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準備2


迎えた当日の昼、着付けを済ませたメイドと入れ違いに部屋を訪れたベスティアは息を呑んだ。


そこに居たのは人形だ。精巧に作られた匠の一品、生きた人形。


白を基調としたタイトな作りの上半身、フリルが少なく一見簡素に見えるドレスは細い腰元を強調するように広がる。裾にあしらわれた青い薔薇の装飾によってシンプルながらも上品な造りは、カナリアの美しさをさらに引きたてていた。


人形と見間違うほどに、少女は美しかった。

椅子の背もたれを掴み生まれたての小鹿のように震え酷い顔色をしていなければ、ベスティアでさえ声を掛けることを躊躇したであろう。



「綺麗だよ、カナリア」


「そう、ありがとう………うっ、綺麗に見えてよかった、よ」


「もう少し緩めようか?」


「この段階から、緩められるの………?」


「脱がすのは得意」


「最低かよ」



軽口を叩いてはいるが正直な話、このままでは一歩も動けそうになかった。


久しぶりの正装だと張り切ったメイドが気合いを入れてコルセットを締め上げたせいで、カナリアの顔色は誰が見ても悪かった。青いを通り越して白くなり始めた教え子に心配そうに眉を下げ、指でコンコンとコルセットの辺りを叩いた。


するとどうだろう、頑なに離れることを拒否していた紐はひとりでにその結び目を解いていく。

カナリアが楽に呼吸できる緩さまで勝手に調節すると、何事も無かったように紐はまた固く結ばれた。まるで生きているかのように自在に動いた紐に関心を寄せる余裕もないらしい。


カナリアはぜえぜえと淑女らしかぬ荒い呼吸で必死に酸素を取り込んでいた。



「はあ、はあ……ありがとう」


「女性は大変だよね、こんなに絞めなくても十分綺麗なのに」


「わ、たしも、ゲホッ……無理にくびれをつくろうとする風潮は、いけないと思うのよ。これはいつか、死人がでるわ」



コルセットの絞め過ぎで酸欠となり倒れた人間はかなりいる。それでも、綺麗に見せるためだと多くの女性はコルセットを絞め続けていた。


綺麗でいたいのは分かる。だが、これでは食事や会話を楽しむどころかまともに歩くことすら出来ない。最悪、内臓の位置が変わる。こんな苦行を続けるなんて、彼らは修行僧にでもなるつもりなのだろうか。金持ちの考えることはよく分からない。



「うん、ちょっと、人前に出したくないなぁ」


「え?なにベス、何か言った?」


「悪い虫が寄り付かないようにおまじない、しておこうか」


「う、うん?」



なんか、いつもと雰囲気が違うような。


手を取られベスティアの胸へと招かれたカナリアはいつもと雰囲気を纏う彼に違和感を覚えたが、それの正体に辿り着く前に花の香りに思考を削がれていく。


憤怒、緊張、歓喜。そのどれとも違って、掛け合わせたような複雑な表情が頭の中で霧がかる。ゆるりと彼の体温が浸食するように。魔法をかけ終わる頃にはそれは、カナリアの中から消えていた。





くびれ、ほしい。あ、次は長いです!

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