襲撃
急ぎ集落へと戻った僕らが目にした光景……あれは何だろうか、鉄で出来た服を纏って棒のようなものを振るう生き物達が波のように集落に押し寄せている。
その棒で猫族の人々を棒で打ちつけている。そして動かなくなる……倒れているのはミトさん……ミトさんなのか?
これは何なんだ、何が起きている?僕らの集落に何が……
「人間だ……人間の襲撃だ……」
呆然としている僕の後ろから声がする、ロイの言葉の意味するところはつまり……僕達人間がこの集落に攻め込んできているのだ……何故
「イリア様はどこかに身を潜めていてください!カイどうした?!しっかりしろ!!」
人間の波が更に集落の中へ中へと押し寄せていく。波の過ぎ去った後……そこに折り重なるように力無く倒れているのはララ……?ルルさん……?ここからではどちらかはわからないが、よく似た二人が……
その二人に近付く人間が一人、鉄の服を脱ぎ捨てながら下卑た笑み浮かべながら。
これ以上、何をする気だよ。もう動かないじゃないか、死んじゃってるんだぞ……これ以上彼女達に何をするって言うんだよ。
ララがお前達に何をしたよ、ルルさんがお前達に何をしたんだ……
「カイ!!俺がわかるか?!気を確かに持て!カイ!!」
僕の背筋に、僕の心に何か冷たく黒いものが覆い被さってくる。気が遠くなる……意識が……
「触れるな、その二人に触れるな!」
僕の意識が暗い底に沈む、なのに僕の口や身体がまるで自分のものじゃないように勝手に動いて……
叫んだ僕は、はじかれたように前へ飛び出す、速い……これが僕なのか?僕の腕が勝手に木の枝を拾う、こんなもので何を
「なんだお前、どこの隊のもんだ?混ざりたいのか?そっちのを貸してやるよ……まだ温かい内にさっさと済ましちまおうぜ」
「それ以上近付くなよ……」
「は?お前何を言っ」
僕は男の前に立ちはだかり手にした枝を振るい力一杯に横に薙ぐ、その僅か一瞬で男の胴は二つ分かれ断面から炎が噴き出す。そうして目の前にいたはずの男は灰となった。これを僕がやったのか?僕は……僕は……
僕の意識が更に深い深い底へと落ちていく……そうして僕は自分自身が何をしているのかさえわからなくなっていった。
「カイ!しっかりしろ!!カイ!!」
「カイ様!カイ様!!」
僕を呼ぶのは……ロイ、イリアさん……僕は何を
「ロイ、イリアさん……一体僕は……」
「凄いぞカイ、お前一人で人間の軍隊を追い返したんだ!お前みたいにぼさっとした奴がこんなにも強いなんてな」
「僕……が?」
周りを見回すと先程までいた人間達はもう誰一人として残っていない……そうだ!ララにルルさん……そしてミトさん……
「ララ!ルルさん!……ああ……どうして……どうしてこんな……」
力無く倒れるララを抱き上げ、僕は泣いた。彼女は死んでしまったのだ、もう僕に微笑みかけてくれることは……ない。
「ララ……ルルさん……僕は、僕は……まだ何のお返しも出来ていないのに……」
「カイ……」
「痛たた……あら?カイくん?どうして泣いてるの?」
「え?ララ?」
「うん?大丈夫?カイくん」
「いやそれはこっちの台詞で……」
「うん、私は平気。人間の兵隊さんに切ったり突いたりされたけど……って羽がボロボロ!これじゃ暫く飛べないなぁ」
「あー痛たた……あら?ララは無事?」
「ルルさんも無事だったんですね」
「なんでララだけ抱っこされてるのかしら?若いから?若いからなの?」
「二人とも……怪我は……?」
「ああ、私達魔物はそれなりに頑丈だし、ハーピー族は軽量かつ高強度なのがウリだからちょっとやそっとじゃ死んだりしないよ」
「でも二人とも死んだようにピクリとも動かなかったから僕はてっきり……」
「慌てて空中で頭ぶつけちゃってね、ララったら石頭なんだもの……そのまま二人とも落ちて気絶しちゃったのね」
「石頭なのはママだよ!まだ痛いんだから!」
僕はそんな二人の遣り取りをみている内に安心したのか脱力したのか……頭の中が真っ白になって倒れた。最後にみたのは頭に包帯を巻いたミトさんだった。ああ……無事だったか……良かった