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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄編―リ・アマンティ祭―
205/353

好きな子の好きな物


やっと更新できました_:(´ཀ`」 ∠):



 



 年に1度、秋に開催される『リ・アマンティ祭』


 他国からも多数の観光客が訪れる。その中には高位なる者が多数紛れている。今年は隣国の若い国王がお忍びで来るとメルディアスから聞かされた2人は揃って見上げた。



「隣国ではお家騒動がありましたよね?」

「先代司祭様が関わってましてね」

「他国の王族の問題に大叔父上が関わったのはどうしてなの?」



 ベルンハルドの問いはファウスティーナも答えを知りたい。



「隣国の先代国王は、1人しかいない王子ということで非常に甘やかされて育ったお坊ちゃんで。我が国の先王陛下や先代司祭様と親しかったかの王は保険をかけていたのですよ」



 当時王太子であった国王が王国にとって不要と判断されたなら、問題なく退位されるよう裏から手を回してほしいと頼んだのだ。甘やかしたツケが回ってきただけだとメルディアスは微笑みながら淡々と口にする。たった一人しかいない国の後継を大事に大事にしてしまうのは、国としても仕方なく、親としても仕方なかったのではとファウスティーナは抱いた。


 お家騒動が起きた原因は話してくれず。ただ、とメルディアスは「隣国の先代国王は王妃様を振り向かせたくて必死なお子様とだけ言っておきましょう」と付け足した。ますます意味が分からなくなった。お家騒動と王妃に対する感情がどう結びつくのか。



「とまあ、隣国の話は置いといて。街に入りますよ」



 教会から街はそう遠くない。メインのイベントに参加するべく教会に向かうカップルを何組も目撃した。皆、仲睦まじい男女しかいなかった。


『リ・アマンティ祭』開始時間が過ぎてから殆ど経過していないのに、街には多くの人で溢れていた。



「道中話した通り、殿下はお嬢様の遠い親戚という設定で通しますのでお忘れなく」

「分かってる」

「お嬢様も殿下の呼び方には気をつけて」

「は、はい」



 ファウスティーナにとって最難関の名前呼び。何度も視線を感じつつも、気付いていないふりをした。いざ呼ぼうとしても恥ずかしさが増すのと同時に前の冷たい瞳を思い出す。思い上がるなと突きつけてくる。今の彼なら、名前を呼んでも怒ったり睨んだりはしてこないと、ファウスティーナだって分かっている。

 分かっていても恐怖が消えないから呼べない。



「途中、ネージュと会えたらいいんだが……」



 今日はベルンハルドの弟ネージュもお忍びで来ている。別行動ではあるが弟が気になるベルンハルドは帽子を深く被りながらも視線を動かす。



「見掛けたらお教えしましょう。向こうもある程度の変装はしているでしょうし」

「どんな変装をしているのですか?」

「僕と同じだよ。侍女のラピスが同行してるから、彼女がいたらすぐに分かる筈さ。――あ、ファウスティーナの気になるお店が見えてきたよ」



 最初に到着したのはファウスティーナの選んだ『エテルノ』の出張店。アップルパイが美味しいと評判で、8歳の誕生日プレゼントで強請ったアップルパイはこの店で作られている。開始間もないのに、店の前には列が作られていた。小走りで列に並んだ。

 数量限定と看板に書かれており、自分の分まで回るか不安を抱く。



「人気ですね……買えなかったらどうしよう」

「『エテルノ』は王都でも人気のスイーツ店だから、中々王都に来られない街の人にしたら滅多にないチャンスを逃したくはないだろうね」

「殿下も『エテルノ』のスイーツは好きですよね」

「うん。特に、今の時期に販売されるアップルパイはとても美味しいんだ」



 普段使用されるリンゴとは違う品種が使われ、毎日数量限定でしか販売されない。見た目も凝っており、材料と調理にかかる時間を考え、数量を少なくしているのだろう。



「アップルパイはお祭りが終わったら司祭様の屋敷で頂きましょう。司祭様もお疲れでしょうし」

「それじゃあ、ホールを2個買わないとね」

「殿下の飲み物はホットミルクをご用意しますね。砂糖を小さじ1杯入れた甘さがお好きですよね」

「……」



 楽しんでいるのは間違いないのに、ベルンハルドは急に真顔になった。気に障る発言をしてしまったかとファウスティーナが焦ると彼の方が慌て、違うと顔の前で両手を振った。



「違うんだ。ファウスティーナは僕の好きな物を知ってくれてるなって思って」

「(! やってしまった……!)お、王妃教育が終わった後にするお茶の時間で王妃様に教えられて」



 苦しい言い訳ではあるが真実味はある。

 そっか、と納得してくれて安堵した。


(知ってて当然だもん。殿下が何を好きか知りたくてずっと殿下だけを見ていたから)


 嫌われていてもベルンハルドの好みや趣味を把握し、ほんの一欠片でもいいから好意を上げたくて必死に調べた。王妃が教えてくれた情報もあるが、殆んどがベルンハルドを見て得た情報だ。



「僕もファウスティーナの好きな物を言えるよ」

「え」

「オレンジジュースでしょう? あの小さいアヒル……コールダックか。それと甘いお菓子や花だよね」



 お菓子や花に関しては種類まで言い当ててくる。会話の中でコールダックやスイーツの話題は何度か出ているから、ベルンハルドが知っているのは当然だが。細かい種類まで言い当ててくるのは意外だった。話したかと記憶を辿ってしまう。



「ケインが教えてくれたんだ、ファウスティーナがどんな物が好きか」

「お兄様がですか?」

「うん。顔合わせをして1ヶ月経ったぐらいにね」



 知らなかった。ケインに素振りはなかった、言われてもいない。

 前の時みたいに2人が険悪でなくて良かった。原因がほぼ自分のせいだとしても。

 将来、主人と臣下になる二人が険悪なのはよろしくない。ケインは妻の兄なのだから。

 はにかんだ笑みを出しつつ、前が動いたのを見て「僕達も進もう」と手を繋いで引いてくれた。


(殿下……)


 前と今のベルンハルドは、同じであり違う。

 頑なにベルンハルドとエルヴィラがお似合いだと思い込む意思の硬さが柔らかくなっていく。


(前の殿下は私が何を好きかなんて知らないだろうな……毎年贈られた誕生日プレゼントは、誰にでも似合う無難な白い物。好物だって知らない。いつもお茶をするのも、学院のお昼を摂るのも、側に置いていたのはエルヴィラだったから)


 でも今のベルンハルドは違う。自分だけ……と言うと嘗ての傲慢な自分が復活してしまう危険性があるので絶対に抱かない。


 婚約者としてファウスティーナを見てくれる。

 前の進みが止まって自分達も止まった。

 小声で殿下と呼んでいたのを変えてみよう。

 ベルンハルドとは呼べないので愛称で呼ばないとならない。

 愛称はシエルがよく紡いでいる――一つしかない。

 漸く自分達の番になった。アップルパイは幸いにもまだ残っていた。



「アップルパイをホールで2個ください」

 1つはお祭りが終わったらベルンハルドと食べる分。もう1つは今日沢山働く(予定の)シエルやオズウェルの分。ヴェレッドは何をさせられているか不明である。


 店の人から箱に入れられたアップルパイを受け取り、代金を支払った。

 アップルパイはメルディアスが持つことに。



「買えて良かったですね、お2人とも」

「はい!」

「次は坊ちゃんの選んだ書店が近いですよ」



 ベルンハルドが選んだ店の1つは書店。南側の街で昔から営まれている古い書店で珍しい書物が置かれているのも少なくないと父シリウスから聞かされ行きたくなった。



「ネージュが好きな本を見つけてあげたいんだ」

「ご自身の本は?」

「勿論、僕のも探すよ。ファウスティーナに勧めたい本もあるんだ」

「私にですか?」



 どんな本か訊ねても着いてからのお楽しみと言われれば、待つしかない。

 ベルンハルドの名前を呼ぶタイミングを探すが見つからない。どこで言えるかとソワソワしてしまう。



(落ち着け、落ち着くのよファウスティーナ。チャンスはいくらでもあるし、前の自分はどんな目で睨まれたって黙らされたってめげずに呼んでいたじゃない! その時の度胸を! ……ちょっとだけ思い出してー!)



 内心絶叫していると見せないのは、厳しい王妃教育のお陰である。

 真面目に受けてきて良かったと今一番抱いた。




今までのベルンハルドもファウスティーナの好きな物は知ってましたが本人に伝わる訳もなく……です。



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― 新着の感想 ―
漸く頑なだったファウスティーナの思い込みにヒビが入ったか?? 結局のところ、ファウスティーナは自分が傷つきたくないからベルンハルドを信じてあげれないだけなんだと思うんだよね。自分が可愛いだけなんだと……
[一言] 護衛が荷物を持ってはいけないのでは? 非常時に戦えません。
[気になる点] 筆者様は、「思う」ということばを封印しているのでしょうか? このことばを使わずに書くと固く決意しているのかと考えてしまうほどに、異常なほど代わりに「抱く」を使う。 文章の流れからして不…
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