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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄編―リ・アマンティ祭―
221/353

姉妹神の小さな違い



 


 夜の森は不気味で飢えた獣がいつ飛び出して来るかという危険を味わえるのに対し、王都は暗闇に包まれた世界の中でも美しかった。今日は特に機嫌よく満月が顔を出しているのもある。こういう時は美味しい酒を飲むのに限る。シエルがいたら、面倒なのは全て放り出して葡萄酒を飲みたいと言い出すと、王城の裏口に馬車を停車して車内からオールドを2人がかりで引っ張り出す騎士を眺めるヴェレッドが言う。そうだね、と肯定するだけで何も言わないオルトリウスは此方に振り向いた騎士に頷いた。

 彼等は眠るオールドを担架に乗せて布をかけ、城内へ運んだ。



「草漬けにするとは言ってたけど、誰がするの?」

「ローゼちゃんする?」

「やだ。俺、草は嫌いだって言ってるでしょう。あと、ローゼって呼ぶなっての」

「そう寂しいこと言わないでおくれ。君の名前はローゼ。シエルちゃんが付けた名前を気に入ってるのは知ってるけど、本当の名前はネーミングセンスのない人間が頭を悩ませて考えた名前なんだよ」

「知らない。俺には関係ない」

「やれやれ」



 ヴェレッドは幼いシエルが貧民街で拾った孤児。というのが周囲の知っている彼の生い立ち。オルトリウスは、ヴェレッドの親を知っているような口振り。口だけではなく、本気で嫌がっているのだと顔にも表すと苦笑される。

 少しして騎士が1人戻った。



「オルトリウス様。オールド=ヴィトケンシュタイン様を専用の部屋に」

「ありがとう。ご苦労だったね、こんな夜中に」

「いえ! 我々は通常の業務に戻ります」



 一礼をして持ち場へ帰って行く騎士を見届け、2人は城内に足を踏み入れた。

 昼と違って、夜の城はとても静かだ。

 静粛が城内を支配していた。人1人の気配も臭いも感じられない。暗闇だけが延々と続く。灯りも持たないで歩くのに2人はどこにもぶつからず、躓かず、記憶にある道筋だけで歩いていく。



「王様はいつ戻るんだっけ」

「僕よりローゼちゃんが詳しいでしょうに」

「ああ、朝方だって言ってた」

「やれやれ……。ちゃんとしてよローゼちゃん。“女神の狂信者”が関わっているのなら、君を蚊帳の外に置けないのだから」

「はあ。面倒」

「思っても言わないの。いつまで経ってもシエルちゃんやシリウスちゃんから子供扱いされるんだよ」

「いいよ。ずっと子供のままで。歳取らない方が良いみたいだから」



 距離は近くても暗闇のせいでお互いの顔は見えない。だが、2人には、相手が今どの様な相貌をしているか大体の察しはついていた。



「魅力と愛の女神リンナモラート、運命の女神フォルトゥナ。人間が好き過ぎるのは大いに結構なんだけど、力加減を知ってほしいよ」

「先代様。ちょっと違う。人間が好きなのはフォルトゥナの方。リンナモラートは人間が嫌いだったんだ」

「おや?」



 初耳だと言わんばかりの声色を発したオルトリウスはヴェレッドに問うた。



「姉妹神は人間に強い興味を抱いていたそうだけど」

「実際はフォルトゥナだけ。リンナモラートはそうじゃない。でも最初の王様に会って、恋を知って、人を愛するようになった。でも人と女神の寿命の差なんて知れてる。永遠を生きる女神と限られた時間でしか生きられない人間。当然くる別れにリンナモラートは耐えられなかったんだ」

「そう。妹神を憐れんだフォルトゥナに王家が誓約を交わしたんだ。

 未来永劫、リンナモラート神が愛したルイス=セラ=ガルシアの国を守り続けると。そしてフォルトゥナはリンナモラートの魂の欠片を、当時から存在していたヴィトケンシュタイン家に託し彼女の生まれ変わりが生まれるよう運命を作った。更に王家には、ルイスの生まれ変わりが生まれるようにともした。2人が同じ時間を生きられるように、生まれる年は必ず同じに」



 代々の教会の司祭にしか伝えられない言い伝え。この事はオズウェルに話していた。禁忌ではあるが、話したからと罰が下る訳ではないから。ただ、王家には話していない。



「ファウスティーナちゃんはリンナモラート、ベルンハルドちゃんはルイスの生まれ変わり。その証拠にベルンハルドちゃんの名前には彼の名前が付けられている。……ただ、ねえ」



 含みのある止め方をしたオルトリウスがその場に留まり、2歩先に行ったヴェレッドの背に投げかけた。



「ローゼちゃん」

「先代様。それ以上言ったら本気で嫌いになるよ。あーもう無理、嫌いな人といたくないから俺帰る」

「あーローゼちゃん! 僕が悪かったよ、もうこの話題は出さないから帰らないで!」



 時間が時間なため大声でヴェレッドを引き止められないのが悲しい。早歩きをしだしたヴェレッドを走って追い掛け、引き止めたオルトリウスは泣き真似をするも引かれている気がしてすぐにやめた。

 2人はオールドが収監された部屋の隣に入った。誰かが用意した灯りがあり、薄暗く室内を照らしていた。簡易的に用意されているベッドに寝転がったヴェレッドは、眠そうな顔でオルトリウスを見上げた。



「俺寝るから、起こさないでよ」

「僕も眠いねえ。明日は早いし、僕も寝るよ」

「年寄りは夜更かししちゃダメだよ」

「ローゼちゃん……僕君に嫌われたくないから、明日は気をつけるよ」

「シエル様がいても同じ台詞を言うよ」

「シエルちゃんには遠慮という文字がないからね」







読んでくださりありがとうございます。

次回はお話の時間です。





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― 新着の感想 ―
フラグが中途半端に出ては引っ込んで…また中途半端に出ては引っ込んでの繰り返し…… 全てのフラグが明るみに出る日は来るのか……消化不良が度々出る
[気になる点] 過去2回目でベルンハルドに精神操作を施したのはヴェレッドとメルディアスの2人で王様直々の命令・・・初めは無理心中で次はネージュと生活から強制的に3回目突入、ですよね。どんな意図があって…
[一言] お祖父さんの処分はお花畑ちゃんを ベルファナから切り離し領地に ずっとずっと留め置いて欲しいから お仕置きは程々にして下さいませ… ファナの前回の生の記憶が曖昧にあるから 捻れまくっていて…
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