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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
婚約破棄編―リ・アマンティ祭―
179/343

訪問理由は何か

 



 美味しいスイーツを朝食とし、オレンジジュースを好むファウスティーナは今日だけ紅茶にしたのに。予想外過ぎる訪問者の報せを受け、年に何度かある口に食べ物を入れてなくて良かったと安堵した。執事から話を聞いたシエルは紅茶を1口含むと「誰といるの?」と変わらない声色で訊ねた。「使用人と思しき女性と2人です」と返され、また紅茶を飲んだ。

 ファウスティーナはフォークをテーブルに置いた。



「私が話を聞きに行きましょうか?」

「いや。2人を客室に案内しといて。メルセス」

「はーい」



 シエルに呼ばれたメルセスは間延びした声で返事をする。ティーカップをテーブルに置いたシエルが甘い飲み物を作るよう指示を出した。その際、()()()()()()()()()()()()美味しくと強調して。綺麗に微笑んだまま、食堂をメルセスが出て行くと執事に後で紙とペンを持ってくるよう告げた。



「ヴィトケンシュタイン公爵に速達を出すよ。今頃大騒ぎだろうから」

「あ……」



 言われてファウスティーナは、今の時間は高確率で家族皆起きて朝食を摂る。エルヴィラが部屋にいないとなり、大騒ぎとなっているのは間違いない。7歳の頃、仕えていた執事によってファウスティーナが誘拐されてから、屋敷内の警備は厳重になっているのに2度目の誘拐が起きたと勘違いしてもなんらおかしくない。好かれてなかろうが姉と思われてなかろうがここは自分が叱らないとならない。やっぱり会いに行くと椅子から降りた。

 食堂を出て速攻で捕まった。

 シエルに。



「まあまあ落ち着いて。君が行ったところで逆効果だ」

「でもっ、ご迷惑をおかけしては」

「ある程度の予想はついてる。まあ、ここは公爵が来るのを待とう」



 抱き上げられて困ったように眉尻を下げても、天上人の如き美貌で微笑まれると頷くしかない。あっさりと席に戻されたファウスティーナは、予想外にも程がある行動を取ったエルヴィラの真意を予想してみた。

 屋敷の使用人らしき女性を連れての強行手段。トリシャではないだろう。エルヴィラの専属侍女だが彼女は甘やかさない側。次に別の侍女。こちらはエルヴィラに甘いがさすがに無謀な行動に手を貸す度胸はない。残るはファウスティーナの予想の範囲にいない侍女か使用人。後程、シエルが会いに行くと言うのでこっそり室内を盗み見よう。

 目的は何か……。教会生活が約1ヶ月が過ぎた頃。ベルンハルドと会う定期訪問を終えた翌日だ。ケインから届いた手紙の最後に愚痴が書かれていた。

 ベルンハルドが来ないのはどうしてとエルヴィラが泣いた、と。脱力したのは言うまでもない。エルヴィラの考えでは、定期訪問の日になったらファウスティーナは屋敷に戻るとなっていたらしい。王太子が婚約者がいるからと遠い教会まで馬車を走らせるのはおかしいというのがエルヴィラの主張。教会(ここ)には叔父シエルがいる。遠くても婚約者と叔父、両方に会えるのならベルンハルドにとって苦ではない。

 何度目かでようやくファウスティーナが屋敷にいないとベルンハルドに会えないと理解したエルヴィラは、今度は王城に連れて行ってほしいと父に泣き付いた。当然、用事もなく行ける場所じゃない。すぐに却下された。

 ケインや父が苦労しているのが手紙の文面だけで読み取れて申し訳ない気持ちで一杯になった。



「ふわあ……はあ。なんというか、面白いよねお嬢様の妹君は。行動力豊かというか」

「今回ばかりは、お父様も怒りますよね……」

「公爵様でも怒るんだ」



 温和で子供達を叱る時は、怒鳴るのではなく諭すように優しく言い聞かせる父。前回の記憶を取り戻す前のファウスティーナにもそうであった。優しい父の怒る姿……全く想像が浮かばない。



「普段怒らない人が怒ると怖いのは公爵様も同じかな? シエル様はとっっっても怖いよ」

「司祭様も怒るのですか?」

「私が怒るのはヴェレッドだけだよ。人のティーカップに何を入れてるの」



 シエルの蒼の瞳が好物の紅茶に白い粉を入れ続けるヴェレッドを睨んだ。



「砂糖。朝から甘い物食べなきゃ」

「十分食べてるよ。誰か、新しい紅茶を淹れて」

「飲まないの?」

「あげる」

「いらない。いくらシエル様でも、飲みかけなんかごめんだよ」

「誰のせいかな」



 要らぬちょっかいを出しては静かな怒りを食らって大人しくなる。シエルとヴェレッドのやり取りも教会に来てからの日常光景となった。


 トルタ サッビオーザを食べた感想としては、ほろほろとした食感と砂のような食感が特徴的だった。味は美味しく、食べ過ぎてしまいそうになるが素朴な見た目に反し、たっぷりとバターと砂糖が使われているので食べ過ぎは厳禁。どんな物でも言えるが程々が1番。

 食後の紅茶を淹れてもらっているとメルセスが戻った。



「エルヴィラ様とお付きの方は、お疲れだったみたいでココアを飲んだら眠ってしまいましたわ」



 朝食の時間に現れたということは、早朝から馬車を走らせ此処までやって来たのだろう。朝は弱い方なエルヴィラがいつもよりずっと早い時間に起き、更に慣れない長距離での移動は想像以上に体力を使った筈。



「エルヴィラは何か言ってましたか?」

「詳しいことは聞けてませんが、どうもお嬢様に用があるみたいです」

「なんだろう……エルヴィラが私に用があるって、殿下絡みしか思い付かない」

「それは公爵様が着き次第、ご本人に聞いてみましょう。公爵様が着く頃には起きますでしょう」

「そうだね」



 その後は一旦部屋に戻った。シエルと街へのお出かけはなしとなった。食堂を出る間際、落ち込むシエルに次がありますと慰めた。

 1人、ベッドに腰掛けたと同時にノックもなしに扉が開いた。「やっほー」と礼儀もなしに入室したのはヴェレッド。ノックもなしに入るのはほぼ彼しかいない。

 ヴェレッドはファウスティーナの前に立ち、意地の悪い笑みで見下ろす。



「王太子様絡みって心当たりでもあるの?」

「あると言いますか……エルヴィラが私に絡むと言えば、殿下以外思い付かないのです」

「はは。そうなんだ。まあ、強ち間違ってはないんじゃない?」

「どういう意味ですか?」



 興味強く聞くと。

 ファウスティーナが教会で生活をし始めてから、何度か悪夢に魘されるエルヴィラが両親に王太子を見ると救われると泣いて訴えたそうな。悪夢の内容は覚えてないらしい。ただし――



「夢の中で妹君は動けないんだ。動けない自分に誰かが『能無し』だの『役立たず』だのと罵倒し続けるんだって。間違ってないのが面白い」

「面白いかどうかは置いといて……」



 エルヴィラの見る悪夢は起きた直後も精神に多大な負荷を与える。深刻な睡眠不足に陥りかけた時、不意にベルンハルドの名を出した。



「で、王太子様に会いたいって公爵様達が手が付けられないくらい泣いて暴れたんだって」

「悪夢と殿下に関係があるのですか?」

「さあ。王太子様に会いたいから悪夢を見ていないのに見たと嘘を言っているのか、本当に王太子様に会ったら悪夢から解放されると思ったのかは知らない」

「殿下からは何も聞かされてませんのでお父様は会わせなかったのでしょうか?」



 うん、とヴェレッドは頷いた。王都の名医に安眠に絶大な効果を齎す睡眠薬を処方してもらい、始めは嫌がりながらも薬の効果があると知ると自分から飲み始め、以降悪夢を見なくなったらしい。



「俺が聞いたのはここまで。もし、今日妹君が強行手段に出た理由がまた悪夢を見始めたのなら……」

「……お父様にお願いしても殿下に会わせてもらえないから、私がお願いするように言うために?」

「可能性はあるよね」

「それだと手紙でもいいのでは」

「絶対な確証が欲しいんじゃない。直に本人に会って言質を取って安心したいんだよ。お嬢様のお願いなら王太子様も聞いてくれるだろうし」

「そうでしょうか」



 ベルンハルドも多忙な身。毎月の定期訪問も日が近付くと予定を調整して会いに来てくれる。

 嬉しく思いながらも、いつかは別れる身。

 程々にしないといけない。



「どう思おうがお嬢様の勝手だよ。シエル様とのお出かけがなくなったなら、俺と教会の周りでも歩く?」

「はい!」

「食後の運動しないとお嬢様が可愛い子豚になっちゃうしね」

「……」



 嬉しい申し出も余計な言葉のせいで台無しである。

 ジト眼で見上げると鼻頭を指で撫でられた。

 これがケインだと押してくる。


 手を差し出され、目をそのままに握った。



「はは! 不細工な顔!」

「女の子に向かって子豚なんて失礼なこと言うからです!」



 全くこの人は……! と怒りながらも強く手を握った。






読んでいただきありがとうございます!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 今回は、まだベルは決定的な一言を言ってないから ファウスティーナとは決裂していないけど… [気になる点] エルヴィラに逆らえないベルという呪いは 運命の赤い糸を結ばれてなくても掛かるのかな…
[気になる点] 何でエルヴィラちゃんだけ呪いの糸強化版みたいになってるんだろう? 本人の性格?他の人が関係してる? 全員の糸を断ち切った方が皆幸せになりそう…。 あれ?公爵夫人は運命とか関係無くあの…
[良い点] ヴェレッドととのほのぼの会話に癒されました。 この二人の会話ややり取りがイチャイチャに しか思えません。 [気になる点] ベルンハルドにエルヴィラと会わせたらどうなるか気になります。 [一…
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