耳だ。自分は悪くない、悪いのはファウスティーナだとしていたエルヴィラの事だから、余計ファウスティーナを恨んだだろう。母も自分にそっくりで溺愛するエルヴィラが叱られている姿を見て、更にファウスティーナが可愛くなくなった。吐き掛けた溜め息を止め、代わりに次の話をした。



「でも、私がいない方が屋敷は平和だったでしょう?」

「それが……」



 リンスーは困ったように笑う。妹を虐める姉もいなくなり、不出来な娘を叱る必要もなくなり、エルヴィラとリュドミーラは穏やかに過ごしていただろうと言い掛けるもケインからの手紙でそうでないのを思い出す。リュドミーラはどうだか不明だが、エルヴィラはベルンハルドが屋敷に来なくなって泣いて暴れたという文面を貰っていた。



「私やトリシャの予想ですが、エルヴィラ様が王太子殿下に拘るのは地位と見目のせいかもしれません」

「殿下は陛下よりも、どちらかと言うと王妃様に似てとても柔らかな雰囲気の方だからね。でも、王太子だから好きになったとは言い難いんじゃ」

「トリシャによるとエルヴィラ様は、下位貴族の令息は勿論、同じ公爵令息にも興味は示した事がないようで」



 公爵の地位につく貴族で同じくらいの年の令息と言うとクラウドのみ。侯爵でいうとラリス家のヒースグリフとキースグリフ。



「クラウド様はお兄様の友人だから面識はあったよね。いつ見てもふわふわっとした方よね。ヒースグリフ様やキースグリフ様はよく分からないけれど」



 確か、妹のアエリアを溺愛していた……気がする。



「王子という立場なら、ネージュ殿下もいらっしゃいますがエルヴィラ様は専ら王太子殿下だけをお慕いしているようで……」

「あはは……そうだね」

「前に家出騒動を起こした時にヴィトケンシュタイン家の令嬢は、女神の生まれ変わり以外王族に嫁げないと旦那様や奥様に言われた時は大変でした。ずっと泣き叫んで部屋から出て来なかったのです」

「あはは…………」



 ファウスティーナも聞いて驚いた。そして確信した。ベルンハルドとエルヴィラ、2人が結ばれたのは“運命の恋人たち”になったから。逆に“運命の恋人たち”にならないと結ばれない。リンスーやトリシャは、エルヴィラがベルンハルドを好きな理由が地位や見目と言うがファウスティーナだけは違うと知っている。運命によって結ばれているからだ。



「……でも、殿下もそれだけ慕ってくれる相手と一緒になった方が幸せなのかも」

「お嬢様……」



 何とも言えない顔をリンスーにされ、誤魔化すように笑う。ベルンハルドとファウスティーナ、2人の関係が良好なのは2人を知る者なら誰もが知っている。ベルンハルドが特別エルヴィラを大事にしていたら印象も変わるが、そんな事実はない。前のような悪役にならずベルンハルドとエルヴィラが結ばれる方法……考えても考えても浮かばない。

 考えるのが得意な人が1人、否2人いる。手を借りたいところだが無理に押し進めれば不審感を抱かれてしまう。



「お嬢様、お嬢様と王太子殿下が1番お似合いです。仮令お嬢様がそう思っても。エルヴィラ様では王太子妃の役目は熟せないかと」



 7歳の頃から始まった王妃教育も4年経つ。今は王妃の代わりにブルーロット伯爵夫人が王妃教育を授けてくれている。とても厳しい人なのでエルヴィラではすぐに泣いて逃げ出してしまうだろう。

 ベルンハルドの為なら泣きながらでもやってくれそうだと思いたいものの、前回アエリアが王太子妃の代わりを果たす為に側妃として嫁いでいる。淡い期待は抱かないでおこう。


 それからも他愛ない話をしながら歩いた。寒さは朝日が昇り始めても全く変わらない。屋敷を一周し終える辺りで別の人に出会った。



「あ、ヴェレッド様」

「うん?」



 眠そうな顔で出てきたのはヴェレッドだった。リンスーと2人近付くと欠伸をしたヴェレッドが正面を向いた。



「おはようお嬢様」

「おはようございます」

「今日は早いね。お寝坊さんじゃないから褒めてあげようか?」

「遠慮します……」



 普段から寝坊している言い方だがしていない。毎日大体同じ時間で起きている。



「こんな寒い朝の外に出て何してんの?」

「リンスーに散歩に付き合ってもらっていたのです。ヴェレッド様は?」

「シエル様が夜中に起こしに来なかったから熟睡出来てね。早く目が覚めただけ」



 よく途中で起きて暇なシエルに寝ているところを叩き起こされ、遊び相手にされると愚痴を零していた。熟睡したという割に顔は眠そうだ。思っている事がヴェレッドにも伝わり、頭をポンポンと撫でられる。



「2度寝したい気分だったけど、今日はお嬢様が一旦屋敷に戻る日だから起きてることにしたの」



 年に1度の建国祭に合わせ、今年は一旦屋敷に戻る決定となった。開催は10日後。久しぶりに公爵家に戻る。家族の様子は頻繁に手紙のやり取りをしているケインやシトリンから聞いているので知っている。ベルンハルドにも王都に戻る旨は今月会った時に話している。王都に着いたら、屋敷に行く前に王城へ行く予定となっている。同行するシエルがシリウスに用があるのだとか。

 試しにどんな用なのかをヴェレッドに訊ねた。眠そうな顔をしたまま「お嬢様に教えたら俺がシエル様に叱られちゃう」と言われ、玉砕した。

「お嬢様、そろそろ邸内に戻りましょう」とリンスーに声を掛けられ、気を取り直してファウスティーナは頷いた。ヴェレッドはまだ外にいると言い残し、森の中へ行ってしまった。シエルとよく食後の散歩をする時の道だ。



「今日の朝食は何?」

「寒い冬にピッタリなクリームスープです」

「やったー!」

「お嬢様の苦手なブロッコリーとグリーンピースも沢山入れているので残さず食べてくださいね」

「……うん」



 好物の料理が出ると喜んだのも束の間、食べれるようになっても苦手意識が抜けないブロッコリーとグリーンピースを入れられていると知り落ち込んだ。そういえば、とリンスーが思い出す。シエルもこの2つの野菜が苦手だと。食堂に運ぶ際、シエルにもブロッコリーとグリーンピースは多目に入れるよう執事長に指示されるのだとか。


 美の女神が与えた超人的美貌と他者に思考を読ませない知能。普通の人を凌駕する才能と美を持つシエルにも、苦手な食べ物があると知った時親近感を抱いた。



「司祭様が苦手な物って他はなんだろうね」

「お嬢様は聞いてないのですか?」

「うん。私と同じでブロッコリーとグリーンピースが苦手って知ったのも最近なの。出されても苦手な顔をしてなかったもの」



 内面に隠すのが得意なシエルだからこそ、だろう。



読んでいただきありがとうございます!



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― 新着の感想 ―
本当に申し訳ないけど、ファウスティーナが盲目過ぎてイライラする。 何度も何度も何度も何度も「ベルンハルドとエルヴィラは運命の恋人達」「結ばれなければベルンハルドは不幸になる」が繰り返されて辟易する。 …
子どもならまだしも、大人なら嫌いなものは少なくするもんな気がするがね。 敢えて多めにいれるのはちょっと理解し難い。
仮令も嘗ても漢字じゃなくて平仮名でいいってば…
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