困ったときは
「パパがいたら、こんな感じなのかな」
「ん?」
「おんぶ……パパがいたらしてくれたかなって。ママもハーピーだからおんぶはできないし」
「その……もしかしてお父さんは……」
「あっ、死んじゃったとかじゃなくてね。私達ハーピーは雌しかいないから、つがいになるには人間の雄が必要なんだけど……掟というか生活環境の違いのせいというか一緒には暮らさないの」
つまりお父さんはどこか近くの村にいるけど誰かはわからない……と言ったところだろうか。
「交尾が終わったら記憶を消して森の外に帰す決まりなんだ、その昔は食べちゃったらしいけど……伝染病か何かが原因で人間さんを食べるのはやめたみたい」
「なにそれ怖い」
「翼と足以外はそっくりな人を食べるなんて気持ち悪いよね~……あっ、人間さん!巣が見えてきたよ!」
やっと!やっとだ……あれからどれくらいの距離をこうして歩き続けたか……ララがいくら軽いとはいえここまで歩くことになるとは正直思っていなかった。今にも大腿筋がバラバラになってしまいそうだ。
「おお~い!ただいま~ママぁ~!」
そう叫びながら翼を羽ばたかせ、ここにいるぞと大きくアピールするララ。それを見つけた幾人かの魔物達がなんだなんだとこちらへ向かってくる。
「ララちゃんかい……そっちのは人間か?この辺りじゃ珍しいな」
先頭に立ってこちらへ話し掛けてきたのは小柄で尖った鼻を持つ子鬼のような男だった。
「儂はゴブリン族のモルドというものだ。人間が何用か?」
「ああ~待って待ってモルドおじさん。この人間さんね?森の入口で倒れてたの。それで何にも覚えてないんだって、キオクソーシツ?ってやつらしいよ」
「ふぅむ……記憶が無い……人間、名前もわからんのか?」
「それが名前どころか何もかもさっぱりで……モルドさん、名乗って頂いたのに無礼ですみません」
「いやなに、気にすることはない。それにしても難儀なことだな……追い返したところで行く宛も無いのではどうにもならんだろうし」
「この村の外れでも何でも構いませんので暫くご厄介になれませんか……出来る仕事があれば何でもしますので」
「ん?ああ、それは別に構わんと思うがね。一応族長達で話し合うが反対する薄情者などここにはおらん。困ったときはお互い様、生きとし生けるもの皆そうだろう?」
「ほらぁ!ね?皆優しいんだから!」
「ところでララちゃん、怪我でもしたのかね?婆様のところで見てもらうかい?」
「ううん、怪我してないよ?楽チンだからおぶってもらってるだけ」
「そうかいそうかい……そうそうルルさんが心配していたから早く帰ってあげなさい」
「はぁい!じゃあね人間さん、後でまた来るからね?ママに紹介するから」
一瞬身体が浮くような感覚がしたと思ったら、ララが背中から飛去っていった。後でまたくる……か、ララのお母さんはどんな人だろうか。
「名前がないと不便だのう……ゴブリン族の名前で良ければ儂が適当につけてやろうか?うーん……カダス……イゴタ……どれがいい」
何だか濃い名前を付けられそうになっている。どうもはじめましてイゴタです、しっくりこない……
「ああ、それじゃあそれぞれの頭文字を頂いてカイで……」
「ふむ、名前は短いにこしたことはないからな良かろう。ではカイ、族長達に引き合わせる故ここで待て」
そう言い通された藁造りの小屋の中で一人、ただ待つことになってしまった。
族長か、モルドさんはゴブリン族と名乗っていた事からいくつかの種族がここに住んでいるんだろう。それらのまとめ役が族長ということか、その内のゴブリン族とハーピー族にはもう会っているが……果たして他の種族とは一体……。そうそう蛇族の話をララがしていた事があったな、いくつの種族がいるのだろう。
「待たせたなカイ、これから族長会議をはじめる」