過去の夢②
2020/3/28=急に話が変わったので分かり難いとのご指摘を頂いたのでちょっとだけ修正しました。唐突過ぎたと反省しております( 。゜Д゜。)
――ぐるぐる、ぐるぐると大量の記憶が入り込んで容量オーバーを起こし倒れたファウスティーナは、1度体験した過去の記憶を第三者として眺める夢を見ていた。
色鮮やかな花々が咲き誇る王城の庭園内で開催されたお茶会。王妃を主催者としたこのお茶会は、子供達が交流を持つ為の場であり、同時に第2王子であるネージュの婚約者候補を決めるお茶会でもあった。王太子であるベルンハルドには既にファウスティーナがいる。但し、初対面の時の悪印象と自分勝手で他人を――特に妹を――下に見る性格を嫌っているので2人の仲は最悪だ。
――と、漸く思い出した前のお茶会の記憶を、第三者目線で眺めるファウスティーナは目の前で起こっている出来事に頭が痛くなるのを感じた。赤い飲み物を前の自分に被せられて蹲って泣いているエルヴィラと強い非難の色を灯した瑠璃色の瞳を向けてくるベルンハルド。周囲がざわざわとする中、前の自分は駆け付けてきた母親に責められながらも強気な態度で「ふんっ」とそっぽを向いた。
「ああ、思い出した。ベルンハルド様に話し掛けられてたエルヴィラに苛立ってジュースを上から掛けたのよね……」
もう見てられないわ、と大きく肩を落としたファウスティーナ。
(他の子がベルンハルド様と話していても何も思わなかったのに、エルヴィラになるとこうも激情しちゃってたのってやっぱり……)
思い当たる節はある。が、もうどうでも良い。
ずっと欲しているものを無条件に与えられるエルヴィラが羨ましかっただけ。今となっては羨ましいとは思えない。
(私ももし、お母様にエルヴィラみたいに愛されていたら……うん。前以上の傲慢令嬢になってそう)
愛情を貰えなくて悪い方へ行ったのだから、貰えても結局は強欲が押し出されてまともにはなれない。
前の自分を反面教師にするというのは、何とも不思議な体験だ。あ、とファウスティーナは周囲の中にいるアエリアを見つけた。やはり彼女も前のお茶会でいたのだ。ただ、思い出してみるとこの時は接触していなかった。今回アエリアが接触してきたのは、彼女にも前の記憶があったから。
アエリアとファウスティーナの共通点。どちらも王太子妃の座を欲した、ベルンハルドの寵愛を願った。ファウスティーナは最後大きな過ちを犯して公爵家を勘当となった。アエリアはどうなのだろう。エルヴィラを溺愛していたあのベルンハルドのこと、アエリアを次の婚約者にした可能性は低い。
「あ」
ベルンハルドとファウスティーナの間にネージュが入った。困った様に2人を交互に見つつ、城の侍女が持ってきたタオルをエルヴィラに渡した。エルヴィラがタオルでジュースを拭いているのを後目にネージュがファウスティーナへ向いた。
刹那――!
「うわっ!」
後方から強い力で引っ張られた。
お茶会の光景からどんどん遠ざかって行く。
絶叫を上げながらも色のある世界から全てが白の世界に引き込まれるまで時間は掛からなかった。体勢を崩して尻餅をついた。ファウスティーナ以外色のない場所。座ったまま周囲を見渡すも――
「何もない」
ただ。
「温かい……」
春の陽光とも違う、優しくて安心する温かさがファウスティーナを包む。眠気で目がとろんとし始めたファウスティーナは座ったまま目を閉じた。
「寝ちゃ……ね……ちゃいけ……」
これは夢なのか? 夢で温度を感じ取れるのか?
そんな疑問は意識と一緒にあっという間に睡魔に呑み込まれた。
……何処かで感じた覚えのある温もりと、
『お休み。良い夢を見るんだ』
声に包まれて――。
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