表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
過去編①ー悪役令嬢は婚約破棄の為に我慢をしましたー
139/353

要らないのはエルヴィラ


遅くなりました(;ω;)


 王宮舞踏会前日まで迫った。

 最大の壁であったケインにエスコートとファーストダンスを頼む、という難関はあっさり突破した。身構えて何百通りの言い訳を作ったのが無駄になるくらい。拍子抜けしたと表現出来る。理由は勿論聞かれた。正直に答えた。ベルンハルドとやり直せる気がしないこと、先日贈られたドレスは他人が適当に見繕った物であること、彼がエルヴィラを思っていること。3つの内、2つはファウスティーナの予想であるが彼女自身は真実だと信じている。

 そう、と落胆したケインに多大な申し訳なさを抱いた。これだけは譲れない。ベルンハルドは真に思う相手エルヴィラと結ばれてこそ幸福となる。今は彼にとって過酷な試練。これを乗り越えさえすれば苦しい時間は消えるんだ。

 たとえ、ファウスティーナの心が悲鳴を上げてもベルンハルドが幸せになってくれるのなら……。

 舞踏会までに王妃シエラにお茶会の誘いを受け、4年振りに会った際も同じことを言った。流石にエルヴィラと思い合っているとは言えなかったがエスコートもファーストダンスも全て兄に頼んだ、と。シエラは反対も不満も出さなかった。ただ、悲しげに紫紺色の瞳が揺れた。最後にドレスの色を訊ねられた際白だと答えた。未だリボンすら解かれていないが見なくたって誰もが白だと答えるベルンハルドからの贈り物。逆に、白以外の色が選択肢に浮上するなら是非教えてほしい。ケイン以上に落胆を強くしたシエラに上をいく申し訳なさを抱くも、ベルンハルドがエルヴィラと結ばれれば全て丸く収まる。

 

 毎日夜中不法侵入するヴェレッドに話すと彼は肩を震わせ、必死に笑い声を上げたいのを耐えていた。ファウスティーナは真剣に話しているのに笑うとは酷い。不満を零すと「ごめんごめん」とヴェレッドは涙目な目を拭った。

 

 

「お嬢様最高。王太子様はよく何も言わないね」

「事実だからですわ」

「うん、事実だね、王太子様はお嬢様が嫌いだからお嬢様に似合うドレスなんて贈らないよ。シエル様とは大違い」

 

 

 入学祝いでシエルが贈ってくれた青銀のドレス。今から袖を通すのが楽しみだ。

 ベルンハルドからは終始視線を貰うが何も言ってこない。あと、ファウスティーナは休憩時間になる度に教室を出て行くので同じ空間にいる時間を極力無くしているのも大きい。

 現在の実力を計る小テストを行い、成績順に席を変えられても最前列の順は変わらずだったので同じ隣同士のまま。

 ただ、ファウスティーナ自身ベルンハルド以外にも問題を抱えている相手がいる。

 ラリス家のアエリアである。彼女、気付くと側にいる。以前も本を学院の庭で読んでいると目の前に立っていた。その時は嫌味を嫌味で返して終わったものの、それからも本を読み終えると何故かいる。

 気になるが今は明日の王宮舞踏会が最優先。考えるのは明後日からでも遅くはない。

 

 

「そうだ。ねえお嬢様、舞踏会はシエル様と踊ってあげてね」

「司祭様も来られるのですか?」

 

 

 国王の登城要請を悉く突っ撥ねているシエルが舞踏会に来ると聞き、珍しいと目を丸くした。

 

 

「だってお嬢様の社交デビューの日だよ? シエル様は当然来るよ。助祭さんも少しは肩の荷が降りるかな。毎年、シエル様の代わりに出席してたから」

「大変ですね……助祭様」

「面倒見の良さが貧乏くじを引いているんだ。文句言いながらお世話してくれるんだから」

「あはは……」

 

 

 オズウェルの苦労さを知っているファウスティーナは、今度疲労に効くお茶でも送ろうと決める。教会で生活していた間、何度かダンスの練習相手になってくれたシエルなら踊りやすい上、屋敷に戻って以来会ってないので会えるだけで嬉しい。

 

 

「ヴェレッド様も参加されますよね?」

「俺? うーん……どうだろう。気が向いたらね。なあに、俺とも踊ってくれるの?」

「はい」

「そう。お嬢様下手っぴだから、足踏まれないか心配」

「……」

 

 

 下手な自覚はある。練習しても上達しない唯一の苦手。相手の足を踏まないかを重視しているせいで顔が固い、動きが固い、上を向いていなさいと必ず指摘された。意地悪げに笑みを作るヴェレッドへ拗ねた顔をする。

 シエルといい、ヴェレッドといい、人を揶揄う時は非常に麗しい顔に輝きが増す。

 機嫌がすぐに戻るのも彼等に悪意はなく、単純にからかってるだけだと知っているから。

 

 

 ーー違う話題を出してやったら拗ねた表情から一変、興味深そうに食い付いてきたファウスティーナ。時折、ベルンハルドやエルヴィラのことを出したら、口では2人が結ばれてこそ幸福だと信じるくせに表情は暗くなる。心まで偽れないのだ。

 カインと偽ってヴィトケンシュタイン公爵家に執事として仕える彼は知っている。

 ベルンハルドが贈ったドレスは白じゃない。シエルが贈ったドレスと同じ、青銀だと。デザインも今までの、誰が身に付けても似合う無難な類じゃない、ファウスティーナだからこそ真価が発揮される物だった。頑なに白のドレスだとファウスティーナが言うので気になってこっそり開封して確認した。勿論、最後は贈られてきた状態に戻した。

 ヴェレッドが真実を言うつもりはない。

 ファウスティーナには。

 シエルには念の為知らせている。

 秘密裏にやり取りしている返事を簡潔に表すとーーどうでもいい、だった。

 

 

(酷い人……シエル様もお嬢様も)

 

 

 人を惹きつける魅力を惜しげもなく(ファウスティーナにしたら無自覚だが)撒き散らし、そのくせ、自身が大切に思う相手はとことん大事にし、どうでもいい相手には一切の慈悲も与えない。

 見ていて嗤ってしまう。

 ケインやリンスー、リュンといったファウスティーナを大事にしている人は至高の宝石さえ陰に追いやられる魅力溢れる微笑みを向けられるのに。

 ベルンハルドやリュドミーラ、エルヴィラといった今までファウスティーナを冷遇し、強制し、卑下していた人はその微笑みを、愛を得ようと必死だ。エルヴィラに関しては知らない。ファウスティーナに無視をされると泣いて怒っているがまともに相手をするのはリュドミーラやエルヴィラ寄りの使用人や侍女だけ。ケインは静かに叱るだけで必要以上に関わらず。カインに扮したヴェレッドは必要のある時だけ関わるだけ。

 

 

(どうでもいいんだよね。王太子様が絡めば面白くなりそうだけど、退屈だし飽きてきた)

 

 

 見目だけが良い相手は3日で飽きると言うがその通りだ。中身が個性的だからこそ人間は面白い。仲良し母娘劇場も新鮮さがなく面白くない。

 王太子の婚約者が駄目なら、第2王子や王弟がいる。変更しないのは彼が頑なに拒んでいるから。メルディアスには、もう洗脳はしないと告げた手前乱暴な真似はし辛い。

 どう動けば、ベルンハルドがファウスティーナを諦めるか……

 

 

「聞いてますか?」

「聞いてる聞いてる」

 

 

 ファウスティーナとの会話を楽しみながら、ヴェレッドは思案するのだった。

 

 


 ●○●○●○

 

 

 王宮にある第1王子の私室にて。

 天蓋付きの大きな寝台の上、満月を仰ぎ見ながら寝そべるベルンハルドの瑠璃色の瞳は虚ろだった。満月を映していながら、彼自身何も見ていない。

 心に生まれる苦しさと痛みは眠っている間でも襲いかかってくる。忘れるなと、お前の過ちは永遠に消えはしないのだと、刻まれているようで。

 初めてだった。婚約者ファウスティーナの為にドレスを考えたのは。彼女の好きな色・デザインを考えて考えた末に仕上がった青銀のドレス。彼女が着てこそ価値があるたった1つのドレス。だが無駄に終わる。

 ファウスティーナの兄ケインに、母である王妃に失望された。

 あれだけファウスティーナとやり直しを懇願していたくせにデビュタントの記念に贈ったドレスが白だから。何度違うと訴えても誰も信じてくれない。素振りすらない。

 ベルンハルド自身も確認し、ドレスの梱包・配達を担当したヒスイもドレスは青銀だったと確信している。ケインや母が信じてくれない原因はベルンハルドにもあり、ファウスティーナにもある。

 

 

「ファウスティーナ……」

 

 

 あることが切っ掛けでファウスティーナが気になり始めた。だがその時から既に2人の溝は埋められなかった。恋心を自覚しても、ずっと妹を虐める最低最悪な姉だと嫌っていたせいで優しくすることも出来なくて、芽生えた気持ちを認められなくて、弟のネージュにだけ見せる泣いていてもどんな宝石や花にも負けない純美な笑顔を向けて欲しくて。愛されたいと願っても、何もかも遅かった。あの時からベルンハルド自身がちょっとずつでも歩み寄っていればファウスティーナも心を開いてくれた。

 

 

「……違うか……彼女は最初から私に心を開いていた」

 

 

 拒み続けたのはベルンハルド自身。

 

 

「……っ」

 

 

 もう、やり直せないのか。

 王宮舞踏会でのファーストダンスは疎か、エスコートすら断られた。

 王太子とその婚約者の関係が悪いと知らしめるものだ。それこそがファウスティーナの目的か。

 唯一の救いはエルヴィラがまだデビュタント前ということ。もしも2人が双子だったら、間違いなくエルヴィラのエスコートをさせられファーストダンスを踊らされていた。いや、贈ったドレスをエルヴィラに回されていた可能性だってある。

 

  

「くそ……」

 

  

 会話の機会を設けたくても目は合わせてもらえず。休憩時間になると速やかに教室を出て行かれる。話しかけた所で彼女から放たれるのは、徹底的なまでの拒絶と如何にエルヴィラとお似合いかを語られるかだけ。

 瞼を強く閉じたベルンハルドの周囲に赤い花が咲く。4年前の建国祭で咲いた気色の悪い花。運命の女神が思いを寄せる相手の特徴を表した花を咲かせたのだと叔父は語っていた。

 目を開けていなくても花の存在は感じる。

 だってーー

 

  

 “ベルンハルド様”

 “ベルンハルド様”

 “ベルンハルド様”

 

  

 次々に生えては開花する花全部からエルヴィラの声が発生する。甘えるように、頼るように鳴る声。

 

  

「ファウスティーナ……私は……ファウスティーナがいい……」

 

  

 エルヴィラが好きだと認めろと運命の女神までも心を否定する。愛おしげに愛する女性の名を紡げば花は黙った。

 だがすぐにーー

 

  

 “ベルンハルド様!”

 “ベルンハルド様!”

 “ベルンハルド様!”

 “ベルンハルド様!!”

 “ベルンハルド様!!”

 “ベルンハルド様!!“

 

  

 エルヴィラの声は増えて大きくなる。

 ベルンハルドにしか聞こえない声。

 こんな現象をファウスティーナに拒絶されてから毎日体験していたら、疲れは蓄積される一方。

 

  

「ファウスティーナ……ファウスティーナがいい。ファウスティーナがいいんだ。声を聞いただけで愛おしさが溢れて、姿を見るだけで途方もない幸福が胸を占めるっ……ファウスティーナの代わりなんて誰もいない」

 

  

 誰にも、ファウスティーナにも信じてもらえない胸の内。

 赤い花はうるさいくらいベルンハルドの名前を呼んでいたのに何も発しなくなった。周囲を囲むように咲いていたのに、瞬く間に消えていく。

 

  

「エルヴィラなんて要らない。ファウスティーナが側にいてくれれば……それだけで……いいんだっ」

 

 

  


 朝。

 気合の入ったリンスーに起こされたファウスティーナは眠そうに鏡台の前に座って髪を整えられていた。貴族学院から戻ればすぐに舞踏会の準備になる。


「授業が終わったらすぐに校門前にいてくださいね。私と神官様が迎えに行きますので」

「うん……ふわあ……」


 真夜中の会話が長引いて寝不足となってしまった。今度からは短めに済ませないと。

 身嗜みを整え、制服に袖を通して部屋を出て動きを止めた。

 瞋恚の目で朝から見つめてくるエルヴィラがいた。


「お姉様。今日はベルンハルド様がお姉様を迎えにいらっしゃる日ですよね?」


 エルヴィラの中ではそういう日になっているらしい。

 朝食の時間が惜しい。困った様子のリンスーに「お嬢様」と判断を迫られた。


「そうであってもエルヴィラには関係のない話よ。行こ、リンスー」

「はい」

「っ!」


 実際迎えはない。ないが事実を言ったら、今度は何故ですか! と見当違いな怒りをぶつけられるだけ。なら始まったばかりの話題を強制的に終わらせた方が効率的。ファウスティーナに突き放されたエルヴィラは見る見る内に紅玉色の瞳に涙を溜め、無念の形相で睨みつけた。


「教えてくれてもいいではありませんかっ!」


 『愛に狂った王太子』、本編終了後のその後のストーリー2つ目の『洗脳』を改めて読み直そう。主人公目線から語られるのでヒーローの王太子が洗脳されている描写がない。サブタイトルが『洗脳』とあったから、その名に相応しい場面が来るのではなとドキドキしたのに。『洗脳』が主人公と王太子が最も互いを愛し合うハッピーエンドの内容に見えるのに、終わり方がとても中途半端。通学途中考察しようと食堂を目指す歩みに乱れはない。

 後方から飛んでくるエルヴィラの声はファウスティーナには届いていない。


興味がなく、どうでもいいから。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ベルンハルド様 ベルンハルド様 ベルンハルド様 纏わりつくエルヴィラの赤い花…… ちょっとここでベルンハルドを気の毒に思っちゃった。ファナへの嫌がらせじみた行動の自業自得の結果とはいえエルヴィラの纏わ…
[一言] ファウスティーナが王太子を好きになっちゃったのも、なかなか嫌いになれないのも、ぶっちゃけファウスティーナの中の女神のせいでしょ。 ファウスティーナ個人は自分自身でもどうしてこんな男を好きな…
[一言] いやほんと気持ち悪いな王子…。 しょっぱなあんな拒絶して、しかもそれをずっと続けて、 更には心をえぐる言葉まで投げかけたのに ファナがいい〜!なんて誰が信じるよ…。 しかも今までの接触も強引…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ