何故
短めです。
(あら……)
年に1度の大きな行事であり、重要な部類に入る『リ・アマンティ祭』のメインイベントには、毎年多くの客が押し寄せる。会場に入れる人数も限られており、父ラリス侯爵にお願いして最前列の席を用意してもらったアエリアは隣へ目をやった。膨れっ面なエルヴィラを連れて苦笑するシトリンと相変わらず何を考えているか読めない表情のケインが座った。反対側で父と兄達が何かを話しているのを聞きながら、気になる方への聞き耳も忘れない。
「……ベルンハルド様に会いたいです」
「父上、やはりエルヴィラは宿に居させた方が良いのでは? 貴賓として顔を出した時にエルヴィラが騒いだら恥をかくのは我が家ですよ」
「っ!! な、なんでお兄様は……!!」
「エルヴィラ大きな声を出していけないよ。ケインも、それはさすがに冷たすぎるよ」
(どこがよ……)
ご機嫌斜めな理由をあの一言で知れた。王太子に会えなくて剥れているだけだった。今日はベルンハルドと露店巡りをすると手紙に書いてあるから、ファウスティーナはベルンハルドと回ったのだろう。そしてメインイベントには同じ場に座ることも想定済み。泣きそうな声を出すも、父に諭され頬を限界まで膨れさせて声を上げるのを我慢した。但し、大きな紅玉色の瞳からは大粒の雫が幾つも流れ落ちていく。
視線を移すとやはりと言うか、ケインは冷めた瞳で妹を見ていた。
(……変わらないわね、この方も)
あの時、あの場にはケインもいた。覚えている限り、前と性格が変わらないがもしかしたら前の記憶を所持しているかもしれない。ファウスティーナによると覚えているのは自分とアエリアだけと言う。ファウスティーナよりも覚えている記憶が多いアエリアはそうじゃないと知っている。
(思い出すわね)
過去の記憶に浸っていると客の声が一際大きくなった。意識を前に戻すとこの世で最も美しいのは誰かと問われれば真っ先に名前が挙がる司祭が現れた。普段から超越した美を誇るのに今日は一段と輝き美貌に磨きが掛かっている。気のせいか眩しい。隣からヒースグリフがキースグリフに「司祭様眩しくない?」と問い掛け、キースグリフは頷いた。
「他の人が霞んで見えちゃう……」
「だよな〜」
2人の気の緩んだ声を音響にアエリアは上を見上げた。まだ来ていないが護衛らしき騎士が待機している。次に違う隣を一瞥した。期待した眼差しで上を向いているエルヴィラをシトリンが前を向くよう聞かせても下げない。
「――!」
見る気はなかったのにケインと目が合ってしまった。周りを見ていた風を装って視線を流せばよかったのに、紅玉色の瞳と合った瞬間硬直してしまう。見えない手に掴まれ身動きが取れない気分だ。
「……」
緊張し、身構えたのに。ケインが寄越したのは無言の挨拶だけ。軽く頭を下げたのでアエリアも返した。何事もないと前を向いたケインから視線を逸らしたアエリアも前を向いた。
(……ちゃんと考えなくては)
彼に前の記憶があるのか、ないのか。
あるのなら――どうしてファウスティーナをベルンハルドから離そうとしないのかを――。
読んでくださりありがとう御座います。




