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拾参










「で? どうなった」


 翌日。前日に王太后と言い争っていたという太尉殿に尋ねると、彼女は嫌そうな顔をした。

「わかってるくせに。あっちの要求を呑むしかないよね。まあ、明らかに不可能なものは外させてもらったけど」

「そうなるなら、最初から戦うな」

「そうはいかないわ。ただやられるつもりはないもの」

 ふん、とリンフェイは子供っぽく憤った。これでも彼女もいい年下大人なので、嫌味の言い合いなどなしに話をまとめることができたはずだ。それをしなかったのは、リイェンに売られた喧嘩を買ったからに過ぎない。どちらも大人げない。

「王太后がごひいきの術者とやらは?」

「演台に立たせるよ。どんな演目をしてくれるのか見ものだね」

「……その術者らしき男を、昨日見た」

 スヨンの言葉に、リンフェイは驚いたように色素の薄い目を見開く。

「え、本当に? パイロンだった?」

「いや、遠目だしよく見えなかったが、違ったと思う」

「あなた千里眼はどこに行ったの」

 リンフェイがもっともなツッコミを入れるが、日常でいちいち千里眼を使ったりしない。

「あの出し物のパイロンと、王太后のお抱え術者は別人なんだろうか……」

「どうだろうね。裏で糸を引いているのが同一人物だという可能性もあるよ」

 なるほど。さすがにリンフェイは鋭い。

「ま、宴をやると決めた以上、何とかするしかないしね。どこかにイーミンを兄さんをねじ込んでもいい?」

「お前の采配に任せる」

「了解。内容をもっと詰めないとなぁ。あの人と会話にならないんだよね……」

「もっと落ち着いて話をすればいいだろう」

「私が友好的に話しかけても、相手はそうじゃないんだもの。売られた喧嘩は買う主義なの」

 なんて厄介な主義なのだ。これくらい気が強くなければ、リンフェイもやっていけなかったのかもしれないが……。


 とはいえ、一応二人ともいい歳の大人である。言い合いに発展しながらも、星見の宴の用意を整えられて行った。さすがに手際が良い。

 そして、イーミンが偵察に行った出し物の死者復活劇であるが。

「確かに、あれだけ説明できないよねー」

 と言うのがイーミンだった。

「と言うか、たぶん、『パイロン』と名乗って出てきた術者は、あの出し物に関する異能を持っていないと思う。死霊術者でもないし、驚異的な治癒術の使い手でもない……そもそも、異能は持っていないんじゃないかと思う」

「は?」

 スヨンから思わず間抜けな声が漏れ、イーミンは面白そうに「兄さんでもそういう顔するんだねー」と言ってのけた。

「あくまで僕が見た限りだからね。でも、少なくとも、あの舞台上にいた『パイロン』を名乗る男は、あの出し物の何にも関わっていないと思う」

「……では、誰が? どういうことだ」

 つぶやいた時、はっとリンフェイが言っていたことを思い出した。彼女曰く、裏で糸を引いているのが同一人物だということもあるよ。


 少し違うが、黒幕は本物のパイロンだと仮定する。そのパイロンは、出し物の舞台に立つ術者を、自分の代理人にして顔が割れないようにした。そして、本人は王太后のお抱え術者として宮廷に入り込んでいる……と言うことはないだろうか。

 考えが飛躍しすぎだろうか。しかし、そうであればイーミンが言っていることに説明がつく。

「……考え中申し訳ないけど、兄さん」

「うん?」

「あの死者が復活するってやつ、僕も死霊術なんじゃないかなって思う。術者が離れていると基本的に、術の効きって悪いんだけど、舞台で出し物をしている間くらいは持つと思う……」

 つまり、あのよみがえったという死者は、もともと死霊術のかかったご遺体だということだ。スヨンとリンフェイは遠目に見ていたので気づかなかった。そして、病や怪我が回復したのは。

「病が治ったとか、怪我が治ったとか、そう言うことではないと思う。兄さんたちも気づかなかった?」

「何をだ?」

「あそこには意識をぼんやりさせるための認識阻害の術がかかってた。正しい判断はできなかったはずだけど……まあ、自分をはっきり持ってる兄さんと姫君にはかかりにくいのかも。で、そのせいで誤認したんだと思う。明らかに、病人が元気溌剌になったように見えたから」

 何となく、イーミンの言い方に含むところがあり、緊張した。そして、イーミンは決定的な台詞を吐く。


「たぶん、薬……一般的に言う、麻薬を投与したんじゃないかな」


 一時的に、痛みが和らぎ、元気にはなるよ、とイーミンは告げる。スヨンは額を押さえる。言われてみれば、その可能性は十分考慮できた。何故気づかなかったのだろう。

「仕方ないよ。僕はよそ者だけど、兄さんたちは都に住んでるんだからね。ある程度噂に流されてしまっても仕方がない……まあ、彼らもそろそろ出し物をやめるんじゃないかな。よそ者が増えてくれば、僕みたいなのも増えて、いつか露見するかもしれない」

「……ああ、そうだな」

 のんびりしているし面倒くさがりなところもあるが、イーミンは基本的に頭が切れる。スヨンにとっては冷静で客観的な意見をくれる大事な存在でもある。

 リンフェイも治安維持のために着々と包囲網を縮めている頃だろう。と言うか、軍を率いており、さらに外交関係も担っているリンフェイは、麻薬の流通に気付いている可能性がある。気づいていて、スヨンに言わなかったのかもしれない。やはり食えない女だと思う。

「……ところでイーミン。お前、今度の宴に出てみないか」

「はえ!? 兄さん脈絡なさすぎ! 宴って、宮廷のやつでしょ」

「まあそうだな」

 たまに自分の屋敷で宴を開く貴族もいないことはないが、それほど多くない。リンフェイあたりなら開いても問題ない気がするが、彼女はそんな性質ではないし、直近の宴は王宮で開かれる星見の宴だけだ。


「なんで僕!?」


 兄さんと姫君がいるでしょ! と騒ぐイーミンに、スヨンは冷静に言った。

「私やリンフェイは自由に動けない。だから、いざと言う時のためにお前にいてほしい」

「微妙に口説き文句! いや、まあ、確かに……」

「お前、占いできるな?」

「できるけど」

「では、占者ということで演目に出てもらおう」

「……強引だよ、兄さん……」

 半泣きなイーミンであるが、スヨンは取り合わなかった。リンフェイに助けを求めても無駄だろう。彼女なら面白がる。

「うう……星見の宴なら占星術がいいけど……」

「あまり正確な占いでなくてもいい。後が面倒だからな」

「ううっ。了解」

 あとで紹介してくれ、と言われても困る。ままごとのような小さな占を行うだけで良いのだ。気になるあの人との相性とか、失せ物さがしとか、そういうもの。

「できれば兄さんが楽を奏でてほしいな」

「立場的に、難しい相談だな」

 音に親和性の高いスヨンが楽を奏でれば、イーミンは占をやりやすいだろう。スヨンの通力が上乗せされて、イーミンの実力もわかりづらくなる。

「でも、姫君に言ったら『任せてー』とか言ってくれそうじゃない?」

「……」

 現在荒れているであろうリンフェイだが、その処理能力は高い。乱雑に見えてすべての事柄が一度に解決していたりするから不思議だ。


「あ、何なら宴で兄さんと姫君の相性を占ってあげようか」


 落ち着いてきて余裕の出てきたイーミンが冗談めかして言った。スヨンは真顔で言い放つ。


「やめろ」








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ちなみに、

ワン・イーミン/王 一鳴(25)日本式に言うと陰陽師

リウ・リイェン/劉 梨燕(39)王太后。ズーシェンの母

パイロン/白龍 年齢不詳の術者。たまに表記ゆれがあるが、パイロンが正しい。


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