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繋がり

「お魚捕りにいくにゃ?マグロにゃ?」


「何を戯けたことを……川に行くのじゃ、鮪なぞおらぬわ」


「マグロ大好きにゃよ?食べたいにゃ」


「サラさん、本当に鮪とやらはいないんですか?ミトさん食べたがってるし……」


「ええい!お主まで阿呆か、鮪は海の魚じゃ!あまりミトを甘やかすでない……ただでさえ奔放で困っておるのじゃ」



 僕も何か仕事をしたいと申し出たところ、モルドさんからの提案でこれから釣りへと向かう途中でミトさんと話し込んでいた。サラさんは釣りに詳しいらしいとのことでミトさんからの紹介で色々と教えてもらっていたのだが……

 正直なところ、鮪のことも海のことも僕にはさっぱりわかっていない。ミトさんが欲しがっているので捕ってきてあげたいなと思っただけだ。


 話していてわかることだが、魔物の方々にはより社会的で秩序に基づいて行動する良識派と、個人主義的で本能に基づいて行動する野生派がいる。


 サラさん達蛇族はいくつもの部族からなり戒律も厳しく規則や秩序にも厳格だ。その族長たるサラさんは彼女達の間では現人神のような存在らしい、なんでも白い尾を持って産まれた子は神様の使いだとされるとか……。ちなみに蛇族もハーピー達と同様女性しかいない種族だ。


 対してミトさん達猫族はというと連帯意識というものを持ちうるのは女性だけらしい。男達は本当に適当だ、基本は食べて寝ているか遊んでいるだけになる。そのためか女性が上位に立ちまとめる立場にあって、見ていると大概にして男達は叱られてばかりだ。ちなみに男達の方が愛想がよく、女性達は警戒心がとても強い。ミトさんは立場上から社交的ではあるが、どことなく壁を感じる。


「さて、カイ。お主は釣りにいくのだろう。妾も付いていってやろう。殿方一人に任せるのも忍びないでな、二人で楽しもうぞ」


 蛇族の人達というのは世話好きのようで、僕にあれこれと気を回してくれる事が多い。親切に報いることができないものかと思い、近くの川へ案内してもらう道すがら、まずはどうして僕に良くしてくれるのかその理由を訊ねてみることにした。


「うむ、我ら蛇族には男の子はおらぬ。故に人の男の子というのは蛇族にとって種族を繋ぐための何物よりも大切な宝じゃ、それに人の中には蛇を神として祀る者もおるじゃろう?我らと人は昔から仲が良かったのじゃ……戦争になるではの」


「なるほど……戦争か……嫌なものですね」


「うむ、その通りじゃ。しかしカイよ、お主との出逢いはまさに僥倖であった」


「というと?」


「我らはこの戦争で子を残せず減る一方じゃ、お主がおればそれも解決できよう」


「というと……」


「なんじゃ?女にそこまで言わせるのかえ?」


「いやいや……それはちょっと……」


「これも一族のため!カイよ、助けると思って頼む!」


「ええ……それはまた今度で……」


「う、うむ。それもそうじゃの、すまぬな。ちと興奮した」


 戦争という窮状が彼女達を種の存続という本能に駆り立てるのだろうか、ルルさんもこんな感じだったな……


 川に着いた僕らは早速釣りをはじめたのだが、一向に釣れる気配がない。サラさんは日光浴をしたり、泳いだりして楽しそうにしているが……



「なんじゃ?釣れんのかえ?ならば妾のとっておきを見せてやろう」


 そう言って岩場に立ち、両手パンパンと打ち鳴らした。暫くは何の変化もなかったのだが、辛抱強く待っていると……


「ほら、カイ。魚達が集まって来よった、早よう籠で掬うのじゃ」


 サラさんの指差す先にわらわらと蠢く魚群の影が……集まり過ぎていてちょっと気持ちが悪いんだけど……僕は言われるがまま籠を投げ入れ手繰り寄せると、たった一投で籠いっぱいの魚が捕れた。これじゃあ釣竿を持ってきた意味がないな。


「凄いですね、一体どういうカラクリなんです?」


「これはの、我らの盟友であるメロウという人魚族の技でな。海に住まう彼女達は魚と心通わすことが得意なのじゃ。遠い御先祖様が彼女らと同盟を結んだときにその秘技を授かったと聞いている。それを妾のような白尾の者が代々受け継いでおるのじゃ、他にも色々あるが機会があれば見せてやろう」


「はぇ~……すごいですね」


 何とも信じがたい光景ではあったが現実に起きてしまったものは受け入れる他ない、記憶がないせいでこの世界ことはさっぱりわからないが、このようなことは当たり前に起こり得るものなのだろうか。


 ともかく籠いっぱいに穫れてしまったのでこれ以上は釣ってもしようがない。僕らは集落へと引き返すことにして帰り支度をはじめた。



「それで、この魚を配るんでしたっけ」


「そうじゃ、まずはこちらへ」


 サラさんはそのまま集落の外れ、ララ達の住む巨木の森へ向かう。


「ここじゃ、さてカイよ、お主木登りは得意かえ?」


「前に挑戦しましたが、半ばでバテてしまって……」


「ふむ、人の子とは不便じゃの。ならば妾の背に掴まると良いぞ」


 サラさんが僕を背負いながら、長身を活かして木の幹に巻き付くようにスルスルと登っていく。確かに僕の身体は彼女に比べたら不便なものかもしれないな。


「おおい、鶏ガラ娘はおるかえ?」


「んん?あらデカ乳の……今日は何の用よ?」


「そのまな板で魚でも捌こうかと思っての、ほれ」


 そう言いながらサラさんは何匹かを投げて渡す、それを器用に翼に付いた鉤爪と足で受け取るルルさん。どうもこの二人はあまり仲がよくないようだ。


「そのデカ乳じゃあ貴女も大層食べるんじゃなくて?借りを作るのも癪だから卵を持っていくといいわ」


「無い乳が僻んでおるわ、お主等も沢山食べれば大きくなるやもしれんぞ?」


「お生憎様、私達は上品だからそんなにガツガツ食べないわ」


「よし、カイ。そろそろ次へ向かおうぞ」


「あら?カイくんは置いていきなさいよ!」


「また遊びに来ますよ、ララに宜しく」



 次はミトさんのところらしい、サラさんはこうして魚を捕っては配り歩いてるのだろうか


「にゃ~、お魚にゃ。いつもありがとうにゃ」


「なに、今日はカイも一緒だったからな逢い引きのついでみたいなものじゃ。あとはモルドに届けたら終いじゃ、残りは妾がやっておく、今日は楽しかったぞカイ」


「逢い引きて……こちらこそ勉強になりました、またご一緒しましょう」


 手を振りサラさんを見送る僕をミトさんがつぶらな瞳で僕をじーっと見ている。心なしか瞳孔がぐっと開いたような気がした。


「ところでミトさん……サラさんとルルさんって仲悪かったりします?」


「にゃ?そんなことないにゃよ、それどころか一番の仲好しにゃ」


「ええ……とてもそんな風には……」


「違う種族が肩身を寄せ合って……そうして暮らしていれば諍いも絶えぬもの……にゃ!喧嘩にならないようお互いに気を遣って遠慮しているのが今の私達なのです……にゃ!そのような中、お互い何の遠慮もなく軽口を叩き合いながらも支えあえるような関係は友達と呼ぶに相応しい……私はそう思うのです……にゃ!」


「ミトさん、言ってることはよく解るんですけと、普段の語尾ってキャラ作りのためにわざとやってませんか?」


「そんなことないにゃよ?極々自然に喋ってるにゃ」


「真剣な話になると取って付けたみたくなってますけど」


「うるさいにゃ!猫族としてのアイデンティティに文句言うにゃよ!」


 そう言ってお魚を咥えたまま走り去っていった。

 僕は靴を脱ぎ捨ててその後を猛然と追い掛ける。


「な、なんで追い掛けてくるにゃ?!」


「いやぁなんとなく……意外と皆笑わないんですね。皆笑うと思ってました、お日様とかも」


「何言ってるにゃ……」


 笑うどころか皆引いているので追いかけっこはやめにした。我ながら意味のわからないことをしたと思うが、頭の中を駆け抜けたノイズがそうしなければならないと告げたのだ、抗いようがなかった。


 この集落は支え合いと気遣いと遠慮で成り立っている、もっと彼等が心置きなく過ごせるような、そんな世界を目指しながら……僕に何か出来ることはないだろうか

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