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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
過去編①ー悪役令嬢は婚約破棄の為に我慢をしましたー
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イル・ジュディーツィオが見た彼女の深層心理


前話から更新してます。



 

 家庭教師との授業でも、王妃教育でも必ず習った絶対的中立を貫く審判者イル・ジュディーツィオ。運命の女神が下し、結んだ運命の糸を唯一覆せる力を持つ者の名前。フワーリン家出身のシエラが王妃になったのは、当時の政治的関係から相応しい令嬢がいなかったから。

 先王妃の生家グランレオド公爵家は除外。

 ヴィトケンシュタイン公爵家は嫡男のみ。

 フリージア公爵家は年子の兄弟。

 ラリス侯爵家は王妃の派閥にいた為除外。

 フリューリング家は年子の姉妹がいたが、何故か先王は絶対に姉妹だけは王妃には出来ないと臣下の進言を聞かなかった。

 先王妃とその父前グランレオド公爵の息のかかっていない貴族の令嬢、且つ、並の相手では潰せない強い力を持つ家。

 それらを考慮した結果――中立の立場を貫いてきたフワーリン公爵家の長女シエラに白羽の矢が立った。フワーリン家は、公爵家において唯一王妃を輩出していない。初めてで、異例の決定で当時王太子だったシリウスの婚約者になった。

 

 先日の建国祭で起きた“運命の恋人たち”誕生について、君の意見を聞きたいとクラウドは問うた。

 ファウスティーナの意思によって起きた出来事と言えば、目の前の彼は雰囲気からふわふわを消すだろうか。

 ぼんやりとそんなことを抱いてしまう。

 どうぞ、出された紅茶を飲むと頭が幾らかスッキリとする。不思議な味にもう1度飲んだ。

 

 

「で?」

「!」

 

 

 紅茶に夢中になる前に、穏やかでありながら意識を逸らすのは認めていないと圧のかかった声が呼ぶ。ティーカップをテーブルに置いて前を向いた。

 

 

「ベルンハルドとエルヴィラ様が“運命の恋人たち”になったことについて、君はどう思っているの?」

「殿下が幼い頃から大事にしていたエルヴィラとの仲が運命の女神に認められて良かったと思っています」

「あ、ははは! 本気で言ってる?」

 

 

 驚いた。声を上げて笑うクラウドに。笑っても、声を漏らさず微笑みを浮かべているだけの姿しか知らない。

 

 

「そっか、そっか。君はエルヴィラ様とベルンハルドがお似合いだと思ってるんだ」

「……ずっと、私は見ていましたから」

「はは、そうだね。ケインからよく聞いていたよ。ベルンハルドが来る度に君達のいる場所に行って、君に怒られて泣いて走り去るエルヴィラ様を毎回追い掛けて、君が1人残されるって」

「お兄様はクラウド様には何でも話すのですね」

「僕が強請るんだ。ケインだけだよ、あんなに硬いのは」

「?」

 

 

 頭の硬度や考え方の問題かと抱くも、違うよとクラウドは心を読んだタイミングで笑いながら首を振る。

 

 

「君がどうなのかは分からない。でも僕は生まれた時から見えるんだ。他人の運命の糸が」

「!」

「見えない糸に触れるとその人の心情が流れてくる。更に知ろうとしたら、その人の行き先が見える。自分の力が何か分からなかった時は、見てて気分の悪くなった糸は千切ったりしたよ」

「クラウド様……クラウド様は、殿下とエルヴィラの運命の糸を……どうしたいのですか?」

「逆に僕にも聞かせてよ」

 

 

 あの時クラウドには見えていた。

 エルヴィラの赤く太い糸とベルンハルドの糸を繋げるように結ばれたもう1本の別の赤い糸を。

 

  

「あれは何?」

「っ……」

 

 

 ベルンハルドとエルヴィラを無理矢理“運命の恋人たち”にした赤い糸。微笑みを絶やさず、でも口を閉ざすのは許さない威圧。頬から垂れた冷や汗がファウスティーナの手の甲に落ちた。

 彼に見間違い、などという苦しい言い訳は使えない。実際に見えているからこその、問い。

 

 

「2人を結ぶ為に用意された運命の糸です……フォルトゥナ様が用意して下さいました。そして、リンナモラート様が結んで下さいました」

「……そう……姉妹神が同時に君に力を貸したんだ。ベルンハルドとエルヴィラ様を幸福の象徴にする為に。ベルンハルドは、何度も君とやり直したいと言っていたけど……信じてみたい気持ちはなかった?」

「……口では何度も殿下を拒絶しました。あなたの言葉なんて絶対に信じないと、ずっと庇って、可愛がり続けたエルヴィラと結ばれてしまったらいいと。でも、心の奥底では殿下を信じたい自分がいたのも本当です」

「君の本音は分かった。質問を変えよう。どうして頑なにエルヴィラ様と結ばせることに拘ったの? 他の令嬢では駄目だったの?」

 

  

 言われて頷いた。ベルンハルドが表立って守ってきたのはエルヴィラただ1人。ファウスティーナやエルヴィラ、従妹のルイーザを除いて交流を持っていた令嬢はほぼいなかった筈。

 クラウドは一言謝ってファウスティーナの左手を掴んだ。

 不思議げに見つめていると……瞠目し、小さな声で「…………そういうこと……」と呟くと手を離した。彼は何を知ったのか。訊ねても、威圧も何もない、普段の読めないふわふわとした微笑みを浮かべた。



「僕は卒業までベルンハルドと君が婚約継続だったら、エルヴィラ様と結ばれた赤い糸を切る。でも、もし君が婚約者ではいられなくなったら……その時は手出しはしない。君の勝ちになるね」

「クラウド様はさっき何を見たのですか?」

「さあ。何を見たんだろう。

 さて、僕は行くよ。僕が出て行って、暫くしたら君も出るといいよ。生徒会室には誰もいないけど、念の為にね」



 最後まで何を見たかを言わず、お茶の用意を持ってクラウドは出て行ってしまった。

 どっちの味方でもあり、違う。

 クラウドの言う、婚約者ではいられなくなる手段をファウスティーナは持っている。正確には、知っている人が持っている。

 エルヴィラ水かけ作戦の本格化はまだ先。エルヴィラ入学を機に、兎に角ベルンハルドが側にいる時かける。問題があるとしたら、側にいるベルンハルドにまで水がかかってしまうこと。やはり水かけは側は側でも、濡れない範囲にいる時だけにしよう。残るエルヴィラとベルンハルドお似合い作戦は……『愛に狂った王太子』で悪役の姉がよくやっていた、相手の悪口くらい。

 屋敷に戻ったら、内密にトリシャからエルヴィラの成績を聞いておこう。エルヴィラに対する悪口と言ったら、勉強の出来なさしかないので。

 

  

「……絶対に、成功させなきゃ」

 

  

    


読んでいただきありがとうございます!


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― 新着の感想 ―
何だか何度も同じことの繰り返しで、話がちっとも進んでいかない…気のせいか? ベルンハルドはどうしてエルビィラ自信に「付きまとうのは止めてくれ、ファウスティーナを愛しているから傷つけたくない」って言わ…
定番とはいえ嫌がらせが水かけだけっていうのにいつも笑ってしまう。本を参考にするのはいいけど、もう少し考えたら色々あるのでは?
ファナが頑なな理由、王太子を自殺させたくないっていう覚えてすらいない周回心理?
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