過去の夢①
区切りがいいので今回はかなり短いです。
新鮮な水分を補給し、春の陽光を浴びて咲く花の輝きは一層強く放たれ、普段見る花より美しい。
王城のとある部屋で外を窓越しから見下ろすファウスティーナ。ぼんやりと見つめる先には、7歳の時初めて出会った婚約者が決してファウスティーナには向けない笑みを彼女の妹へ向けていた。
――と、何故か過去の記憶を第3者目線で眺めるのは前の記憶を持った7歳のファウスティーナ。何度か過去の記憶を夢として見る事はあるが、こんな風に明確な意識を持って見るのは初めて。
(前の自分を客観的に見るいい夢だったりして)
あくまでもポジティブに。今後の為にもしっかりと見ておかないと。しかしこの後の展開は何だろうか。似たシチュエーションは数え切れない程あるので、今この時がどれなのかファウスティーナ本人も分からないのだ。
「私も……お母様と同じ髪と瞳だったら……ベルンハルド様は見てくれたかしら」
(ないと思うな)
容姿ではなく、中身のせいで嫌われたのだ。貴族特有の傲慢さに加え、ベルンハルドの寵愛がエルヴィラに向けられるのを良しとせず血の繋がった妹を時には過激に、時には陰湿に虐げた。
冷静になって過去の自分を分析してみると前の自分は振り向いてほしかったのだと結論に至った。
誰に?
(ベルンハルド様に、そしてお母様に。視野の狭い前の私はもっと早く気付くべきだったんだ。私を見てくれる人は沢山いた。お父様やお兄様、リンスー、王妃様にネージュ殿下も。……ううん、違うか)
気付いていなかった訳じゃない。
(本当は気付いていた。止まろうにももう止まらなかった)
だから最後まで――
(あ……)
窓から外を見ていたファウスティーナが顔を上げた。ぼんやりとした表情から一転、微かに生気を取り戻した表情を浮かべた。誰が来たんだろうと顔を向けるが――
(んっ!?)
動かない。上から見えないナニカに押え付けられ顔が動かせない。なんで!? とあたふたとしている間にも段々と景色が薄れていく。
「…………よ……貴女はとても……。……」
ファウスティーナに話し掛けている相手の姿だけが空白となって誰か分からない。声も聞き覚えがあるようなないような、曖昧で。相手が誰か分かれば、次に何が起きるか思い出せるのに、遠い所から届いた「起きて下さい!」の声で景色は霧散した。
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