お似合いでしてよ①
濃い夕闇が空を包む時刻――
「うん、やっぱりこうなった」
「うう……」
「虐めないの」
現在進行形で王城内にある会場にて建国記念パーティーが開催されている。
フリューリング侯爵邸から王城へ出発したものの、到着するなりパーティー会場には行かず、現在は封鎖され立ち入り禁止となっている後宮へ足を運んだシエルとファウスティーナ、無理矢理連れて来られたヴェレッド。リオニーは夫と共に今頃受付をしている最中だろう。
時間を考えると遅刻となる。時間にうるさい宰相に見つかるとお小言を沢山くれるからと後宮へ来た。
後宮の入口で門番をしている騎士はあっさりとシエル達を通した。シエルに手を引かれて歩くファウスティーナが不思議がっているとヴェレッドが欠伸をしつつ教えた。
「ふあ……、どうせ、王様が今日限定で解放したんでしょう。お嬢様を連れたシエル様がそのまま帰らないように」
「半分正解、半分不正解。私が頼んだ。ファウスティーナ様が王太子に会う勇気がない場合は、後で陛下が後宮に来たらいいと」
「え!?」
フリューリング邸へ向かう馬車の中でシエルに問われた。
“王太子に会う勇気は君にある?” と。
正直に答えた。
ない、と。
我慢をして、無理をして、会うこともできた。
姿を見ただけで体は蛇に睨まれた蛙同然になり、何も出来ず、迫り来る悪意から逃げられず捕食されるだけの餌として。
ベルンハルドが今日までどう過ごしていたかは知らない。シエルはベルンハルド個人の話は一切していない。ファウスティーナは有り難かった。どうせ何事もなく過ごしているだろうが、現実に知ると刃は更に深く心を傷付け、最後は原型を留めない滅多刺しにして崩壊していた。
そう、とシエルの声で馬車での会話は終わった。
フリューリング邸に到着すると話が通っていたのか、待ち構えていた数人の侍女に連れられたファウスティーナはパーティー用のドレスに着替えさせられた。
ヴェレッドが適当に選んだにしてはファウスティーナにピッタリな紺色のレースの透け感がエレガントな七分袖のドレス。髪は丁寧に梳かしてもらい、メルセスの選んだ小さなアメジストが散りばめられたカチューシャをつけられた。
綺麗に着飾った姿をサロンで待っていてくれたシエルに見せに行くと、何故かリオニーに泣かれた。
どう声を掛けたらよいかと途方に暮れるファウスティーナを助けたのはシエルだった。抱っこをされ沢山褒められた。シエルだからか、本心から言ってくれるからか、恥ずかしさと嬉しさが合わさった笑みでお礼を言うと復活したリオニーは他者を圧倒する眼力でシエルを睨んだ。
別の意味で困り果てたファウスティーナを視界に入れると穏やかな表情に変わった。
あの時のリオニーの百面相は何だったのか、本人不在なのでファウスティーナは訊いてみた。
美しい微笑のままシエルは応じてくれた。
「ファウスティーナ様はアーヴァを知っているかい?」
「はい。リオニー様の妹様だと聞いております。私がとても小さい頃に亡くなったとも」
「……そう。君はアーヴァにとてもそっくりなんだ。ずっと花を眺め続けるところ、動物が好きなところ、甘いスイーツが好きなところ。見た目もよく似ている」
「リオニー様も言っていました。私が髪や瞳の色以外、お父様やお母様に似たところがないと言うとそう教えて下さいました」
「……それを聞いて君はどう思った?」
「? お父様方の血が濃いとしか」
「そうだね」
ファウスティーナのどんな話でも真面目に聞き、答えてくれるシエルはぼんやりとした様子で。稀に視線をもらうが蒼の瞳にファウスティーナは映っていない気がした。ファウスティーナを通して、別の誰かを見ている気がしてならない。
リオニーといい、シエルといい、ファウスティーナがアーヴァとそっくりだから可笑しくなってしまうのか。
どんな人だったのかはシエルが言った通りの人だ。シトリンやリュドミーラに訊ねても同じ。
ただ、リュドミーラは付け加えて春が好きな人だったと教えてくれた。
後宮へ足を踏み入れた。
封鎖されてから長く。寂れた廊下を歩いていき、暫くして大きな扉の前に立った。この部屋の周辺だけ他と違い綺麗に清掃されている。
「ここは私が幼い頃使用していた部屋だよ」
「懐かしいねえ。よくマイマイ君が王様の言伝てを預かってシエル様を訪ねたっけ」
「彼が来る度にカタツムリを見せつけていたね君は」
「だってマイマイ君、好きでしょう? カタツムリ」
「さあ」
金色のドアノブを下ろして部屋に入った。
空っぽの本棚、大きな寝台、向かい合うように置かれたカウチ、テーブルがあるだけの部屋だった。
ファウスティーナをカウチに座らせたシエルが横に座り、ヴェレッドは後ろに回って背凭れに体を預けた。
「何もない部屋だと思った?」
「は、はい。でも使われていないのなら当たり前かなって」
「確か、10歳までは此処で生活をして、王太子の予備の教育が本格化した辺りで王宮の方に移ったかな」
「俺も一緒に行かされて迷惑だった。此処、結構楽しかったのに」
後宮には、女性好きと名高い先王に押し込められていた多数の令嬢達がいたと聞く。どの様な生活が行われていたか……きっと、想像を絶する生活だったに違いないと予想するファウスティーナは怖くて聞けない。が、聞かせてくれるなら是非とも聞いてみたいという好奇心もあった。
期待に満ちた眼差しをヴェレッドに向けたら「めっ」とシエルに鼻頭を左の人差し指で突かれた。
「君にはまだまだ早い。もう少し大きくなったら後宮ではどんな生活がされていたか教えてあげよう」
「はは、でもさあ、聞かせて困る話でもないんじゃない? 俺がさっき言った通り、此処での生活は悪いものじゃなかった。それは此処にいた人達がよく知ってる」
「うるさいよヴェレッド。口を閉じてなさい」
「はーいはい」
ヴェレッドの言い方だと、彼女達は此処で幸せかどうかは未だ不明だが何事もなく過ごせていた、という事だろうか。
コンコン、とノックが鳴った。
シエルが応えると扉が開いた。
侍女がキッチンカートを押して部屋に入った。
「陛下からファウスティーナ様にと」
「これって、シエル様は顔を出しに来いって事じゃないの?」
「やれやれ」
オレンジジュースの入ったピッチャーとアイスペール、数種類のタルト、クッキー、マカロン、シュークリーム、エクレア、スモア、マドレーヌ、ティラミス。他にも様々なスイーツがテーブルに置かれていく。
飲み物が1人、それもファウスティーナの好物しか用意されていないのはヴェレッドの言った通り、シエルはパーティー会場に来いという意味を指していた。
肩を竦めたシエルはファウスティーナの髪をそっと撫でるとカウチから立った。
「仕方ないから行ってくるよ。ヴェレッド、ファウスティーナ様とお留守番しててね」
「はーいはい」
「行こうか」
「はい」
全てのスイーツとファウスティーナの分のグラスを置き終えた侍女を連れてシエルは部屋を出て行った。
残されたファウスティーナは気まずそうにヴェレッドを見上げた。
「や、やっぱり、私も行かなきゃダメ……ですよね?」
「良いんじゃないの? 王様がパーティーのスイーツをこっちに持って来させたのは、お嬢様が顔を出さないのを許可したってことだから。お嬢様だって、無理に王太子様に会いたくないでしょう?」
弱く頷いた。
「なら、王様に甘えてシエル様が王様を連れて戻るまで待っていようよ」
「へ、陛下は本当にいらっしゃるのでしょうか?」
「シエル様がああ言っていたんだ。来るよ」
来たとしてもどんな顔をしたら良いのか。
国王がファウスティーナとベルンハルドの間に起きた出来事を把握していない筈がない。
考えると胃が痛くなってきた。折角、目の前には美味しそうなスイーツが沢山あるのに。
「ねえ」とヴェレッドに呼ばれた。
「難しく考え過ぎだよ。王様だって、長居するつもりはないだろうし」
「は、はい」
「それよりさ、食べようよ。折角用意してくれたんだし」
時間にすると2時間以上経過している。平民街で沢山食べた食べ物はファウスティーナは勿論、ヴェレッドの胃もすっかり消化されてしまい空腹を感じていた。燃費が悪いのかもと思いつつ、美味しい物を食べたい欲求は人間誰にだってある。
同意し、ファウスティーナはクッキーに手を伸ばした。
香ばしいバターの香りと食感の良い固さが美味しいクッキーだ。すぐに1枚食べ終えるとまた手を伸ばした。
「慌てて食べなくても誰も取らないよ」
そう言いながら、カウチの後ろからテーブルの側に移ったヴェレッドが慣れた手付きでグラスに氷を入れ、ピッチャーを持ってオレンジジュースを注いでいく。どうぞ、と目の前にオレンジジュースが入れられたグラスを置かれた。
ヴェレッドの動作に既視感を覚えた。何故だろうと首を傾げるも、はい、と3枚目のクッキーを差し出された。まだ2枚目を食べてないのに。
「ヴェレッド様も食べてみて下さい! とっても美味しいですよ!」
「そう」
美味しい物は自分だけではなく、他の人にも食べて味わってほしい。そうして美味しさを共有したい。味の感想を言うも良し、これの他に美味しい物があると言うのも良し。
ヴェレッドはクッキーを食べるとマカロンに手を伸ばした。
「シエル様が食べるクッキーよりかは柔らかいね」
「これより固いのですか?」
「うん。あと、あんまり甘くない。半分に割って紅茶に浸して食べるのが好きなシエル様用に作られてるから当たり前だけど」
「なるほど」
言われてみると、お茶の時間、シエルは固そうなクッキーを半分に割って紅茶に浸して食べていた。
「お行儀が悪いから真似しちゃダメだよ?」と言われるも、好奇心旺盛なファウスティーナは誰もいない時こっそり試したことがあった。クッキーの甘さ控え目な分、薔薇の香りが強い紅茶にピッタリだった。
今頃パーティー会場に着いただろうシエルはどうしているだろうか、とクッキーからスモアに変えたファウスティーナはぼんやりと思う。
(このまま、此処にいていいのかな。司祭様が話した、エルヴィラを殿下の婚約者とする正当な理由作り。実際叶うかどうかは置いても、それ以上の正当な理由がないとエルヴィラを殿下の婚約者には出来ない)
もしもファウスティーナが女神の生まれ代わりではなく、普通の女の子だったらベルンハルドの婚約者は別の令嬢がなっていた可能性があった。
同じ公爵家だと、フリージア家のジュリエッタ。侯爵家だと、ラリス家のアエリア。ファウスティーナがベルンハルドと会うまでお茶会で会話をしていた侯爵家の令嬢。
ファウスティーナ的には、歴代の王妃を数多く輩出してきたラリス家のアエリアが適任だと思っている。彼女自身、王太子の婚約者になりたいかは別として。
女神の生まれ代わりと同じくらい稀な“運命の恋人たち”にベルンハルドとエルヴィラがなる。
ファウスティーナの――リンナモラートの――強い願いなら、フォルトゥナは認めてくれるだろう。“運命の恋人たち”は、フォルトゥナが数多に結んだ糸の内、特に強い運命に結ばれた男女をリンナモラートが選んだ恋人たちのこと。
ファウスティーナは女神リンナモラートの生まれ代わりだから、同じ年に生まれたベルンハルドと婚約が結ばれた。大昔、王家と姉妹神が結んだ誓約に則って。
ベルンハルドでなくてもいいのだ。王子はネージュもいる、王弟であるシエルもいる。
「……」
ただ……あんな言葉を吐かれたのに、未だベルンハルドを慕う気持ちがあることにファウスティーナは自分自身驚いていた。粉々に砕け散っても、残骸が身を寄せ合い、歪な形になりながらも存在し続けていた。
マカロンを食べてオレンジジュースを飲んだ。
オレンジジュースと一緒に永遠に叶わない恋心も胃袋に落ちていけ、と念じて飲むもそれだけは留まった。
一気に飲み干してしまい、空になったと気付いたヴェレッドに「お代わりいる?」と訊ねられた。
首を横に振ったファウスティーナはグラスを持ったまま彼を見上げた。
「……や、やっぱり、行こうと思います。パーティー会場に」
「……」
「私だって、ヴィトケンシュタイン公爵家の娘です。その、ちゃんと出席して、陛下や王妃様にご挨拶をしたい、です。それで……それで……」
言葉の続きを探す。
自分でも後を考えず発言をしている自覚はある。でも、このまま此処にいるだけではダメな気がする。
頭の中で誰かの声がした。
“きちんとお別れをしたら、君の気持ちも晴れて、相手も何も気にせずにいられると思わない?” と。
ベルンハルドがファウスティーナを気にしている筈がないと強い確信を持てる。が、ファウスティーナ自身何時までも守られているだけではいけない気がした。怖くても、ちょっとずつ前を歩かないといけない。
「ふーん……じゃあ、行こっか」
「へ」
あっさりとファウスティーナの提案を飲んだヴェレッドは食べかけのシュークリームを口に放り込み、カウチから立った。
呆けているファウスティーナに声を掛け、ハッとなった彼女もカウチから立った。
手を繋がれて外に出ると、前に見張りをしてくれていた騎士が振り向いた。
「如何されました?」
「お嬢様がシエル様に会いたいって言うから会場に行くよ」
「承知しました。入口までご案内します」
言ってない。断じて言ってない。
騎士を先頭に後宮を出、無言のままパーティー会場へ目指す。
空は漆黒に包まれ、黄金に輝く満月がとても美しい。
パーティーが開始されてかなりの時間が経っているので他に入場者はおらず、受付係は暇そうにしていた。騎士に連れられたファウスティーナとヴェレッドを認識すると慌てて姿勢を正した。騎士が話をすると受付係はシエルから聞かされていたらしく。
「ファウスティーナ様が来られましたら、王弟殿下をお呼びするよう言伝てられております」
「それなら、俺が呼んで来るよ。お嬢様を見てて。お嬢様も待っててね」
「うん」
会場の扉を人1人入れるスペース開けてもらい、入って行ったヴェレッド。ファウスティーナは騎士と受付係と彼等が来るのを待った。
心臓が煩いほど鳴っている。
緊張しているのだ。
大丈夫、大丈夫、と自分に言い聞かせ心を落ち着かせようと心掛けた。
――パーティー会場に足を踏み入れたヴェレッドは、壁側に沿って目的の人物がいる上座まで向かう。中央でピンクゴールドの髪の女性と踊るシエルがいた。確か、相手はラリス侯爵夫人と記憶している。口を動かし何かを話している。遠目から見えたシエルと夫人の口の動きから、ある程度の内容を察した。
……同時に2人を視界に入れ固まって石となっている男性は多分ラリス侯爵。足下には顔がそっくりな2人の息子がいて慰められている。
「油断ならないね」
愉快げに薔薇色の瞳を細めた。
デビュタントがまだの子供達は中央で踊る複数の男女を憧れと羨望の眼差しで見ていた。特にシエルとラリス夫人は視線を集めていた。滅多に社交界に顔を出さず、出してもすぐに帰る王弟が踊っているのだ。皆の目が集まるのは無理からぬこと。
人々の隙間を縫ってすいすい進んで行き、運命の女神フォルトゥナに祝福された、魅力と愛の女神リンナモラートと初代国王ルイス=セラ=ガルシアの絵を背景にして上座に座するシリウスの元へ行った。隣には王妃シエラもいる。王子達の姿はない。
宰相のマイムはげっ、と顔を歪めた。国王シリウスはヴェレッドの姿を認めると険しい表情のまま向いた。
「小僧か……」
「目出度い日だね、王様。シエル様は未婚の令嬢や未亡人、夫人方にも大人気だ」
「わざわざ来た理由を言え」
「はーいはい」
ニヤニヤと笑いながらシリウスに近寄り、左襟足を口元まで持って行き囁いた。シリウスの瑠璃色の瞳が微かに見開かれた。
「……大丈夫なのか?」
「さあ……? 強がってはいるけど連れて来てもいいレベルだよ。後はまあ……実際にどうなるか、だよ」
「……」
「……どうするの? シエル様は踊ってるからまだ言えてないけど」
「ダンスはもう終わる。シエルが周りを囲われる前に行け」
「はーいはい」
言うが早いか、ダンスは終わった。
シエルとラリス夫人が互いに礼をするとすぐさま女性達が動き出した。我先にと進む女性達の姿に圧倒されたのか、単に面倒くさいだけなのか。
ヴェレッドはじぃーっとシリウスを見つめた。
「……」
視線だけで訴えてくるヴェレッドに盛大な溜め息を吐いたシリウスは上座を降りようと動き出すもシエルが此方を向いた。ヴェレッドの姿を見ると蒼の瞳を瞠った。
先程のシリウスと全く同じ顔だ。こういう部分で血の繋がりを出させる。
ヒラヒラと手を振ると肩を竦められ、周囲にいる女性達に断りを入れて会場の外へ向かい始めた。
「ねえ、面白いことってなかった?」
「あるか」
「えー。ねえ、王妃様」
話を振られたシエラもシリウスと同じ。
「つまんないの」
「さっきから聞いていれば君は陛下や王妃殿下に不敬が過ぎるっ。本来であれば、貧民の孤児だった君が此処にいるのは」
「マイム」
王に対し、王妃に対し、不敬な態度で接するヴェレッドに注意をするのはマイムが正しいだろう。
しかし、普段毛嫌いしている筈のシリウスが静かな怒気を纏った声色でマイムを止めた。
その姿は、王都の入口でのシエルと同じだ。
「小僧に余計なことを言うな」
「は、はい」
「それと小僧。私に対しては構わんが王妃に対してはやめろ」
「はーいはい」
反省の欠片もないヴェレッドがシリウスの頬を軽く摘まんだ。言われたばかりで何も言えないマイム、行動が過ぎると眉を寄せるシエラ。彼が言うことを聞く相手は会場を出たシエルなので止められない。
「いい加減にしろ」と言われ、漸く離した。
会場にいる人々の視線が集まっても全く気にした様子がない。
「暇」
「なら何故残った」
「あの集団を突き抜ける自信がなかった。目をぎらつかせた女って怖いよね。昔、此処にいた女の人達の方がよっぽど穏やかな顔をしてた」
「……その話を此処でするな」
「そうだね……王様は解っていながらも認めたくないもんね。前の王様の真意を」
「……」
マイムにも、シエラにも聞こえない声量で話すヴェレッドとシリウス。シリウスは難しい顔をし、ヴェレッドは愉快げに見るだけ。
「……ところで、遅い」
それなりに時間が経ったが一向にシエルがファウスティーナを連れて会場に戻らない。
なら様子を見て来い、と背中を押されたヴェレッドはシリウスへちろっと舌を出した。青筋を立てつつ何も言ってこないシリウスから視線を変え、会場の外へ向かった。
途中、知っている顔を見たが面白いものは感じず。
会場を出たら、目線が合うようにしゃがんでいるシエルがファウスティーナの頬を撫でている場面に遭遇した。
騎士や受付係は遠くから見ている。
「君は強い子だね」
「全然強くなんかないです。司祭様が一緒にいてくれるからです」
「誰かが一緒にいるからといっても、結局は君自身の問題になる。君は十分強い子だよ」
2人の様子からして話し合っていたのだろう。
ファウスティーナの心を思えば、会場に行ってベルンハルドと会う確率が上がるよりも後宮にあるシエルの部屋にいた方がずっと安全だ。だが、守られながらも行動を起こすと決めたファウスティーナの意思に納得はしなくても受け入れたようだ。
「あ」とファウスティーナがヴェレッドに気付くとシエルも気付いた。
「おや。陛下をからかっていたんじゃないの?」
「え」
「うん。でもあんまり反応しないから飽きた。というか遅い。待ちくたびれた」
「ちょっと話込んでいてね。では行こうか、ファウスティーナ様」
「は、はい」
ファウスティーナに手を差し出したシエル。そっと大きな手に自分の手を置いたファウスティーナは緊張で顔を固くした。
「あ、アナウンスはいらないからね?」
「は、はい!」
シエルが受付係に敢えて言い、会場の扉をそっと開いたのだった。
読んでいただきありがとうございます!
お似合いでしてよ、は勿論あの二人のことです( ´∀`)




