呉越同舟
モルドさんに率いられて続々と魔物の方々が入ってくる。ゴブリン族の族長はやはりモルドさんなのか……続いて獣人なのだろうか耳がピンとしていて大きな瞳が特徴的な小柄な種族と、狼に似た種族の人が並んで入ってきた。
その後に入ってきたのは……ああ、ララが言っていた蛇族の人だろう。上半身は人間と変わらないが下半身は森でみた蛇そのものだ。
最後は……あれは人なのだろうか。うねうねとした液体が蠢いている。
「それではカイ、事情を話してくれ」
「ええと……皆さん始めまして。カイと申します、この名前も先程モルドさんにつけて頂いたばかりで……実は記憶が……」
僕はできる限り詳細に事情を説明した、誤解があると厄介だ。ここで全てをわかって貰う必要があるだろう。
「猫族の長、ミト!……にゃ。人間さん、本当に記憶がにゃいのか?あたし達を騙そうとしてるとか!じゃにゃいの?」
猫族のミトと名乗るその人は僕の眼前まで歩み寄り見定めるように僕の瞳をのぞき込んでくる。
なんて、可愛い生き物なんだろう……触りたい……
「どうにゃの?!人間さん?」
首のあたりの毛がふわっふわだ。これが猫という生き物なのだろうか、なんて愛くるしい……
「黙ってにゃいで何とか言う……っ!!ゴロゴロ……ってコラーッ!撫でるにゃ!!」
「スミマセンつい……あんまりにも可愛くて……」
「えっ?そうかにゃ?可愛い?あはは!良い人にゃ!この人良い人にゃよ!」
「ちょっとちょっと……ミトさんちょろすぎですよ……カイ様でしたっけ。私は狐族の長、イリアです。お困りなら私は是非お力になりたいと思いますが、私達は人族との戦争で焼け出され逃げ出してきたものばかり……大変な窮状にあるのです」
「ええと、なるほど……人間は信用できない、ですか?僕自身人間かどうかも記憶が定かじゃなくて何とも言えないのですが……」
「いえいえ、そうではありませんの。元々ここはハーピー族の集落で私達皆がここに住むにあたり互いに助け合いながら暮らしているのです。食糧事情も芳しくありませんし、何より互いに異なる種族同士の暮らしです。文化的な違いから日々衝突があります」
「なるほど……」
「ですので、貴方にも当然その支え合いに加わって頂くことになりますわ。魔物と呼ばれる私達に偏見などありませんか?多様な文化に大して寛大な心で接することができますか?」
「妾は蛇族の長、名はサラじゃ。その一員に加わるならば汝隣人を愛せよ、ということじゃ。お主が寛大ならば我々も寛大であろう、お主が我々を愛するならば我々もまたお主を愛そう」
「僕がこの集落における不穏分子でないと証を立てられれば良い……ということでしょうか」
「そうですね……そこまで大袈裟なものは求めません。私としては私の目をしっかり見て誓ってくださるだけで充分です」
汝隣人を愛せよ、か。なるほど、そうして極力お互いに寛大であるよう努めて衝突や摩擦を無くしていこうということなのだろう。それはとても素晴らしいように思えるし、よく理解できた。
「イリアさん、わかりました。誓います、僕は貴女を心から愛します、けして裏切るようなことは致しません」
「ちょっ……それは……いきなり過ぎますわ。お互いまだ知り合ったばかりですし……」
「カイ、お主イリアと夫婦になるつもりかえ?」
「はっ?!あああ!失礼しました!汝隣人を愛せよということでついその……言葉足らずですみません」
「い、いえその……こちらこそ。驚いて早とちりしてしまいましたわ……すみません」
「イリアちゃんも充分チョロいにゃ、まだ雌の目にゃ。やらしい子にゃよ」
「そんなことありません!やめてくださいましよ……恥ずかしいですわ……」
「ねぇ、ラブコメしてないで早く結論……僕乾いてきちゃったよ……あっ僕はスライム族の長メルだよ、宜しくねカイくん」
「スライム族……?」
「ああ、初めて見るのかな?人の形をしてた方が話やすい?」
そう言うとウネウネと人の形に変わっていく、相変わらず液体っぽい質感だけれど直ぐに一糸纏わぬ女性の姿になった。
「メ、メルさん……目のやり場がその……服を……っ」
「うん?僕は性別とかないから気にしなくていいよ?」
「だったらなぜ女性の姿に……」
「いやぁラブコメしてるからこういうハプニング的なのもいいかなと思って、何なら女の子ってことにしといてくれていいよ」
「いやいや……勘弁してくださいよ……」
「ふぅん?僕はまあまあ君が好きなつもりなんだけどね、そういうわけで今後とも宜しくねカイくん」
「カイはどこに住むにゃ?空き家にゃんてにゃいから巣を作らにゃいとだめにゃよ」
「家は儂等ゴブリン族で用意してやろう、数もおるし力仕事は好きでな。何なら猫族の家も建ててやろうかの?ミト殿」
「あたし達は雨さえ降らなきゃ外で寝起きする方が好きにゃ、でも狭~い狭いところも大好きにゃよ……迷うにゃ……」
「ところでハーピー族の方は……」
「ああ、ルルさんか。彼女は今忙しいしハーピー族はあまり細かい事を気にする人達じゃないから心配いらんぞ、後で挨拶にいけば良い。とりあえず反対者は無しということでいいかね?」
一同が異議なしと唱えて会議は終了となった、快く受け入れて貰えたと思っていいだろう。本来は各々思うところがあるのだろうけど、誰かを受け入れないと決断することで今居る人達の関係性にも軋轢を生みかねない。種族の違いを超えて助け合うため、人間さえも受け入れるという模範を彼女達は示したことになる。
本当に人と魔物は戦争をしているのだろうか、だとしても彼女達のような人々がそんなことを望んだとは到底思えない。
生きるため互いを認め愛することを選ぶ人達が争い事を起こすものだろうか……