先天的防御性と衝動的攻撃性の狭間で
生涯のライバルになるかもしれない、帝国最強の暗黒騎士が俺の村を跡形もなく消し去り、俺の怒りが沸点まで到達し、奴を退けた話は、今回はヒヨコの性別ぐらいどうでもよくて、まずは俺の力の発現について知ってもらいたい。
これは、3年前の話。
俺は、テーブルの角に足の小指をぶつけた。
これは、周知の痛みであり、勿論俺も悶絶した。
「やべぇ、小指おれたんじゃね?クソ。」
テーブルに怒ったおれは、衝動的攻撃性で、テーブルの脚を蹴飛ばした。
小指の100倍痛かった。
テーブルはびくともせず、威風堂々とした威容で俺の脚を嘲笑ってるようだった。
勿論、それは錯覚で折れた自分の足だけが、現実だった。
「俺の、攻撃力なんて、たかが知れているな。」
それから1か月後。
畑のジャガイモを、踏みつぶそうとした牛に体当たりをした。
畑を大の字で踏みつぶしたのは俺の方だった。
俺が、吹き飛ばされたのだった。
「あっ、肋骨やっちゃったか?」
痛みがじんわりと華奢な体を巡った。
「俺の攻撃は、やっぱ弱いな。」
なんて言っていたら、仕返しとばかりに牛の蹴りが顔に飛んできた。
ガスッ!!!
クリーンヒットだった。
「ぎゃあああ、オーバーキルだよぉおおおおお。顔が無くなったんじゃない?」
「俺の、いけてる顔が。」
「あれ?なんともない。鼻血すらでていない。当たり所が良かったのかな。」
それから3か月後。
隣の家のリオスという3歳の男の子が、馬車に轢かれそうな所を庇い、俺が轢かれた。
「あぁ、これは死んだな。痛みがない。これが、死ぬってやつか。」
「でも、わりかしいい人生だったな。ジャガイモを作り。畜産にも関わり。人を助けて痛みもないままに逝けるのだから。」
「あれ、痛みがない?ていうか、体が普通に動くぞ。」
着ていた服が汚れただけだった。
「すいません、大丈夫ですか?」
馬車から降りてきた眼鏡を掛けている貴族風の男が、薄ら笑いを顔に張り付けて謝ってきた。
俺は、衝動的攻撃性で、顔面にパンチを浴びせた。
俺の拳はジンジン痛んだ。
人を殴るのは、いい気分はしないな。
「あの、大丈夫そうなので私はこれで。」
男は、傷一つない顔に、さっきと同じ薄ら笑いを浮かべて、馬車に乗り去っていった。
「馬鹿にしやがって。」
その晩のこと、ベッドに横たわった俺は、今までの事を微睡みの中で思い出していた。
俺の体、おかしくね?
攻撃は弱いが、防御力は高い。
何かを攻撃しようとしたときは、全然効果がなく、何かを守ろうとしたときは、絶大な性能を発揮している。
なぜ?
「弱いものを守り、強いものをくじく人間でありなさい。」
これ、昔、母さんが言ってた言葉だな。
でも、なんで今思い出す?
「あなたは、そういう人間よ。」
この言葉もだ。
そうか、俺の攻撃力は、ミジンコ並みに弱いが、防御力は、神の如き力なのだ。
先天的防御力は俺の力。 衝動的攻撃力は俺の自惚れ。
ははっ、笑っちゃうぜ。
でも、この体質?力?いつ手に入れたんだ?
まぁ、今日は疲れた今度考えることにしよう。
その夜、クラウスは夢の中で神と名乗る男とであう。
自称神が言った。
「この世の総てを」
「守りて征け」
これが、夢の出来事なのか現実なのかは、寝ぼけたクラウスには、今は判別できはしない。