自称名刀腰に来りて
「武器が欲しいなぁ。」
生まれ故郷の村を暗黒騎士に灰にされ、復讐の旅にでたクラウス・グラッソは、まず初めにそんな事を思った。
俺は、どうやら常人離れした防御力を持っているようだから、武器なんて要らないのかもしれないが。
「武器、持ってた方が格好いいもんな。」
そんな理由で武器調達をすることにした。
「あっ、あんま金無いから、アウトレットでもいいな。」
故郷の村から、北に100キロこの地域では一番大きな街。
移民の街 サールダンク
「うわぁあ、人がいっぱいだ。」
田舎育ちのクラウスは、感嘆の声を出した。
初めて見る物が溢れているから、街を散策しながら武器屋を探すことにした。
見た事もないような色で作られたケーキが並ぶお菓子屋さん。
眩暈がするぐらい匂いを放つ化粧品店。
ドラゴンの姿焼きを振る舞うレストラン。
額に汗を浮かべ、純白のドレスをひるがえし走り去る赤髪の美女。
腰に刀を2本差し、風を肩で切りながら歩く蓬髪の男。
初心な田舎者の心を震わせる物ばかりだった。
武器屋 ダンゾウ
「あっ、此処か。」
比較的古い木造造りの建物。嫌。小屋と云った方が良いか。
表の看板には、武骨な筆文字で屋号が書かれている。
この綺麗な街に不釣り合いなぐらいの潔さが見て取れる。
これは、自信があることの裏返しだ。クラウスは、この店に身を委ねることにした。
薄い木造の引き戸を開けた。
「ごめんくださぁい。」
外見の印象よりも店内は広く、数えきれないほどの武器が陳列されていた。
「いらっしゃい。どんな武器をご所望だい?」
黒の着流しを着た初老の男性が、店の奥から気怠そうに顔を出した。
この男性がこの店の主人。ダンゾウなのだろう。
「この店で一番切れ味の良い刀を下さい。」
ダンゾウは頭を掻いた。
「悪いね、この店で一番切れ味の良い刀、業物{ザンコク}はついさっき来た客が買っていっちまった。」
「そうっすか。どうしよう。」
主人は、徐に紙巻に火を点けた。
「あんた、帯刀してないってことは、新人の兵士さん?それとも愛刀を折った愚かな兵士さん?」
「いや、新人は新人でも世界を守りて征く者です。」
ダンゾウの鋭い目がクラウスに向けられた。
「世界を守るか。」
「そいつぁ。」
「なんて、素晴らしいんだ。バカっぽいけど。」
ダンゾウはそう言い残し裏に消えて行った。
あれ、俺バカにされた。あんな禿げたじじぃに?
試し切りはじじぃでもいいんだぞ。
「なんてね。」
「どうした独り言言ってバカだけじゃなくアホなのか。」
「あぁ、いや、すみません。そうだ!刀は?」
ダンゾウは、手に黒い包みを持っていた。
「あんた、東洋のジャポンという国は知っているか。」
「こどもにでも分かる世界の歴史大全で読みました。」
ダンゾウは、黒い包みを恭しく解いた。
「この刀は、ジャポンで育った樹齢150年の赤樫という特別な木を素材に使って、職人歴50年の職人が愛妻弁当も食わず使った自称世界最強の刀だ。」
え?ただの木刀じゃん。と思ったが言うのは憚った。
「ほら、握ってみな。凄い力が湧いてくるぞ。」
クラウスは刀を握った。
この手に馴染む感覚。この綺麗な刀身。これは、間違いない。・・・
木刀だ。
「これで、人を斬れるんですか?」
クラウスは怪訝な目を胡散臭い主人に向けた。
「その前に、一つ話を聞いてくれ。」
ダンゾウは、了承を得る前に話し始めた。
「世界には名だたる名剣がある。エクスカリバー。ラグナロク。セカイギリ。伝説の刀というやつだ。」
「だが、それらの名剣でも初めは名も無く戦勝していくうちに価値が出てきたのだ。」
「君が今から買うこの刀は、今は名前は無いけれど君の腕次第で素晴らしい名前が付くだろう。君自身が名前を作り上げるのだ。」
あれ?この木刀買うなんて言ってねーんですけど。
「刀というやつは主人と成長していくのさ。だから、この刀が名刀と呼ばれるか、鈍らになるかはアンタ次第ということさ。」
「人を斬れるか?と聞いたな。バカバカしい。刀ではないのだよ。人を斬るのは使い手の心だ。」
なんだ?今度は。オカルトか?こいつ、ここで斬ってしまった方が世の為じゃね?
「生半可な、覚悟では人は切れない。大事なのは相手の人生を救うという覚悟なのだよ。」
いや、大事なのは、日々の研鑽と刀の切れ味だろ。
「血に染まった相手の人生を斬って救ってやるという覚悟。それがあれば、斬られた相手も安心して逝ける。」
やっぱ、違う刀を買うかな。
「さあ、私の話は終わりだ。」
どんな刀出してもらおうかなあ?
「さあ、世界を守ると言った素晴らしい心を持ったアンタは何を買っていきますか?」
すばらしい・・・ここ・ろ
確かに俺はその目的で旅をしている。・・・んだよな?
でも、木刀では人々も仲間も守れない。
今なら、言える他のを見せてくれと。
「さあ、どの刀をお買い求めで?」
だめだ、言おう。普通の刀をくれと。
「人を斬るのは使い手の心ですぜ。」
言おう木刀はさすがに無いと。
「刀の名前もアンタ次第ですぜ。」
やめてぇぇぇぇえええ、これ以上唆さないでぇぇぇぇええええ。」
ドクン!
「ご主人、俺が買う刀は・・・」
ドクン!ドクン!
「この・・・」
ドクン!ドクン!ドクン!
「この・・・」
ドク
「この、キミヲマモリテ を貰う。」
「へい、まいどあり。」
こうして、クラウスは木刀を買った。