外
外伝的な意味にしたかったんです…。
結局、スヨンが婿に行くことになった。珍しいが、前例がないわけではない。スヨンは身元はしっかりしているが貴族ではない。宰相であるため公主を娶るのに不足はないが、二人で話し合って決めた。尤も、威族との戦いの事後処理があったため、二人の話し合いが終わったのは年が変わってからのこととなった。
そしてそのころになってやっと、僑に赴いていたイーミンが戻ってきた。
「ひどいよ姫君。僕を送り込んだことを忘れるなんて!」
「だからごめんて。忘れてたわけじゃなくて、優先順位が低かったの」
「一緒じゃない? というか、気が付いたらまとまってるし……」
恨みがましくイーミンがリンフェイとスヨンを睨んだ。
彼は、北の要塞に赴いたリンフェイの代わりに、僑の女王の元へ行ってきたのだ。
僑の女王は恐ろしい人ではあるが、横暴ではないし理不尽でもない。リンフェイが送った正式な使者であるイーミンをきちんともてなした。
「術のことについて根掘り葉掘り聞かれた。僕も『旧き友』について根掘り葉掘り聞いたけど」
「お前、度胸あるな……」
やる気はないが、度胸はある。それがイーミンである。
「いや、それはいいんだよ。僕も無事に帰ってきたし。それで、いつの間に二人はまとまったの」
結局そこに話が戻ってきて、スヨンとリンフェイは目を見合わせた。
「……成り行き?」
異口同音に言った。イーミンは顔をしかめたが、まあいいか、とあきらめたようだ。
「……うん、まあいいや。さすがに姫君と僑の女王に挟まれたら、威族も身動きが取れないよね」
「……」
どこかで聞いたような台詞である。まあ、スヨンでもその二人の女性を相手取ろうとは思わない。どちらか片方なら撃破できるかもしれないが、二人同時は無理だ。
問題は、リンフェイと僑女王が敵対するように状況を持って行かれた場合であるが、そうなる前にスヨンやほかの者が対処すればいい。
「ああ、それにしても、やっとリーメイにいい報告ができる……」
イーミンがほっとしたように言った。何を報告するのか気になるところであるが、深く突っ込まないことにした。
イーミンの仕事はとりあえずこれで終わりだ。少なくとも、リンフェイが頼んだ分は完遂している。彼はまた旅の日々に戻るので、時々国境などの情報をくれるだろう。
ところで、リンフェイに『一度死んでもらう』と言われたハオユーであるが、『前王ヤオ・ハオユー』という存在はいなくなっても、本人は生きている。つまり、彼の新しい身分を用意しなければならない。
おそらく、リーメイが生きていれば、彼女に預けることになっただろう。しかし、彼女はすでにこの世にいない。だとすれば、次の預け先がいる。
この預け先が問題であった。リンフェイが預かってもいいと言ったのだが、それはよろしくない。身分をはく奪されていても、ハオユーは王の血をひく。そして、リンフェイもそうだ。その二人が一緒にいるなど、何かたくらんでいます、と言っているようなものだ。
全く関係のないところ、しかし、彼を確実に守れる安全な場所。そうなると、選択肢は多くない。いっそ、僑の女王にかくまってもらう? とリンフェイが言ったのだが、さすがに反対しておいた。それならリンフェイが預かった方がましだろう。
しかし、他国に婿に出してしまうのも一手だ。だがまあ、その婿入り先は選定しなければならないが……どちらにしろ難しい。
「仕方ないから、私が預かるしかないかなぁ」
いろいろと問題はあるが、結局リンフェイが身柄を預かることになった。新しい名前を与えて。使用人の真似事をしてもらう。チェン将軍に預けることも考えたが。
「それはそれで……」
不安であるとハオユーが訴えた。チェン将軍のもとには彼の姉シュランが嫁いでいる。二人もハオユーの事情を理解しているが、それ以上に彼をちゃんとかくまえるのはリンフェイだけだろうと言う結論に至った。
王族二人が一緒にいると、という当初の問題に立ち返ってしまうわけだが、それを言い始めると、ハオユーを遠い異国に行かせるしか方法がなくなる。異国に行っても生きていけるような気もするが、本人が嫌だというのでやめた。彼が逃げた時、リンフェイが無視したために今回の一件が起こった。そのため、彼女もかなり慎重になっている。
「チェン将軍に預けられるよりは安全だと思うけど、新婚夫婦の側にいるのもつらい……」
うなだれるハオユーであるが他に行き場がないので現在リンフェイの邸宅に滞在している。リンフェイは彼をただの居候にするつもりはないようで、家令の仕事を叩き込んでいる。実際に叩き込んでいるのは老齢の家令であるが。
その様子を眺めながら、さすがに能力は高いな、と思うスヨンである。ハオユーは、王としての能力に不足はなかった。足りなかったのはむしろ精神力だろう。現王であるハオユーの弟ズーシェンは、なんだかんだ言って図太い。
スヨンとリンフェイであるが、婚姻が決まってもなかなか成婚には至らなかった。リンフェイの身分が高すぎるゆえに手続きに時間がかかったのだ。リンフェイはあちこちと駆け回っても元気だったが、スヨンはさすがに疲れてきた。
「だらしないよ」
「年の差を考えろ。お前は二十歳ちょっとだが、私は四十間近だぞ」
年の差は十四歳だ。この国では決して珍しい年の差ではないが、体力の衰えを感じるスヨンであった。リンフェイが元気すぎるだけかもしれないが。
するりと背後から白い手が伸びてきて背中から抱きしめられた。
「まあ、それくらいの年で実績がないと、公主と太尉の身分を持つ私を娶れないよね」
シュランが嫁いだチェン家ですら、将軍になるまで縁談が調わなかった。スヨンとリンフェイほどではないが、彼の夫婦もそれなりの年の差夫婦だ。
「……お前の尻に敷かれる未来しか見えない」
「そう? 実際の力関係はあなたの方が上だと思うんだけど」
そう思っているのなら人を振りまわすのをやめてほしいところであるが、スヨン自身が振り回されるのを楽しんでいる節もある。ため息をついたスヨンは振り返り、リンフェイの頬を撫でた。その青い瞳が細められるのを見て、スヨンも眼を細めた。
まだあまり色彩を把握できている気がしないが、この青い瞳だけははっきりとわかる。
世界が白黒であっても、間違いなく彼女はスヨンにとっての光だった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
これにて本当の完結!
読んでくださった皆様、ありがとうございました!
いつも通りの御都合主義、ツッコミどころ満載でしたが、暇つぶしくらいになっていれば幸いです笑




