煽りは得意
「……」
ヴィトケンシュタイン公爵邸の書庫室にて、父であるシトリンが調べ物をする際使用する机に向かって難しい顔をするケイン。5日前届いた王家の封蝋が押された手紙。差出人は第2王子のネージュだ。妹のファウスティーナが王太子の婚約者ということで幼少期から第2王子とも交流を持っている、というのが周囲の判断。実際は何度も同じ生を繰り返す原因を作った共犯者。
手紙の文面を5日前初めて見た時は頭に強い衝撃を食らった。4年前の建国祭から状況が異なってきたとは自覚していたが、決定的な違いが今回起きた。教会の先代司祭が15年振りに帰って来たらしい。現司祭シエルが王子達に気を利かせて呼んでくれたようだ。実際、2人揃って会いに行っているかは不明だが確実に会っているとするとベルンハルドだろう。ネージュの場合は、その時の体調に状況が左右される。
先代司祭オルトリウスは、先王ティベリウス時代を影で支えた裏の支配者だ。当時の王国は非常に荒れた時代だったと聞く。女神に見捨てられる寸前の国を立て直し、悪の貴族や商人の殆どを処分した“粛清の時代”で一体何人の人間が命を落としたか。ティベリウスの恐ろしいところは、全て確実なる証拠を揃えて悪人達を裁いた点だろう。有無を言わせないそれらを突き付けられ、あっという間に悪事を白日の下に晒され罰せられたのは主犯格だけではない。少し手を貸しただけでも重い罰を課せられたと聞く。
国の為、民の為にと身を尽くした賢王の唯一の欠点が酷い女性好きな性格。次々に悪事を働いた貴族達を粛清していく一方、後宮に入れられる女性の人数は多くなっていったと聞く。歴史で習うティベリウスは賢王でありながら女性好きな好色王という一面もある。
子供が正妃の産んだシリウスと平民出の侍女が産んだシエルだけなのが奇跡に近い。後宮に押し込められた女性で妊娠したという者は、実は1人もいないと後にケインはネージュから聞く。子供が多ければ余計な後継争いが生まれるから、とも取れるがそうじゃない気がする。
「ひょっとして……」
確率の高い予想を脳内に組み立てようとしたが、数時間ずっと手紙を睨んでいたせいか思うように纏まらない。手紙を綺麗に折って上着のポケットに入れて立ち上がると書庫室を出た。
寒い季節にピッタリなホットココアも捨て難いが、今は頭をスッキリとさせたいので爽快感のハーブティーでも頼もうと通りかかったリンスーに声を掛けた。
「丁度いいところに。リンスー、ハーブティーを俺の部屋に持って来て」
「畏まりました。体を温めるハーブを使用しましょうか?」
「いや、今は頭をスッキリさせたいから眠気覚ましの効果があるハーブがいいかな」
「では、ペパーミントとレモングラスを使用したハーブティーをご用意します」
「それでいいよ。先に部屋に戻ってるね」
そう言ってリンスーと別れ、私室を目指して邸内を歩いていると前方からリュドミーラとエルヴィラがやって来た。恐らくこれからサロンでお茶でもするのだろう。上機嫌にリュドミーラに話を聞いてもらうエルヴィラの紅玉色の瞳がケインに気付いた。エルヴィラの視線の先を辿り、リュドミーラもケインに気付いた。
「お、お兄様……」
ぎこちない様子で声を掛けてきたエルヴィラを興味のない瞳で一瞥すると泣きそうな顔をされた。リュドミーラは「ケインっ」と悲痛に染まった声で呼び掛けるがやはり興味がないので軽く頭を下げて通り過ぎた。
「ま、待ちなさいケイン、もうエルヴィラを許してあげて」
「……はあ」
母の言う“許してあげて”とは、最近迎えたエルヴィラの誕生日の際、彼女はシエルの前であろうことかベルンハルドがヴィトケンシュタイン公爵邸に来るにはファウスティーナが戻って来ないといけないと口にしたのだ。ファウスティーナの実父である、シエルの前で。
大笑いされただけでその場は終わったようだが、もしあれが教会ではなく、人気がなく大声を出しても問題のない場所だったら間違いなく“処分”されていただろう。
教会での出来事を聞いて恥ずかしくなった。というか、エルヴィラのせいで恥ずかしい思いをケインだけではなく、両親もしている筈なのだが。
あと、当たり前な話、エルヴィラの誕生日パーティーにベルンハルドは来ていない。何故来ると思うのかが不思議だ。エルヴィラ曰く、招待状を書いてトリシャに渡したらしい。が、そんな手紙を渡された彼女がはい分かりましたと郵便に出す筈がない。トリシャから手紙を預かったシトリンがエルヴィラに厳重に注意していたが、まさか実は父が出してくれていたと考えていたのだろうか。
どんなに厳しく優秀と評判の家庭教師をつけても本人をどうにかしない限り永遠に変わらない。折角、今回は今までと違った展開になってきているのにエルヴィラがこれでは結局最後は同じになってしまう。
どうにかしないと思いながら、ケインも所詮人の子。人の話に耳を傾けない妹にも、母にも、疲れている。
深い溜め息を吐いただけで何を言うでもなく、ケインは私室への道を歩き出した。え、と固まるリュドミーラに応えもせず。
「う……ううぅ……!」
泣き出し寸前のエルヴィラの声がした。スルーして足を止めない。
けど、右へ曲がる前に振り向いた。
「エルヴィラ」
「!」
「俺に無視されたくらいでみっともなく泣いたりしないでね? ファナの次に貴族学院の入学を控えている公爵令嬢が小さい子供みたいに、たかが相手に無視されたくらいで」
「な、なんで、なんでわたしにだけお兄様はぁ……!」
涙声で大量の涙を流しながら一切自分を見てくれない兄にエルヴィラは訴える。姉と同じくらい、自分も見てほしいと。……ケインにエルヴィラの相手を律儀にする必要性は果てへ追いやられているので無理なのだ。
「さあ、なんでだろう。ただ、努力しても更に上を求められるだけで一切甘えさせてもらなかったファナを見ていたら、何をしても許されて甘えるだけのエルヴィラに構う意味が見出だせないんだ」
「そ、そんなのっ、わたしは妹なんですから相手をするのは当然ですっ」
「兄だから妹に何でもかんでも構わなきゃいけない理由なんてない。第一、毎日暇なエルヴィラと違って俺やファナは忙しいんだ」
「あんまりです……! わたしだって、お茶や刺繍に貴族の娘として必要な授業を毎日受けているのに!」
「ファナが受けさせられていた授業と比べると息をしている間に終わりそうな時間と内容なのに?」
「お兄様はお姉様のことばっかりです!! わたしのことなんて、何1つ見てくれない……!」
大声を上げて泣きはしなくても、大声で自分を見てくれない認めてくれない兄を糾弾するエルヴィラを視界に入れるケインの瞳は……とても無関心だ。きっとこれをネージュが見たら、ベルンハルドに対し無関心になったファウスティーナのようだと揶揄されるだろう。
愛娘を落ち着かせようとするリュドミーラ。ケインはまだ何か言うエルヴィラにこれ以上言葉を発することもせず、私室へ向かい始めた。後方から届く叫び声に似た泣き声を聞いても心は動かない。
部屋に戻るとすぐに扉が叩かれた。返事をして入ってもらうと相手はリンスーだった。ソワソワとした様子なのは、先程のやり取りを聞いてたからだろう。長く止まっていたので聞かれるのも無理はない。リンスーは何も言わず、頼まれたハーブティーをテーブルに置くと部屋を出て行った。
テーブルの前にあるソファーに座ったケインは、ポケットに入れた手紙を取り出すとくしゃりと握り潰した。
「……エルヴィラを王太子妃になんてしたら、必ず生け贄が必要になりますよ。王太子妃の執務を熟す側妃が」
●○●○●○
王国の南側に位置する街にて、ファウスティーナは現在進行形で大変困った状況に直面していた。
遠回りをして屋敷に戻ろうと言うヴェレッドの提案に乗り、チョコレートケーキが評判のカフェで休憩タイムを楽しんでいた。濃厚なカカオが特徴のチョコレートケーキをオレンジジュースと一緒に頂いていると、驚くことに王太子ベルンハルドを連れたオルトリウスが来店した。これにはヴェレッドも一驚した。美味しそうに食べていたチョコレートケーキを吹き出しかけた。
丁度、2人の座る席はベルンハルド達からは死角になるので見つからず。
が、店を出るには彼等の前を通らないといけない。
「はあ……空気読んでよねえ」
「ど、どうしましょう」
「……しょうがない。ねえ、そこの人」
ヴェレッドは通りかかった給仕の女性にメニュー表を見せた。
「チョコレートケーキとチーズケーキ、あとシュークリームを3つ持って来て。オレンジジュースのお代わりも」
「畏まりました」
注文を終えるとヴェレッドは面倒くさそうにファウスティーナに向いた。
「お嬢様暫く食べてて。俺が王太子様達のとこ行って、早く帰らせるようにするから」
「はい……」
未だベルンハルドに会う準備をしていなかったファウスティーナにしたら、此処で会うことは避けたい。また、非常に見目麗しい男性と2人でカフェにいると知られれば別の意味で問題となる。……まあ、エルヴィラを心底愛しているベルンハルドだ。ファウスティーナが誰といようと関係ないだろうが。強いて言えば、王太子の顔を汚す真似をしたとして激怒するくらいだろうか。
自分のチョコレートケーキを食べたヴェレッドは、ナプキンで口元を拭うとベルンハルド達の席へ行った。
「ねえ、先代様」
「あ……ローゼちゃん……」
「だから、俺をローゼって呼ぶなって言ってるでしょう」
声の聞こえる距離なので彼等の会話は知れる。オルトリウスが彼をローゼと呼ぶ理由は一体何なのだろう。屋敷でオルトリウスの言った、女の子にしか見えなかったという発言から、単純に女の子だと間違えられてローゼと名付けられてしまったのか。貧民街出身、というのも非常に訳アリな空気がする。
ヴェレッドが声を掛けるとオルトリウスは気まずげな声を出した。シエルにお使いに出されたことをオルトリウスも知っている。2人が同じカフェで休憩しているとは思いもしなかったに違いない。
「あー…………うーん…………。……ローゼちゃんもおいで。昔みたいにケーキを一緒に食べようよ」
「あのさ……」
「ほらほら、座って座って」
ちらっと顔を出して様子を盗み見たいがバレる可能性はある。ここは我慢をして聞くだけに専念だ。
椅子の引く音がするからに着席したらしい。
オルトリウスが給仕にケーキセットを頼んだ。
「君はどうする?」
「えっと、大叔父上と同じ物を」
「ローゼちゃんは?」
「……要らない。さっき食べたから」
彼等が来なかったら食欲旺盛な彼だ、まだケーキを頼んでいただろう。
「街に降りたことは?」
「まだありません。貴族学院に入学した後でと父上に言質を取っています」
「貴族学院というと、もうクラス分けテストはしたかい?」
「はい。結果も出ております」
ひたすらに王太子として励んできたベルンハルドは、当然Aクラス。当たり前の話をファウスティーナはすっかりと忘れていた。同じクラスになるくらいなら、ワンランク下のBクラスになれば、と考えが過るもそれでは家やシエル達に迷惑になる。
「お嬢様もAクラスだよ」
「ファウスティーナちゃんね。ベルンハルドちゃんもだけど、見るのは赤ん坊以来だから大きくなってて安心したよ」
「15年も経ってたら誰だって大きくなってるよ」
「……大叔父上は、ファウスティーナにお会いになられたのですか?」
一瞬、息が止まるかと錯覚する程驚いた。
ベルンハルドから自分の名前が出て。
「屋敷に行った時にね。とても綺麗な子になっていたよ」
「お嬢様は先代様と会ったあと、孤児院に行ったけどね。教育が受けられない子供達に勉強を教えに行ったよ」
「そう……ですか」
嘘、実際は同じ建物内にいる。孤児院へはメルセスと共に定期訪問している、ヴェレッドが言った通り、子供達に勉強を教える為に。勉強と言えど、簡単な文字の読み書きや数字の書き方や計算方法を教えている。数十年で孤児院の質も大分上がったがまだまだ手が回らない場所は多い。けれど、餓死する子供の数は激減しているのはやはり先王や現王の力が大きい。
孤児院への寄付は貴族の義務として定着している。教会と繋がりの深いヴィトケンシュタイン公爵家は多数の孤児院に多額の寄付をしている。何度かシトリンに連れられてケインやファウスティーナは孤児院を訪問している。ケインは次期公爵として、ファウスティーナは王太子妃、王妃になるに必要だからと。エルヴィラも何度も行こうと促されていたが、リュドミーラを味方にして決して行かなかった。
給仕がヴェレッドの頼んだ品をテーブルに運んで来てくれた。シュークリームに手を伸ばした時。ヴェレッドがとんでもない言葉を投下した。
「ねえ、王太子様。お嬢様の妹君とは仲良くよろしくやってるの?」
口に入れなくて良かったと今日1番の安堵を覚えた瞬間だ。
「……なに?」
「こらローゼちゃん。なんてこと言うの」
「事実だよ。王太子様はね、怖いお嬢様や坊っちゃんに虐められて泣く妹君がお好みみたいなんだ」
「そうなの? ベルンハルドちゃん」
「っ……」
言うならファウスティーナがいない時に持ち出してほしい。いや、後からとばっちりを食うなら出さないでほしい。
「……ファウスティーナのことを誤解していたのは事実です。初めて会った時から彼女が――嫌いでした」
「っ」
……言われずとも態度で痛い程伝わっていた、止めの言葉も受けた。けれど、いざ言葉にされると凶暴なナイフで心臓を滅多刺しにされた痛みが襲いかかった。
体が震える。手が震えて食器を落としそうになる。動かしては駄目だと反対の手で抑えた。ヴェレッドの言う通り、彼は意地悪な兄姉に虐められて泣き叫ぶエルヴィラが可哀想で愛しいのだ。
自分は所詮ヒロインを引き立たせる為の脇役、否悪役だ。
平常心、平常心、と心の中で何度か呟くと漸く彼等の会話に耳を傾けられる余裕が生まれた。
「はあ……やれやれ。当時のシリウスちゃんの選択は、大きく間違えていた訳だ」
「何度も機会はあったのに、悉く潰したのは王様だよ。まあ、王様が何度忠告しても態度を改めなかった公爵夫人は異常だけど」
「忠告……?」
「あれ、王太子様知らないの? 王様はね、何度も公爵夫妻に注意していたんだよ。お嬢様の扱いを改めろって。まあ、公爵様の方は問題なかったけど夫人が問題でね。何を言ってもお嬢様の為って譲らなかったんだ」
――陛下が……初めて知ったわ……
国王の耳に入る程、自分の置かれていた環境が異常だと今更突き付けられ軽く目眩がした。同時に、国王に忠告されても態度を改めなかった母にある意味恐怖した。自分が産んだ娘がそうまでして気に入らなかったのか、あの母は。
自分に似たエルヴィラとケインを溺愛し、父に似たファウスティーナには何もかもを強制。
夫婦仲が悪かったら、夫に対する憎しみのあまり、と勘繰るが両親は非常に仲睦まじい夫婦だ。なら、ファウスティーナの何が気に入らないのだろう。
「ひょっとしたら、自分にそっくりな妹君を王太子様の婚約者にしたくてお嬢様を悪者に仕立てあげた可能性もあるよね。王太子様万々歳じゃない、大嫌いなお嬢様じゃなく好みの女の子と婚約出来るんだから」
「ふざけるな、ファウスティーナと私の婚約は絶対に解消されない。……第一、何故私がエルヴィラを好かなければならない」
「ぷっ、あ、ははははは……!」
エルヴィラを好いてなければ今までのベルンハルドの行動は説明不可能だ。
声量は抑えているが笑っているヴェレッドを窘めたのはオルトリウスだった。
「ローゼちゃん笑わないの」
「む、無理っ、どの口が言ってんの? 散々お嬢様を邪険にして妹を虐める最低女だって悪者扱いしてたくせに」
「っ、だから、ファウスティーナに今までのことを謝りたいと何度も手紙を送っている」
――……え?
「へえ……っ、けど、1度も会ってないでしょう? そうじゃなかったら、お嬢様は何度かお城の方に行く筈なんだけど」
「っ」
「というかさ、送り先間違ってない? お嬢様宛に王太子様のそんな手紙なんか届いてないよ?」
「は……?」
ヴェレッドの言う通り。ベルンハルドから届く手紙と言えば、婚約者としての定期的な贈り物に添付された手紙と誕生日の日にプレゼントと送られる手紙くらいだ。謝罪の手紙は1度も送られていない。届いていたらシエルが教えてくれる。こんな手紙が届いているよ、と。ケインやシトリンからの手紙が届いたら必ず報せてくれるので。
「何を、言っているんだ……確かにファウスティーナ宛に……」
「もしかして、公爵家に送ってるんじゃないの?」
「そんな訳がないっ、住所は確かに教会にしている。それに返……」
「要はこういうことじゃないのかな」
会話に入るのはヴェレッドを止める時だけだったオルトリウスが会話に入った。
「ベルンハルドちゃんに余計な気を回した誰かが手紙を届けた振りをしているか、それかファウスティーナちゃんに気を使った教会関係者が敢えて見せていないだけか、このどちらかじゃないかな」
「……」
「それってシエル様?」
「シエルちゃんはファウスティーナちゃんに嫌われるようなことはしないよ。とても大事にしてるんだから」
「まあね。いっそ、お嬢様を王弟の妻にしたらいいのに」
ファウスティーナ自身、心身共に限界を迎えたという理由で教会に保護されたので王太子の婚約者からは外されると思っていた。ベルンハルド本人が酷くファウスティーナを嫌っているから余計。だが、現実は継続のまま。女神の生まれ変わり、という理由だけなら婚約させられる王族は2人いる。
幾ら思考を回転させても答えへは辿り着かない。
「そうしたら、王太子様は好きな子を婚約者に出来るのにね」
「何度も言わせるなっ、私はエルヴィラに特別な感情は抱いていない。ファウスティーナとの婚約はこのまま継続だ」
「まあ、そうだよね。頭空っぽで泣けば何でも許してもらって、夫人と仲良し母娘劇場を見せる妹君は、とてもじゃないけど王太子妃なんて務まらないよね。良くて愛人くらいかな」
「ちょっとローゼちゃん、お口閉じてなさい。おしゃぶりが欲しいなら何でも頼めばいいから」
「えー」
「えー、じゃないの全くもう。幾つになってもそうやって相手を煽る癖を治さないね」
「俺が言ってるのは全部事実だよ」
「構ってちゃんを発動するのはシエルちゃんやシリウスちゃんだけにしなさい。君は只でさえ、イレギュラーな子なんだから」
「はーいはい。ねえ」
大人しくオルトリウスの忠告を受け入れたヴェレッドは、給仕を呼びつけデザートを注文した。あ、とファウスティーナはヴェレッドが行く間際頼んでくれたデザートを1つも手を付けていないのを思い出す。最初に食べようとしたシュークリームへ手を伸ばした。
「やれやれ。ベルンハルドちゃん。気にはしてもいいけど苛立っちゃいけないよ。ローゼちゃんは人を煽って怒らせるのが好きなんだ。暴力沙汰を起こしても負けるのは君だから、手を出してもいけない」
「……偶に、叔父上といるのを見ますが一体」
「いいのいいの。気にしなくて。それより、折角足を運んだカフェだ。平民の味をしっかりと知りなさい」
「はい……」
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