帰ってきた/帰ってきました
――今日はお姉様が帰って来る日
数百年振りに生まれた女神の生まれ変わりだから、同じ年に生まれたベルンハルド様の婚約者になれたお姉様。初対面から嫌われて、好かれようと必死になっても更に嫌われて、縋るように婚約者の座にしがみついたお姉様なんか大嫌い。
わたしの方がベルンハルド様に好意を抱かれている。何時だって、お姉様に虐められたら誰よりも先にお姉様からわたしを守ってくれる。お兄様はお姉様を叱ってわたしも叱ってくる。
わたしにも原因があるって。
わたしはベルンハルド様と仲良くしたいだけなのに、ベルンハルド様だってわたしと一緒にいる方が幸せに決まってる。
なのに、お姉様とベルンハルド様は未だ婚約関係が続いている。理由は分からないけど、王城で泣いていたお姉様をお城に来ていた司祭様が保護したと後で聞かされた。保護された後お姉様は屋敷に戻っていない。
これでベルンハルド様はお姉様に会わなくて済むし、邪魔もされずわたしとゆっくり出来る。ベルンハルド様が来られる定期訪問の日になったら、朝早くからトリシャ達にお願いしてお洒落をした。トリシャには、お茶会の予定もないのにどうしてと聞かれたけど、本当のことを言ったらわたしの侍女なのにお姉様の味方のトリシャは絶対お小言を言ってくる。ただの気分転換だと言えば、疑問が浮かぶ顔をされながらも何も言われなかった。
……楽しかったのは準備をしている間だけ。食堂に行ったら、お母様にはベルンハルド様はお姉様のいない公爵家には来ないと言われ、挙げ句お兄様には大量の水を掛けられた。初めてされた怖い行動に思考が停止した。
確かにお兄様は、わたしには何時も冷たい言葉しかくれない上お姉様にだけは滅多に見せてくれない優しい微笑を浮かべる。
大声を出されなくてもお兄様がどれだけ怒っていたか、4年経った今でも思い出すと身震いがする。
更に、信仰教育で習ったばかりの、教会の司祭様が王弟殿下ということも知らないと知られ恥ずかしくて逃げたくなった。急に王弟殿下が誰かなんて言われたって答えられる訳ない。泣き叫んだらお母様は慰めてくれても、お父様やお兄様はわたしが真面目にしないからだと……一言も慰めをくれなかった。
それからは何も楽しくなかった。
お兄様は一層わたしに冷たくなって、お父様やお母様からはもうベルンハルド様に近付いちゃいけないと注意された。
わたしは所詮、お姉様の妹でしかないから、と。
どうしたらベルンハルド様ともっと親しくなれるか、この4年間ずっと考えた。やっぱり、婚約者がお姉様からわたしになるしかなかった。何度もお父様にお願いするもわたしでは王子の妻にはなれないと断言された。酷い酷いと泣いても誰も、お母様さえ慰めてくれなかった。
全部お姉様のせいよ、お母様がわたしにちょっと冷たくなったのも、お父様やお兄様が更に冷たくなったのも、ベルンハルド様がわたしに会いたくても会えなくなったのも――全部全部お姉様のせいっ!
今日はお姉様が帰って来る。
執事長がお姉様を乗せた教会の馬車が到着したことを告げに来た。待ちわびていたお父様やお母様は報せを聞くとすぐに部屋を出て行った。お兄様はゆっくりとした動作で立つと歩いて行く。
お姉様に会ったら、すぐにベルンハルド様が何時来てくれるのか聞かないと。ベルンハルド様だってわたしに会いたいに決まってる。
トリシャに「行きましょう、お嬢様」と言われ嬉しげに微笑んで見せた。
「ええ。早くお姉様に会いたいわ!」
「……」
何故か、目を丸くしたトリシャ。不思議そうに見つめると「あ……いえ、そうですよね、行きましょう」と何かを言いたげな面持ちだったけど、早く行かないときっとお兄様がうるさいからわたしも部屋を出た。
玄関ホールに着くとわたしは動けなくなった。
――誰……あの人……
扉の前には、貴族服を纏った司祭様にエスコートされて4年振りに戻って来たお姉様がいた。ずっと屋敷で暮らしていたわたしでさえ見たことのない、太陽の輝きと月の美しさを併せ持つ――普通の人とは掛け離れた雰囲気と美貌で、隣にいる司祭様やそばに控える神官らしき人に微笑むお姉様がいた。
そして、お姉様をエスコートする司祭様も常人離れした美しい笑みでお姉様に何かを囁かれた。可笑しそうに小さく笑うお姉様に皆何も言えなくなっている。
お父様は何故か懐かしそうな瞳でお姉様と司祭様を見つめ、お母様は酷く傷付いたような顔でお姉様を切なそうに見つめていた。
お兄様はというと……
「お帰り、ファナ」
「はい、お兄様! 只今戻りました!」
いつも通りだった。
わたしも行かなきゃ、行ってベルンハルド様が何時来てくれるか聞かなきゃ……いけないのに、体は石になってもないのに動いてくれない。
心に焦燥が生まれる。
あんな、4年前とは比べ物にならない程綺麗になったお姉様を見たらベルンハルド様はわたしを見てくれなくなってしまうっ。早く行きたいのに……っ
……あれ? ちょっと待って。
わたしはあることに気付く。お姉様は、お兄様やお父様、リンスーといった親しい使用人達には声を掛けていくのにお母様には礼儀を見せただけで後は全く無視だ。お母様はとても話し掛けて欲しそうにしているのに。それだけじゃない、わたしには一切目を向けてくれない。
わたしのいる場所は十分お姉様から見える。わたしに気付いていない筈がないのに……!
瞳がじわりと濡れる。わたしは此処にいるのに、どうしてわたしを見てくれないの……!
近くにいる侍女が心配げにわたしを見、お姉様に言おうか悩んでいると。
「さてと公爵、夫人。楽しいお話でも始めようか。公子もおいで。あと、妹君はどうしたの?」
「エルヴィラも来ている筈ですが……」
やっとわたしに気付いたのは司祭様だった。お父様が後ろを振り向く。薄黄色の瞳と目が合うと皆わたしへ向いた。お姉様もだ。
……嘘……こんな、近くにいるのにどうして今やっと気付いたというような顔をするの……?
「どうしたの? エルヴィラ。そんな所で。貴女も此方にいらっしゃい」
お母様が招いて下さるが先程知った事実にわたしは怒りが込み上げる。抑えきれない怒りからお姉様、と声を上げようとした刹那。
「……」
……怒りは空気が抜けた風船みたいに萎んでいった。お姉様から向けられる、心底どうでも良さそうな瞳に。
見ないで……そんな興味がない目でわたしを見ないでっ、昔は怖い目でしか見なかったくせにっ、今度はそんな……っ!
「エルヴィラ様もちゃんといるようだし、場所を変えよう。そう思わないかい、公爵」
「そうですね……サロンへご案内しましょう。カイン、すぐにお茶の準備を」
「畏まりました」
少しだけ動けるようになっても、足がとても重い。掠れた声でお姉様、と発しても誰も気付いてくれない。
お姉様は司祭様から離れるとお兄様に近寄った。学院という言葉が出たから、貴族学院の話題を出したお姉様を苦笑しながら受け答えするお兄様。良好な兄妹の光景に胸が張り裂けそうになった。
わたしだって妹なのに……っ! お兄様やお姉様の妹なのに……、どちらもわたしを見てくれない。
“『魅力』と『愛』の2つを持ってこそ、女神の生まれ変わりは完全になる。リンナモラートの持つ『愛』は愛し愛されるもの。中途半端に愛される部分だけを間違った場所に置き間違えたリンナモラートのおっちょこちょいのせいでもあるけれど、『魅力』と『愛』の半分を持つ生まれ変わりに勝てる要素は貴女にはない”
知らない声がお姉様やお兄様に置いて行かれるわたしを淡々とした口調で――――
●○●○●○
――側に心強い味方がいてくれるだけで心の余裕が全然違う
今日4年振りに公爵家の門を潜った。教会からシエルとジュード、メルセスが同行してくれた。馬車で約2時間掛けて王都にあるヴィトケンシュタイン公爵邸に到着すると、今日戻ると知っていた門番はすぐに屋敷へ走り、残ったもう1人は、形式上人数分の身分証を確認してから門を開けてくれた。報せを門番から聞いた侍女長が出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、ファウスティーナお嬢様」
「ただいま、アデライドさん」
「今、執事長が旦那様達を呼びに行っておりますので」
「うん」
シエルに手を差し出され、気恥ずかしい気持ちはあったものの、エスコートを甘んじて受けた。侍女長を先頭に邸内へ足を踏み入れた。すると、来るのをずっと待っていてくれたのか、幼い頃からファウスティーナの専属侍女を務めるリンスーが駆け寄ってきた。手紙でのやり取りから、彼女が変わらず公爵家に仕えていたのは知っていも実際に会うと会わないとでは全然印象が違う。変わりない姿に安堵したファウスティーナは目の前に立ったリンスーに微笑んだ。
「ただいまリンスー」
「はい! お帰りなさいませ、お嬢様」
「見てリンスー。私ももう15歳になったから、ちょっとは成長したでしょう?」
「大丈夫です! お嬢様は昔と何も変わっておりません!」
「……」
そこはせめて、大人っぽくなったとか、背が伸びたとか言ってほしかったファウスティーナ。リンスーに悪気はなく、正直に言い切ったので不満を零せなかった。
続々と人が集まってきた。そこに両親や兄が交ざるのに時間は掛からなかった。父と母が姿を現すとファウスティーナは綺麗なカーテシーを披露した。
ブルーロット伯爵夫人に叩き込まれた美しいそれを両親に見せることが出来て内心ホッとする。父シトリンが「ファナ」と発したので姿勢を整えた。
「大きくなったね、とても綺麗だったよ」
「ありがとうございます、お父様。ブルーロット夫人も合格点を下さることかと」
「手紙で読んだよ。王妃教育はブルーロット夫人が引き続き行うのかい?」
「いえ、夫人からの教育は殆ど終了しております。後は、王妃様から合格を頂ければ王妃教育は終了です」
「そうか。よく頑張ったね」
馬車に乗っている間、不安要素があった。前と同じように父や兄と話せるか、と。手紙では心が安定していたら、手は震えずスラスラ文字を綴った。声はそうはいかない。多少の不安があれば表面に出て鋭い人だとすぐに悟られてしまう。幸いにも変わりなくシトリンと会話出来ているので心配無用だったみたいだ。
「ファ……ファウスティーナっ」
シトリンとの会話が丁度よく終わるのを待っていたのか、母リュドミーラがやけに緊張した声色で名前を呼んだ。
強張った表情。この人も変わらない。母親としての感情はやはり、自身に似たエルヴィラやケインにしか向けない。無理もない、母にとって自分は王城で泣き叫んでいたところをシエルに保護された挙げ句、その年に開催される“建国祭”で久し振りに会うなり溺愛するエルヴィラを泣かせた悪者。他人行儀でかつ、愛想笑いすら浮かべられない。
何も期待しないで正解だった。ひよこ豆1粒程度でも抱いていたら、心は不要な痛みを負う。
リュドミーラが何かを言ってくる前にファウスティーナは小さく頭を下げた。
「只今戻りました、お母様。今までご迷惑をお掛けしましたこと、お詫び申し上げますわ」
「あ、ちがっ、そんなことを言って……」
「ファウスティーナ様」
シエルに呼ばれ頭を上げた。天に与えられた絶美な笑みは何処となくからかいを含んでいる。
「そう固くならずに。此処は君の家なのだから、ほら、リラックスして」
「大丈夫ですよ。司祭様が思っている以上に気分は軽いですわ」
「そう?」
「はい」
「そうですよ司祭様。あなたは過保護だからお嬢様が心配なだけです」
メルセスもファウスティーナに同意した。シエルがファウスティーナに対し過保護なのは教会で働く神官なら誰もが知っている常識である。
「お帰り、ファナ」
「はい、お兄様! ただ今戻りました!」
リンスー以上に通常運転な人がいた。兄ケインだ。最後に会った時より身長が格段に伸びていた。成長期だからって狡い。ファウスティーナは低身長なので長身な人が羨ましいのだ。リオニーやメルセスといった、女性にしては長身な彼女達と同じを求めない。平均的身長なリンスーと同じくらいが欲しい。
両親や兄がいるのに1人家族がいない。相手側は多分思っていないだろうが……。
ファウスティーナがシトリンに聞こうとする前にシエルが口火を切った。
「さてと公爵、夫人。楽しいお話でも始めようか。公子もおいで。あと、妹君はどうしたの?」
「エルヴィラも来ている筈ですが……」
そう、エルヴィラがいないのだ。まあ、ベルンハルドに好意を抱くエルヴィラが態々恋敵の出迎えを好き好んでする筈がないか。と、シトリンが確認するように後ろを向くのでファウスティーナも釣られて同じ方向へ視線を移した。
(あ……)
気付いても可笑しくない位置にエルヴィラは立っていた。茫然とした様子で。
どうしたのか、と思考し――美しいシエルを間近で見て衝撃を受けたのだと解釈する。教会の司祭の美貌に衝撃を受けた女性の数は計り知れない、と昔メルセスは溜め息交じりに話してくれた。
泣いてもいない、声を上げてもいない、ファウスティーナが気にしなくても母が気にすればいいので、サロンへ移動するとシトリンの声を聞きシエルの側から離れケインに近寄った。
「学院生活はどうですか?」
「手紙にも書いた通りだよ」
「意外です。クラウド様に抱いていた印象が変わりそうです」
「人の第一印象なんて存外当てにならないよ。そうだ、入学したらすぐにテストがあるから気を付けておきなよ」
「クラス内での実力を計る為ですか?」
「そうだよ」
入学まで残り1ヶ月。教わった知識を無駄には出来ない。ベルンハルドとエルヴィラが真に結ばれるまで婚約者であり続けないといけない。成績を落とす真似はしたくない。
移動中ケインに学院について更に聞いてる最中、サロンに到着した。
室内にあるカウチにそれぞれが座るとタイミングよく執事長が人数分の飲み物を持って入った。シトリンに頼まれたカインはどうしたのか? 疑問を覚えたのはファウスティーナだけじゃない。頼んだ本人もである。
「カインはどうしたんだい?」と執事長に訊ねた。
「エルヴィラお嬢様のご気分が優れないようで、皆様方のを用意するとエルヴィラお嬢様用にもと」
「さっきまでは何ともなかったじゃないか」
「奥様もそう仰有ってはいましたが……エルヴィラお嬢様をお部屋へ」
「シエル様が来ているというのに……」
「構わないよ公爵。第一、私、王族から籍を抜いているから気遣う必要はない」
「あら残念ですわねシエル様。陛下がそんなこと見過ごすわけがないでしょう」
司祭になると同時に王族籍を抜けたとシエルに教えられたファウスティーナでも、国王シリウスの行動に目を剥いた。1人、非常に嫌そうに顔を歪めたシエルは愉しそうなメルセスを睨んだ。
「知ってたね」
「知ってましたよ。陛下本人が言ってましたもの」
「はあ……やれやれ」
「メルセスは個人的に陛下と親しいの?」
「内緒ですわ」
茶目っ気タップリに左人差し指を唇に当てたメルセス。
秘密を抱えた女性はその秘密さえも美しさの材料にすると、初めて会った時言っていたが本当だ。メルセスの妖艶とも取れる仕草に目が釘付けとなってしまう。シトリンが「……うん? あなたひょっとして、メルディ――――」と誰かの名前を紡ごうとしたが「これで無駄話は終わりにして本題に入ろうか」とシエルが話題の転換をしたので強制終了となった。
微笑を浮かべたまま、真剣味の増した声色でシエルはシトリンと向かい合う。
「公爵。以前、王城で話した通りファウスティーナ様は此処に戻す。但し、此方の条件を全て呑んでもらおう」
「分かっています」
「父上、その条件というのは?」
「私が説明してあげるよ公子。私が出した条件は幾つかある。
1つは、夫人がファウスティーナ様に深く干渉することは禁じる。
2つ目は、王太子……ベルンハルドが此処へ来る日は必ず公爵家の面々は知っていること」
「司祭様」と途中話を止めたのはケインだった。
「お恥ずかしい話、エルヴィラは未だベルンハルド殿下に対する気持ちを改めません。殿下が来たらまた……」
「ふ、ふふ。そうだねえ、可愛いよね、王子様に恋する女の子って」
表情と口調から、誰が盛大に嫌味を言っていると思うか。苦い薬を飲んだように顔を歪めるシトリンとケインへ「けどね」とシエルは言う。
「チャンスだと思いなさい公子。ベルンハルドが此処へ来てエルヴィラ様が恥も外聞もなく近付くのなら、教育が全く上手くいってないと。来年貴族学院入学を控えている子女のあるべき姿にさせたいのなら、幾らでも方法はある」
「……分かりました」
「心配なら、エルヴィラ様に婚約者でも作ればいいのでは?」
「いたら今頃こんな苦労はしていません」
仮に婚約者を紹介されてもベルンハルドを慕うエルヴィラは盛大に泣き叫び、暴れ、婚約が白紙になるまで絶対に部屋から出ようとしないだろう。容易に思い浮かべられる予想にファウスティーナは苦笑する。「成る程ね」とからかいを含んだ笑いを零した後、シエルは3つ目を切り出した。
「3つ目は、月に1度私の所へ来させること。
最後に4つ目だけどね。此処に1人、ジュード君を、神官を置いていくよ。何かあった時、すぐに連絡が出来るように」
ファウスティーナは初耳だった。司祭様、と呼ぶと頭をポンポン撫でられた。
「どうしたの」
「此処に置いていくって……神官業は」
「大丈夫大丈夫。ジュード君、こう見えて次の助祭候補だから。今から苦労して何でもいいから経験を積ませないと」
「いや……結構苦労してますよ……」
「何か言った?」
「いいえ」
教会の助祭を務める人は自由人な司祭に振り回され苦労する人が多いのか。確かにオズウェルもジュードもよくシエルの自由振りに振り回され苦労している。ファウスティーナの為に置いていくのなら、世話役を任せられたメルセスが適任ではと思うもシエルの判断に従った。
「全部で4つの条件を公爵には呑んでもらうよ」
最初の1つをあの母が守れるか不安だが、そこはもう信じるしかない。王国では15歳で成人となる。王国中の貴族絶対参加のパーティーは例外とし、通常は成人を迎えると夜会等に出席する機会が増え、ドレスや装飾品の新調も増える。実はファウスティーナは、王城に行って王妃に会うのを楽しみにしている。
どうせリュドミーラは、エルヴィラ好みの可愛いデザインをファウスティーナに強制するから。
ファウスティーナはピンク色やフリルが沢山ついたドレスは素直に可愛いと思うが自分が着るとやはり似合わない。長年、ピッタリな存在がいたせいで。きっとリュドミーラはファウスティーナの意見を取り入れたデザインのドレスは作ってくれない。なら、数少ない味方である王妃に相談した方がいい。ベルンハルドやネージュの服は全て王妃がデザインしていると幼い頃聞いたので。
話し合いは暫し続き、終わる頃に空は赤みがかっていた。薄い朱色の空を背景に馬車に乗り込むシエルを見送った。
ジュードに振り向いた。
「これから暫くお世話になります、ジュード君」
「はい、よろしくお願いします」
「神官様のお部屋の準備は済ませてありますので、後程ご案内させます」
「ああ、他の使用人の方と同じ部屋でいいですよ。僕の家は没落してもうありませんし」
「そうだったの?」
「はい。なので、あまりお気遣いなく」
読んでいただきありがとうございます!




