テストの結果
今日はエルヴィラのクラス分けテストの日。部屋で今後の事をジュード、リンスー、カインを交え話しているとトリシャがやって来た。
試験官が先程帰ったと聞かされ、テストの出来を伺った。
「トリシャから見てエルヴィラはどうだった?」
「お嬢様は自信たっぷりでした」
「あとは、その自信がちゃんと結果に繋がってるか、だね」
王太子の運命の相手と認定されてから、更に勉強の量を増やされ毎日泣いていた。家庭教師も根気よく付き合ってくれるだけ有り難い。
母が暫く領地で療養することになり、味方のいない公爵邸よりも領地の方が良いのではと思うも、それでは通学が不可能。
エルヴィラもそれは分かっているらしく、殆ど部屋から出て来ようとしない。ただ、偶にファウスティーナにベルンハルドの来訪がないかを訊ねに来る。無いと正直に言っても嘘だと決め付け、追い出したら泣いて部屋に帰って行く。入学したら、このことをこれ幸いとばかりにベルンハルドに涙を流して話すのだろう。姉が自分に冷たい、無視をすると。実際は、エルヴィラに対し無関心になっただけ。気持ちを向ければ疲れるのはファウスティーナ。ベルンハルドも母も無関心になれば良いのに。そうしたら、余計な気を遣わず疲れないだろうに。
トリシャを交え、話を再開させた。
「エルヴィラが入学したら、絶対に殿下に突撃すると思うの。私がどう振る舞うかだけど、学院で水をかけるのは無理だよね」
「そもそも、用意するのが無理です」
カインに言い切られ、項垂れた。屋敷でも練習がてらエルヴィラがしつこく絡んで来た時は然りげ無く用意された水をかけたが、補助をしてくれる人がいてこその水かけ作戦。
ファウスティーナ1人では、どんな時でも水を用意してエルヴィラにかけるのは不可能。
「王太子殿下とエルヴィラ様が一緒にいる時にお嬢様が突撃するのはどうですか?」
「やっぱり、それしかないよね……」
幼少期の時みたいに、毎回ベルンハルドに引っ付くエルヴィラに怒声を浴びさせるしかない。暴力だけは絶対にしない。あと、足を引っ掛けて転ばせたり等も。怪我をさせたら大変だ。
リンスーの提案を聞き、これ以上の案は浮かばなかった。
「じゃあ、突撃した時何を言うかだよね」
「うーん……一般論としては、身内の婚約者に不用意に近付かない事、あと、婚約者のいる男性に対し無礼だと言うのを知ってもらわないと」
「今更だけど使えるね」
ジュードの案を頭に入れつつ、他の人の意見も聞いていく。
「カインは何かある?」
「そうですね……エルヴィラ様の成績を暴露する、と言うのは? 今日のクラス分けテスト、多分ですがエルヴィラ様自身が思う程良い結果になるとは思えないので……」
家庭教師曰く、良くてCクラスだと判定していたくらいだ。Aクラスは絶対にないだろう。奇跡と表せるならBクラス。Bクラスなら、あまり悪口にはならない。
口にするとジュードが首を振った。
「そうとは限りませんよ。お嬢様やケイン様がAクラス、2人トップクラスの成績を保持しているのでBクラスでもエルヴィラ様は肩身の狭い思いをするかと」
「確かに……ケイン様は入学してからずっと全教科満点ですから」
王立学院創立以来、入学してから小テストを含め、全部のテストで満点を取ったのは現国王と王弟、そしてケインとクラウドだけ。
ファウスティーナは全教科満点は達成されてない。幾つか数点減点されるなどが多い。
ケインの頭の良さに改めて戦慄する。
「あと、クラスによって授業内容が変わるのですよね? Bクラスだったら、エルヴィラ様がちゃんと授業についていけるか……心配です」
トリシャの心配は尤もだった。
Aクラスは、主に高位貴族の跡取り子息や令嬢、王族が在籍するクラス。Bクラスも伯爵家以下の跡取りや将来文官を目指す生徒が多い。授業内容も格段に難しくなる。
エルヴィラのクラスは一先ず置き、話を最初に戻した。
「エルヴィラの成績を暴露するっていうカインの案も入れよう」
「ファウスティーナお嬢様、その時は司祭様が王弟殿下と知らなかった事実も入れておいた方が。大勢の生徒がいる前で知られれば、エルヴィラ様はかなりの恥をかきますので」
「うん。ジュード君の入れよう。他には?」
リュンがファウスティーナを呼びに来るまで話し合いは続いたのであった。
――数週間後。
クラス分けテストの結果が送られた。
「な……なんで……っ」
信じられないと震えるエルヴィラが知らされたのは、Cクラスという結果。
困ったように眉を下げるシトリン、予想通りだよと小さく息を吐いたケイン、奇跡は起きなかったと抱くファウスティーナ、三者の反応にエルヴィラは綺麗な雫を流していく。
「ど、どうせ、わたしが落ちこぼれクラスになったのを馬鹿にしているのですね!」
「Cクラスは可もなく不可もない、普通のクラスだよ。落ちこぼれはEクラス。1つ上のDクラス辺りかと思っていたから、Cクラスで良かったよ」
「酷いですわお兄様! わたしがどれだけ頑張ってお勉強したと……!」
「そういう台詞は、俺やファナが受けてきた勉強量と同じ量を熟してから言いなさい。昔から言っているのに母上を盾にして逃げ続けていたツケが今に回っているだけだよ」
「っ!!」
ケインはそれ以上は言わず、ファウスティーナの手を取って出て行った。同じ場所にいれば、次の標的をファウスティーナに変えるエルヴィラの行動を防ぐため。
部屋を出るとケインは足を止め、背を向けたまま呼ぶ。
「ファナ。エルヴィラが入学して殿下に近付いても、絶対に幼い頃のように突っ掛からないこと。殿下にも、エルヴィラが来ても無視をするよう頼んであるから」
「……あのエルヴィラを大好きな殿下が聞く耳を持つとは思えませんわ。殿下は、お兄様の事を私と同じくらい嫌っているので」
「ファナ」
くるりと振り向いたケインの瞳が微かに揺れていた。
「ほんのちょっとで良いから、ベルンハルド殿下に歩み寄るチャンスを与えてくれないか」
「……あの殿下がエルヴィラを無視するなんて無理です。本当に殿下がエルヴィラを無視するなら、少し考えます」
――有り得ない事実は、当然現実にならなかった。
月日が経ち、新入生入学となると早速エルヴィラはベルンハルドに近付いたのだから。
ケインに言われた通り、関わらないようにしたいのに、涙目で泣き出し寸前の声で迫られ無下に出来なくなったベルンハルドは、一層無関心さと冷たさを増した薄黄色の瞳に見られ、呆然と立ち尽くしたのだった。
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