最速侍の独白
我は、朝風斬衛門。
世界最速の居合切りの使い手である。
生まれは、東洋の島国、ジャポン。
落とした侍の首の数は八百万。
国中に我が名は轟き、剣術自慢の侍が名声を求めて決闘を挑んできた。
しかし、いつも結果は同じ。我が足元には、斬られたことも気づかない愚かな笑みを浮かべた首が転がるだけだ。
我は、齢30にしてジャポン最強の侍の名を手にしたのだ。
いや、手にしてしまったのだ。
名声、富、女は、向こうから寄ってきた。
しかし、侍は寄っては来なかった。
我以外の侍は、我が愛刀の錆にしてしまったのだ。
退屈を誤魔化すように女を抱いた。しかし、
虚無感。
ただひたすらに、飢えた。
我は、居合が好きだった。巻藁相手でも居合はできる。しかし、我が心の隙間は埋まることは無かった。
我は斬りあいが好きだったのだ。
ただ、侍でいたかった。
相手の居ない剣術は、我にとっては遊戯にすぎなかったのだ。
このままでは、我の侍という肩書だけが落ちて、ただのエロい親父になってしまう。
33歳の冬、我は国を出ることを決意した。
異国には、我の想像できないほどの強者がいるだろう。
嫌、居てくれ。
我はまだ、侍でいたいのだ。
船旅は、二か月間の長いものであったが、我が心身は、充実していた。
強い者とまた斬りあえる、それが、モチベーションになって。
初めに着いた街は、サールダンクという名前だった。
珍しいものが溢れていた。異国の者達は、顔立ちすら珍しく見えた。
舌に合わない飯もそこそこに、我は、敵情視察がてら武器屋に行った。
いろんな、武器が見たかった。
だが、意に反してその店の主人は、ジャポン生まれであった。
旅の目的を話がてら、武器を見せてもらった。
国の、あるある話で盛り上がっていたら主人は、一振りの刀を差しだしてきた。
我は、驚いた。
それは、我でも噂話しでしか聞いたことない刀だった。
妖刀 ザンコク
我の目的に心を打たれた主人が、ぜひ、我に使ってほしいと無償で譲ってくれた。
ザンコクを握ると、震えが来た。早く人を斬りたい。
武者震い。
主人に礼をいい、我はスキップで店を後にした。
自前の刀と妖刀の二本差し。
久しぶりだから、居合切りで試したい。ならば、相手も刀の奴が良い。
街中を歩き探した。だが、都合良く帯刀している者は見つからなかった。
諦めて今晩の宿を探そうとしたその時。
見つけた、帯刀している者を。
異国の者だった。しかし、帯刀しているといっても・・・
「あれ、木刀じゃね?」
嫌、今は、そんな事は関係ない。
ただ、人を斬りたかった。
この妖刀で。
もう、我慢できない。
もう、我は我慢汁でビショビショだ。
さあ、刀で人を斬れる。
いざ、尋常に。
「我は、朝風斬衛門!!其方と決闘をしたい!!」