秘密のお誘い
5年前の祝福された建国祭
今年の“運命の恋人たち”が誕生した建国祭
幸福の象徴たる存在が誕生したことは、瞬く間に王国全土に広がった。
翌日、両親は国王からの呼び出しにより朝から登城して不在。
朝食の場で、自分がベルンハルドの運命に選ばれたと勝ち誇った笑みをファウスティーナに向けて愉悦に浸っていたエルヴィラだったが、数人の使用人が運んだある物を見て愕然とした。
ケインの説明により、使用人が運んだカートに乗せられている本の山が今までファウスティーナが受けていた王妃教育の内容だと知った。
それも1日分。
「エルヴィラが殿下と“運命の恋人たち”となったのなら、当然王太子妃候補となる。今日の話し合いでどうなるか分からないけどいい機会だ。ファナが受けていた教育をエルヴィラも今日から受けなさい」
「こ、こんな量、む、無理です!」
「無理? どうして? さっき、ファナに殿下に選ばれたのは自分だと馬鹿にしていたくせに? 他人を馬鹿にする余裕があるエルヴィラなら、この程度の量の勉強くらい造作もないだろう?」
「そ、そんなっ……こ……こんなの……」
今まで公爵令嬢としての勉学は、必要最低限しかしてこなかったエルヴィラが、王妃教育を長年受け続けたファウスティーナと同じ量の勉強をするのは到底無理な話。縋るようにファウスティーナを見るが、何故下に見ている相手に助けを? と首を傾げられ。ケインは食事の終えたエルヴィラの皿を一瞥し、控えるトリシャに命じた。
「トリシャ。他の人と協力してエルヴィラを昼まで部屋から出さないように」
「は、はい」
「お兄様あ……! わ、わたしには……!!」
「早く連れ出して」
「はいっ!」
トリシャと他数人の侍女に引きずられ、食堂を出されたエルヴィラの泣き声が遠くなっていく。カートを運んだ使用人達は後に続いた。
静かになった食堂で食後のティータイムを堪能するケインの容赦のなさにファウスティーナは戦慄すること何回目だろうとぼんやり数えた。
回数は出なかった。
部屋に戻ったファウスティーナは今後どうなっていくのだろうと、ソファーに座って思考する。
両親と王家側の話し合いの結果次第。
結果を聞いてから、改めて考えよう。
読書、刺繍、勉強。
時間を潰すには、どれも集中力の欠けた今どれも微妙な手応えだった。
時計をチラリと見た。昼になる手前。両親はまだ戻らない。やはり、話し合いが難航しているのだろう。無理もない。王太子の運命の相手がまさかの婚約者の妹だったのだから。婚約者変更となっても問題がなければ、多少の問題はあれどスムーズに事は進んだ。
しかし、幼い頃から母に甘やかされてばかりで嫌なことから逃げ続けたエルヴィラが王太子妃になれる要素は皆無。2ヶ月後にあるクラス分けテストでは、ギリギリでCクラスと教師が判定していた。歴代の王妃は、皆Aクラス出身。悪くてBクラス。
両親、特に父に大事な話がある。戻ったら、少しでもいいから時間を作ってもらおうと決めた。
「お嬢様」
ぼんやりとするファウスティーナに手紙を持ったリンスーが呼んだ。
「フワーリン公爵家のルイーザ様からお手紙が届いています」
「ルイーザ様が?」
入学当初、ルイーザの兄クラウドから教会での生活(正確にはシエルの話)をしてあげてと頼まれ、何度かフワーリン公爵邸に赴き、憧れの司祭の話をした。昨日の今日なのでシエル絡みなのは必須。リンスーから手紙を受け取り、机の引き出しからペーパーナイフを出した。慎重に開封し、中の手紙を開いた。
「え……」
「どうされました?」
「う、ううん。何でもないよ」
ファウスティーナは封筒の差出人を見た。
名前はルイーザ=フワーリンとある。
……だが、実際に手紙を送ったのはルイーザじゃなかった。
(クラウド様……)
手紙の差出人はクラウドだった。妹の名を使って他家の令嬢に手紙を送るのは、彼の人柄を考えると有り得ない。
手紙を読んでいく内、彼が何故ルイーザの名を騙って手紙を送ったのかを知った。
「リンスー」
「はい」
「ルイーザ様からの手紙は他の誰かに話した?」
「いえ」
「そっか。内緒にしてて」
「分かりました」
この手紙に返事は不要。
ファウスティーナが明後日、学院のある場所に指定された時間行けばいいだけだから。
『突然こんな手紙を送って申し訳ない。君にとても大事な話がある。登校日になったら、下に書いてる場所と時間に来てほしい。
ただ、来る前から事情は知っておきたいよね。
君も知っての通り、昨日ベルンハルドと君の妹君が“運命の恋人たち”に選ばれてしまった。
君に問いたいんだ。
……女神の選択が正しいか、否かを。
君が否と言うなら、2人の運命の糸を否定しよう。
だけど、君が正しいと言うなら…………肯定しよう。
考えておいてね。あと、ケインには内緒にしてね』
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