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集落への道

「おかしいなぁ……もう着く頃なんだけど……」


 一晩歩き通しの僕らの体力はそろそろ限界に近付いていた。そうそう、記憶を無くしていたせいでピンと来なかった熊や狼といった動物についてだが、やっとその正体を理解することができた。身を持ってだが……彼等は賢い上に飢えているようで僕らのような疲弊して弱った個体を嗅ぎ分けられるらしい。


 歩き出してすぐ、彼等に追い掛けられることになるとは……今も生きているのは幸運だった。ララが掴んで飛んで助けてくれたり、死に物狂いで木に登ったり……一生分の大冒険をした気分だ。もういつ倒れてもおかしくない程に疲れた……


「ララ……君歩いて帰ったことある?」


「ないよ?私達あんまり足が丈夫じゃないから直ぐ疲れちゃうし……」


「……飛べば直ぐ着くような距離なんだろうね、歩くと遠いけど」


「あっ!そっかぁ~!なぁんだ、いつまでも着かないからおかしいと思ったんだよね~じゃ、急いで行こ~」


 また、バッサバッサと飛去って行ってしまう。


「……鳥頭なんだろうか」


 そして直ぐに戻ってくるのも前回と同じだ。


「ごめんごめん、歩くしかないんだよね。人間さんって大変だね?」


 魔物さん達に今後お世話になる上で彼等の常識にどこまで付いていけるか不安で仕方ない。僕らのような何の特技もないような普通の生き物が彼等と戦争をして勝てるのだろうか……あまりにも分が悪いような気がする。



「ララ、足は大丈夫?爪のあたり少し傷んでるように見えるけど」


「あ……うん。ちょっとヒリヒリするの……普段歩かないから」


「少し休もうか、この辺りに獣の気配はある?」


「う~ん……ないみたい。ごめんね、気を遣わせて」


「いやいや、こっちこそ。飛べたら直ぐなんだろうけどね。僕に合わせてくれてるせいで足痛めたちゃったんだから、僕が謝らないと……ララは優しいね」


「困ってる人がいたら助けてあげなさいってママがいつも言ってるから、優しいだなんてそんな……うへへ。そうだ、木の実か何か採ってきてあげる!人間さんはここで待っててね?」


 そう言って慌ただしく飛去って行ってしまった。あまり褒められることに慣れていないのだろうか、恥ずかしそうにしていたな。


 近くの木の根本に腰を下ろす、ララの足が心配だったのも勿論だけど僕の体力も限界を超えていた。僕が倒れる前、どういう状態だったのかはさっぱりわからないが少なくとも暫く食事や休息といったものを取れない状況下にあったのは間違いない。空腹と疲労があまりにも深すぎる。


 ララを待ちながら僕の意識は暗闇と引き込まれていく、暗く寒い……




「人間さん!人間さん!しっかりして?」


「あっ、ララ……早かったね」


「良かった……死んじゃったのかと思ったよ……」


「いやいや、そう簡単には死なないよ。一人きりでこのままだったら危なかったかもしれないけど……」


 ララの呼び声で目を覚ました僕は彼女の胸の中、翼に包まれていた。


「君は温かいね……生き返るようだよ」


「人間さん冷たくなってたから……焦ったよ本当に」


 見上げると彼女が安心したように微笑んでいる、天使というものが実在するなら彼女のような人のことを言うのだろう。温かく優しい……慈愛の体現者だ。


「木の実持ってきたから食べてね?」


「ああ、ありがとう。本当に助かるよ」


 彼女が採ってきてくれた丸々とした大きな赤い木の実は甘くて酸っぱくて、とても懐かしい味がした。


「美味しいよ、ララ。昔どこかで食べたことがあるのかもしれないな……何だか懐かしい味がするよ」


「何か思い出せそう?」


「うう~ん、そこまではちょっと……」


「こうしている内に何か思い出せるようになるかもしれないね?」


 この木の実がきっかけで記憶にある昔のなにかを感じたように、生きていればそういったきっかけがまたあるのかもしれない。だから気長に待てばいい……そういう事なのだろう。


「そうだね。あっ、ごめんねいつまでも温めて貰ったままで」


「ううん、いいの。何だか卵を温めてるような気分だし嫌じゃないよ」


 彼女達は卵生なのか……


「僕はもう大丈夫。さぁそろそろ行こうか」


 僕はしゃがみ込んで背中に乗れと、彼女に促す。体力もある程度戻ったことだし女の子一人くらいは背負っていけるだろう。


「うん?」


「ああ、おんぶわからないのか。背中に覆い被さるように抱き付いてごらん」


「こう?」


 彼女の温かな感触が背中に広がる、飛ぶことに特化した構造なのかとても小柄で痩せていて軽い。


「そうそう、そのまま掴まっていてね。よっと……」


「わぁ!人間さん大丈夫?重たくない?」


「ララは心配になりそうなくらい軽いよ、ちゃんと食べてるの?」


「食べてるよぉ、私達は飛ぶからあまり大きくならないの。何もかもぺちゃんこでしょ?蛇族のお姉さんによくからかわれるんだ……」


 確かに彼女は何もかもが控え目なように見える、記憶がないので明確な基準もないからハッキリとは言えないが……


「ああ~温かくて楽チンで……寝ちゃいそう」


「ララ、道案内してくれないと迷子になっちゃうよ。起きていてね……」


「飛ぶより快適……私ずっとおんぶ…………」


「ララ~寝ちゃ駄目だって!」


 果たして僕らは無事に辿り着けるのだろうか……不安だ


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