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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄編―リ・アマンティ祭―
224/361

王族のみ、出席可能

 


 ヴェレッドにとって、今日は10日振りにシエルに会う日。『リ・アマンティ祭』当日は他の何を差し置いてもファウスティーナを守れと命令されたのに、騎士に紛れてシリウスがいるからと1人家族から離れ逃げて行ったエルヴィラを追い掛けて保護をしたせいでシエルの怒りを恐れて会わないよう工夫をしていた。結局、どれだけ逃げ回っても隠すだけではなく捕まえるのも得意なシエルからは逃れられなかった。

 困り顔で間に立つオルトリウスを盾に、オールドの尋問報告をした。



「――……って、訳で、あの爺さんもう使い物にならないよ」

「何が、って訳? 何も話してないよね? 私の顔を見た途端叔父上の後ろに隠れただけじゃない」

「シエル様なら俺の内心を読んでくれるかなって」

「読める訳がないだろう」

「はいはい、シエルちゃんもローゼちゃんも落ち着いて。まずはシエルちゃん、席に座りなさい。ローゼちゃんが怖がって話が出来ない」



 シエルが一歩でも動こうものなら、オルトリウスを盾にヴェレッドは一歩後ずさる。肩を掴む手が強く、シエルに更に近付いてこられると脱臼してしまいそうで……オルトリウスは暫く言い合いを続けたシエルとヴェレッドを落ち着かせ、着席させた。

 座ってしまえば2人も暫くは立たないだろうと、自分も間に着席した。


『リ・アマンティ祭』表向きの事後報告は既に済んでいる。今から行われるのは、極一部の関係者のみが出席出来る会議だ。


 上座から彼等のやり取りを見つめていたシリウスは口火を切った。



「先代ヴィトケンシュタイン公爵の尋問で何を得た?」



 シリウスに問われたヴェレッドは頷いた。



「先代の爺さんがお嬢様を“女神の狂信者”を使って攫おうとしたのは、アーヴァに瓜二つだからって吐いた。

 ――アーヴァは爺さんと爺さんの妹の娘だから、その娘にそっくりなお嬢様を囲おうとしたんだと」



 ファウスティーナの実母アーヴァ=フリューリング。実の母であるフリューリング先代侯爵夫人に嫌われ、憎まれていたのは、実の兄であるオールドに無理矢理生まされた娘だったからだ。当時から女神の生まれ変わりに固執していたオールドは、血が濃くなれば女神の生まれ変わりが生まれる可能性が高くなると信じ――実行に移した。

 フリューリング先代侯爵夫人が男爵家の者と浮気をしていたのをネタに脅し、無理矢理アーヴァを宿らせた。


 王国で最も禁忌とされる行為を行ったオールドをオルトリウス達が見逃す筈がなかった。



「先代侯爵夫人のアーヴァちゃんに対する態度とオールド君に対する態度が気になってね」



 実の娘は冷遇し、実の兄には常に怯えていた。2人が同じ場所にいるのを大層嫌っていた事から、何かあると踏んだのだ。調査した結果知れたのがアーヴァの出生の秘密。不幸中の幸いなのは、先代フリューリング侯爵がその事実を知らなかった事。

 夫との子供ではないと先代侯爵夫人が疑わなかったのは、アーヴァの持つ魔性の魅力が原因だった。

 魅力と愛の女神リンナモラートはどんな者でも魅了する力を持っていたとされている。リンナモラートの持つ魅了の力をアーヴァが引き継いだとしたら? その理由が実の兄との子供だったなら? 1人で悩み、抱え、苦しんだ末に導き出した答えが夫人を狂わせた。


 更に初めてファウスティーナに会った際、危害を加えようとしたのもアーヴァに瓜二つな彼女が自分が汚された次の証だと決めつけたから。

 初めて耳にしたシエルが口を挟もうとするも、黙っているようにとオルトリウスに仕草で黙らされ何も言わなかった。その代わり大層ご機嫌斜めになった。



「オールド君がファウスティーナちゃんを“女神の狂信者”を使って拐おうとした理由は分かった。……はあ」



 最後に大きな溜め息を吐いたオルトリウスは出された紅茶に手をつけた。

 1口飲んで口内を潤した。



「シリウスちゃんが尋問した“女神の狂信者”がヴィトケンシュタイン家の末娘も捕らえる内に入っていたと言っていたんだけど、この時点で“女神の狂信者”(かれら)が紛い者だと判明した。本当に“女神の狂信者”なら、女神の生まれ変わりしか狙わない。唯一、女神の生まれ変わりが生まれる家の娘といえど、彼等にしたら不要者。要らない存在だ。態々拐おうと計画しない」



 シリウス曰く、ファウスティーナのついでにエルヴィラも誘拐対象に入っていたのは高値で人身売買の商人に売り飛ばす為だったらしい。

 ヴェレッドが気に掛け、逃げたエルヴィラを追いかけメルディアスに押し付けるまで側にいたので不幸な出来事は起こらなかった。


 本物の“女神の狂信者”なら、狙うは女神の生まれ変わりのみ。



「彼等の名を騙った連中が今回の事件を引き起こした、という訳ですか」



 シエルが態度と同じ声を発する。



「計画が杜撰なのは同じなのにね」

「はは、皮肉を言ってあげないでおあげよ。“女神の狂信者“(かれら)にとっても、我が国にとっても、長年待ち望んだ存在だ。どちらも必死になっちゃうの」

「迷惑なんですよ」



 悪戯をされようがお小言を言われようがオルトリウスに対し声を荒げなかったシエルが初めて感情を露わにした。大声でなくても、内に秘めた激情が声に含まれている。



ファウスティーナ(あの子)は私とアーヴァの娘だ。この国や連中が待ち望んだ子じゃない」

「……僕はね、出来るなら隠してあげたかったよ。王太子に女神の生まれ変わり(運命の相手)がいると判っても、王家にファウスティーナちゃんの存在を話さなかったのは、シエルちゃんの為でもあったが1番は連中が居場所を知らなかったから。

 けど、“女神の狂信者”がよりにもよって教会の神官に紛れているとは露程も予想していなかった」

「……ベルンハルドが誕生の洗礼を受けた時にいた神官の中に“女神の狂信者”が紛れていたとは、誰も思わないでしょう。そして、神官があなたに匿われている私やファウスティーナの居場所を突き止めた」



 苦々しい面持ちをしたシエルは心情を吐露し、重たい瞳でシリウスを見遣った。



「そこに私を探していたあなたが来たんだ」

「……」



 シリウスがシエルを探していた理由は重要じゃない。重要なのは、鉢合わせした瞬間。

 赤子だったファウスティーナを抱くシエルからファウスティーナを奪おうとした神官を、寸前で助け神官を殺したシリウス。その当時ヴェレッドはファウスティーナが遊ぶ玩具のお使いを頼まれて外出中だった。


 難を逃れたものの、殺した神官は仲間に女神の生まれ変わりが生まれていることを既に報告済みだと証明する手紙を所持しており、王家としても漸く誕生した女神の生まれ変わりに関して黙っているのは無理であった。


 シリウスがファウスティーナをアーヴァの親戚筋であるヴィトケンシュタイン公爵家の養女にさせた最大の理由は“女神の狂信者”から守るため。王家の目以外にもフリューリング家、フワーリン家、ラリス家といった連中の動きを抑制する貴族が王都にはいる。

 特にラリス家は、防衛の要である辺境伯家出身のノルンが嫁いでいる。運命の女神と魅力と愛の女神に絶対の忠誠を誓う辺境伯家の力を何時でも使えるようにという思惑もあった。


 ヴィトケンシュタイン家で生活を送っていたファウスティーナが終始幸せ……と語れれば、不機嫌さに磨きがかかってシリウスを襲いかねないシエルを刺激する。言葉を慎重に選びながら話すオルトリウスだが、時間が経過していくと隣から発せられる不機嫌オーラに苦笑し、今日はお開きにすると告げた。


 その言葉を待ってましたとばかりにシエルはさっさと席から立ち上がって部屋を出て行った。途中からシエルに殺気をぶつけられても無言でいたシリウスも続いて席を立った。


 2人が去った室内に残ったのはオルトリウスとヴェレッドのみ。



「はあ〜全くシエルちゃんってば、言葉遣いは丁寧になっても短気なのは全然変わらない」

「あのさ、シエル様の口調が変わったのってお嬢様の母親が理由?」

「好きな子の前では、優しい完璧な王子様でいたかったんだって」

「俺シエル様が今の口調になった時暫く鳥肌が止まらなかった」

「安心して。僕も怖かった」



 2人揃って荒々しい口調から今の丁寧な口調になったシエルを思い出し寒気に震えた。



「……ねえ、ローゼちゃん」



 態とらしく二の腕をさするヴェレッドに真剣味の増した声で問う。



「もしもの時が起きたら、覚悟を決めるんだよ?」

「……いやだ」

「やれやれ……」



 寒さを演じていたヴェレッドは手の動きを止めて天井を見上げた。模様のない、真っ白な天井。

 オルトリウスは温くなった紅茶を喉に通した。



「女神の生まれ変わりは滅多に生まれないって言うけど、一定の期間に達すると生まれるようになってる。だけどファウスティーナちゃんが生まれるまで、その期間が大幅に遅れた。前の女神の生まれ変わりが“女神の狂信者”に殺されてしまったからだ」

「……」

「僕達の代で同じ悲劇は繰り返しちゃならない。シエルちゃんには悪いけど、ファウスティーナちゃんは王都に戻すべきだ。王都には“女神の狂信者”が怖がる貴族が集まっているからね」

「シエル様を納得させたらいいよ」

「嫌われるのを覚悟で言うつもりだよ」

「まあ、必要ないよ。シエル様だって何も対策していない訳じゃない。連中が2番目に恐れる貴族が今日シエル様と教会に戻るよ」



 勢いよく席から立ち上がったヴェレッドは扉に近付いた。ドアノブに触れるとオルトリウスに振り向いた。



「王太子様の運命の相手って誰なんだろうね」

「ファウスティーナちゃんだろうね」

()()()()()。でも王太子様は――ルイスの生まれ変わりじゃない。ルイスの生まれ変わりの運命の相手が女神の生まれ変わり。これは大昔からの絶対。覆らない」

「ローゼちゃん、君がそれを言うと冗談にならないの。そんな事を言うなら、君がもう1人の王弟だって公表するよ」

「絶対嫌だし前の王様はそれは駄目って言ってた」

「そうだね兄上は言っていたね。嫌ならお口を閉じてなさい。君はイレギュラーな子なんだ。ベルンハルドちゃんがルイスの生まれ変わりではなくても、姉妹神は彼を女神の生まれ変わりの運命の相手だと決めている。それに2人の仲もいい。何事もないのなら、このままでいいじゃないか。引っ掻き回すのはいけない」

「あ、はは。そうだね」



 念入りに釘を刺してくるのをひらりと躱し、部屋を出たヴェレッドはシエルがいるであろう場所を目指す。


 不意に足を止めた。



「……けど、お嬢様が見たっていう夢の話もあるから、王太子様とお嬢様が運命の相手だっていう絶対がないんだよなあ……」



 これは時間を使って考えていこう。再び足を動かし始めたヴェレッドは、帰りにケーキの店に寄ってファウスティーナへのお土産を買おうとシエルに言うと決めたのだった。






 部屋を出てすぐ、追いかけて来るように出てきたシリウスに呼び止められ、一通り会話をした後シエルは立ち去った。外に出て馬車を待機させている停車場へ向かう。

 目的の馬車に近付くと、馬車に凭れるように立っている赤い髪の女性がいた。


 女性でありながら、上級騎士の衣装に身を包んでいる。シエルに気付くと馬車から離れ正面から向き合った。

 背筋を伸ばし、青の鋭い眼光をシエルへ向ける女性は一言「遅いぞ」と言う。

 肩を竦めたシエルは「これでも早く戻ったのだけど」と言い、女性に近付いた。



「久しぶりだねリオニー」

「とっとと移動するぞ。面倒なのが来る前に」

「君が蛞蝓と表する人は来ないよ。あ、待って、ヴェレッドを待たないと。まだ叔父上といるみたいだ」

「なら呼んでこい。紛い物の犯行でも本物の“女神の狂信者”が教会にあの子がいると知られている可能性は大いにある」

「ああ、その対策はしているよ。彼等が1番恐怖を抱いているフワーリン公爵が手を打つさ」

「念には念を入れる」



 相変わらずだとシエルは笑うが反対する気は更々ない。少しして戻ったヴェレッドがケーキをお土産に買いたいと言い出し、賛成なシエルはリオニーの意見を聞く前に御者にケーキの店に行くよう指示を飛ばした。





読んでいただきありがとうございます。

次回はネージュ・ケイン・アエリア3人がメインとなります。

ファウスティーナ以外の記憶持ちの3人です。





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― 新着の感想 ―
ようやくフラグが回収されていく〜! アーヴァは爺さんと爺さんの妹の娘だから→マジ近親相姦してますやん!マジ禁忌じゃん! そりゃ、シトリンも「アーヴァとだけは駄目なんだ」なりますわ! あと、ベルンハル…
ここまで来てシトリンが「アーヴァーとだけは駄目なんだ」って言っていた理由がわかりましたね。シトリンは知っていたという事ですね。そりゃ爵位を継いだらくそ田舎に押し込められますね。相関図欲しいくらいに人間…
[気になる点] え!王太子様ってルイスの生まれ変わりじゃないの?前に最初はルイスを感じなかったけどそのあとからルイス感じて、慌ててファウスティーナに祝福を戻したって書いてなかった?
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