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婚約破棄をした令嬢は我慢を止めました  作者:
過去編①ー悪役令嬢は婚約破棄の為に我慢をしましたー
138/353

本のサブタイトル


 『愛に狂った王太子』の構成内容は、主人公と王太子が結ばれるまでの本編とその後の物語が3つ。本編を読み終えた感想は、主人公の姉である悪役は何というか……妹に水をかけるのが好きなのだと抱いた。口では主人公が反論出来ない程に罵倒し、手は近くに水があれば必ずかけた。

 容姿も能力も優れた妹に婚約者を持っていかれてしまう。前のファウスティーナなら、本の姉と同じになっていた。

 今のファウスティーナは婚約者ベルンハルドエルヴィラと愛し合おうがどうでもいい。彼がそれで幸せならそれで、いい。

 悪役と書かれているが彼女がした行いで苛烈なのは、終盤。卒業間近になっても王太子の愛情は主人公に向けられ、このままでは婚約破棄されてしまうと危惧した姉は殺害計画を練った。実の妹の命を奪う選択をした。

 幸いにも計画は実行されるかなり前に王太子に勘付かれ、こればかりは擁護出来ないと両親も周囲も彼女を見捨て公爵家を勘当した。

 邪魔者はいなくなり、晴れて婚約者となった主人公と王太子はこれからも仲睦まじく、互いを深く愛し生きていくと記述され本編は終わった。

 内容だけなら、よくあるハッピーエンド。

 しかし。

 題名と内容が一致しない。

 題名にある通り、王太子は何処かで主人公を愛するあまり愛に狂ってしまうのではないかと緊張して読んだのに、普通に婚約が結ばれて終わってしまった。

 その後の物語も2人のラブラブストーリーだろうと思うとページを捲る指が重かった。惰性でその後のページを開いたファウスティーナは「ん?」とサブタイトルに目を凝らした。

 

 

「『心中した2人』? え……嘘」

 

 

 ファウスティーナがいるのは放課後の裏庭。ケインに人が来ない場所を聞いて来た。まだエスコートとファーストダンスの話はしていない。中々タイミングがない。草まみれのベンチを軽く綺麗にして座っていた。

 折角結ばれた主人公と王太子が心中? 何故作家はそんな終わりを用意したのだ。背表紙に題名はなく、表紙にしか題名はない。ただし作者名がない。

 本当に不思議で、不気味な本。こんな本をどうして置いているのか。

 聞いたら早いのに聞いてはいけない気がする。俄然続きが気になったファウスティーナは軽くなった指でページを捲った。

 

 ――その後のストーリー1を読み終えた。

 

 

「ええ……」と声に出たのは本心、からである。誰が読んでも零してしまう感想だろう。心中とあったから、てっきり2人に大きな試練が待ち受けた末の結末だと思いきや、心中したのは主人公と結ばれた筈の王太子と追放された姉だった。

 貴族令嬢特有の傲慢ぶりと我儘に初対面の時から嫌い、更に実の妹を虐める最低な姉と常に嫌悪していた相手と心中? 詳細が書かれていない。主人公の目線で綴られ、1度も他者の視点がない。

 

 

「題名から、てっきりドロドロの悲恋物かと覚悟したのに……どうして嫌いな相手と?」

 

 

 2人の遺体があったのは安い宿。実はその宿、勘当された姉が少しの間泊まることとなっていた。数日宿に泊まった後、修道院へ送られる予定だったとか。

 

 

「主人公の姉が王太子を殺して自分も……? でもそれだと、王太子が同じ場所にいる説明が出来ない」

 

 

 公爵令嬢としての身分を剥奪された姉が王太子を呼び出せる術はない。

 

 

「……まさか、最後に落ちぶれた元婚約者の姿を嗤いに行ったとか?」

 

 

 本編で何度か王太子と姉のやり取りがあったが、心の底から婚約者を嫌っているのが文字から読み取れた。少しは自分の婚約者を違う目で見ていたら、悪役の姉にだってちょっとは違う結末があったかもしれないのに。

 ファウスティーナ個人の気持ちだと悪役に同情的だった。

 さすがに命を奪う真似をするのは度を越しているが愛する婚約者が他の女に気持ちを奪われ、取り戻そうと振り向いてもらおうと抗う姿には同情出来る。

 4年前までの自分と同じだから。

 普通の人ならば婚約破棄され追放されるのは当然だと頷くのだろうが、悪役にも悪役なりの誰にも理解してもらえない事情があったのだ。

 

 数ページ前を読み返したり、文字を追ったりしても2人の心中原因が詳細に書かれているページは存在せず。

 最後はこうあった。

 

 【2人を引き剥がそうと現場に駆け付けた騎士が試みるも、数人がかりで引っ張っても離れない。抱き合う2人の死顔はとても穏やかだった。まるで、憎しみ合っていた時間を忘れ、誰も知らない遠くの世界へ2人だけで行ってしまったかのように】

 

 

「これを読んだら、王太子が好きだったのは元婚約者だったってことになるね……」

 

 

 本の世界の出来事。

 現実じゃない。

 紙に描かれる登場人物にですら、羨ましい気持ちが生じる。

 憎み合いながらも最後は死んで結ばれた2人。残された主人公はその後どうなったかの記述はない。エルヴィラが本の主人公のように優秀な令嬢だったなら、ベルンハルドも無様な醜態を嫌いな婚約者ファウスティーナに晒さなかったのに。

 

 

「はあ……」

 

 

 エルヴィラのどうしようもなさに悩んでも時間の無駄。どうでもいい。今のままでいるのなら、何が何でも運命の女神には2人を“運命の恋人たち”にしてもらわないと。

 次の2を読もうと気持ちを切り替えた。

「あらあ?」と甘く高い声を聞くまでは。

 本から顔を上げた先には、ピンクゴールドの髪に1本だけぴょろんと垂れた前髪な特徴的なラリス侯爵家のアエリアが立っていた。心なしか、疲れている顔をしている。

 本に夢中だったせいで全然気付かなかった。

 

 

「王太子殿下の婚約者でもあるあなたがこんな辛気臭い場所で読書だなんて。見られて困る本でも読んでいるのかしら?」

 

 

 ファウスティーナが放課後裏庭に来ていると知るのはメルディアスだけ。鞄を机に置き、本を抱え1人素早く教室を出て行き、ゆっくり歩き出そうとした時捕まった。1人にすると危ないと心配されて。学院の警備は王城の次に厳重と聞く。易々と不審者を侵入させることはないのだが、教会関係者は皆ファウスティーナには過保護だ。最高責任者がその筆頭なせいもあるのかも。

 

 アエリアと殆ど関わりはなく、どうせベルンハルドの婚約者からは外されるので交流を持つ必要もない。また、早く本の続きを読みたい。

 ファウスティーナは敢えて相手を煽る言葉を選んだ。

 

 

「お気遣いありがとうございます。アエリア様の髪の色のような内容ではないのでご安心を」


 

 遠回しに、ピンク一色な恋愛小説ではないと告げた。意味が分からないアエリアではなかった。ファウスティーナが言い放った瞬間、盛大な怒気を可憐な相貌に浮かばせた。反論されようが喚かれようがファウスティーナにはどうでもいい。早く去ってくれないかと見つめていると……アエリアは怒りを鎮め、代わりに悔しげに新緑色の瞳で睨んでくる。

 どうして?

 

 

「気に入らないわ」

「……?」

「っ、次はそんな目はさせないわよ!」

「うん?」

 

 

 どんな目をしているのか逆に問いたい。

 アエリアは言い捨てると早足で去って行った。

 

 ベルンハルドからの視線をずっと無視し続け、謎の背中を刺すような鋭利な視線からも耐えた努力が先程のアエリアのせいで無駄になった。疲れが一気に押し寄せて深い溜め息を吐いた。

 昨日の今日なのでベルンハルドも諦め、視線を寄越すだけで接触はなかった。昼休みの際、誰よりも早く教室を出て行ったファウスティーナを呼び止めたような気もしないでもない。美味しいお弁当も台無しだ。

 

 

「夜中来てくれるかな」

 

 

 次の夜中もヴェレッドは来てくれないか。シエルと同じで何でも話せてしまうヴェレッドにすっかりと甘えてしまっているなと苦笑する。

 改めて気持ちを切り替え、次のその後のストーリーのページを開いた。

 

 

「次は『洗脳』……?」

 

 

 心中といい、洗脳といい、物騒なサブタイトルしかなかったのか。

 この本、目次には本編とその後のストーリー1、2、3としか書かれてないのでちゃんとしたサブタイトルはページを捲らないとならない。

 3のストーリーのサブタイトルだけ先に確認しようとペラペラとページを捲ったファウスティーナは頬を引き攣らせた。

 

 

「最後は『自殺』……」

 

 

 最後の最後まで物騒な言葉しかなかった。

 

 

 

 


読んでいただきありがとうございます。

46話と47話に出てくる本と同じですが、本編後のストーリーが変えられています。


また、本日、書籍1巻が発売となります。

記念にお礼のSSをネタ帳に後日公開を予定しております。

・もしも、各キャラと○○だったら……な内容を予定しています。

ベルンハルド、ネージュ、その他です。その他は何にしましょう……大人組かお兄様かそれか……。


これからもよろしくお願い致します。



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この謎の本、本編とタイトルが違いますよねー だから姉神が書庫に置いた不思議な本なんじゃないかなー?と私は思っていますが、後書きではタイトルについて指摘してなかったから、こうして感想で書きました。 その…
[一言] 万が一規制に引っかかるといけないので伏字で。 過去が○中、○脳、自○だと2番目は泣妹とうまくいってそうだけどだめだったんだなんでー。 前の話で運命の糸から解放されるならファナがベルンと別れる…
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