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かっこつけたけど




「殺されちゃあ困るんだよね」



鎖で縛られて唖然と顔を上げるアーサーにカナリアは困ったように笑いかける。その笑みは子どもに向けるような柔らかいものではなく、無能な上司の言い分をどう上手く回避するか思案するような笑みだ。

最初から話を聞かない人だとは思っていたが、まさかここまで安直な考えをするとは思わなかった。

カナリアは溜息を吐く。

目先のことばかりに囚われて、その結果がどう着いてくるのかまるで見えていない。それどころか他人に不幸が降りかかるとも思ってはいないのだろう。

彼の愚直な思考は正義という名の大義名分で塗り固められた暴走機関車だ。スピードを上げた結果駅に突っ込むことも、乗客が巻き込まれることも、己が横転し燃えた際に近隣の村が焼かれることも考えてはいない。安易な思考だ。



「この人、端っこまで連れて行ってあげて」


「メェー!」


「お、お待ちくださいカナリア様!なぜこのような.....くっ、外れ、なぃ....!」



呻くアーサーの問いには後ろ手を振ることで答え、カナリアはクルムに向き直る。

どのみちあの程度の拘束を外せないようなら、ここにいても邪魔になるだけだ。

クルムは未だ黒羊擬きたちの動きに撹乱されて、霧の中を右往左往していた。だがもう霧もだいぶ薄い。手をこまねいていては、あっという間に霧が晴れてクルムは襲いかかってくるだろう。その前にどうにか策を講じなければいけないのだが、



ーー んふん、なにもでてこぬ



カナリアの頭にはそんなもの浮かんでもいなかった。内心でおかしな口調になってしまうくらいには、なにも出てこなかった。

『殺されちゃあ困るんだよね』なんてかっこつけた手前アーサーには言えないが、もう正直手がないから燃やすしかないかなぁと自暴自棄になりかけている。

(正確には黒羊擬き山の頂上で良い案は浮かびかかっていたのだが、アーサーの妨害により脳から飛んでしまっている)

無属性の魔法での浄化は初級レベルの呪いしか解けないし、中級レベルの呪いは光の精霊がいないと使えないので浄化は絶望的である。かといって浄化以外の手など、燃やすくらいしか思いつかなかった。



ーー もういっそ腹の中に入って地道に浄化しようかなぁ.....



外装が硬い敵は内側から破壊すると良いってどこかの誰かもたぶん言っていた。いっきに浄化することは叶わないが、地道になら1週間くらいでなんとかなるだろう。

その手もいいかもしれないとカナリアは杖を構え、精霊に全力で止められる。



「中に入ったら最後、どうなるかは分からないから止めろ? もう心配症だなぁ」


「ーーーーー!(怒)」


「ーーーーーーーー!!(怒)」


「ーーーー(憤怒)」



そんな危険すぎる場所に行かせるわけにはいかないと精霊たちに怒られ、カナリアは渋々その提案を下げた。



「でもいい案がでないし.....」



カナリアが腕を組む。

喰われた人達を吐かせて犠牲を必要最低限に抑えれば良いのだろうか....。

クルムはお飾りとはいえこの国の王だ。身分によって命の重さを決める輩も多いので、その最上位に君臨する王を犠牲にするのはいらぬ軋轢を生むだろう。王殺しは極刑だと阿呆らしい理論を振りかざして敵対されても困る。人間の命は平等だと習わなかったのだろうか。

記憶操作でクルムの死亡は英断であったと植えつけてみようか。

いや、しばらくの間は収まるが記憶に綻びが生じた場合はまた面倒なことになる。

いったいどうすれば......。

ぼやくカナリアの元に1匹の黒羊擬きが近寄ってきた。つぶらな瞳がキラキラとカナリアを見て、口になにか加えているのかくぐもった声でメェーと鳴く。元気付けてくれようとでも言うのだろうか。ありがとうと頭を撫でると、嬉しそうに目を細めた後に口からペッと黒いものを吐き出した。べしゃりと足元にそれが叩きつけられる。



「.…….…….…….……え?」


「メー」



え、うそ、触んなってか。

実は嫌われているのだろうかと動揺したが、どうもそうでは無いらしい。メェメェと鳴きながら下を見ろとばかりに前足で地面を叩いている。なにか渡したい物があるようだ。

カナリアはゆっくりと視線を下げる。

足元に転がっていたのは涎まみれの物体だ。

ゴツゴツとして妙に骨張っている鋭利な刃物のような........これは手だ。

到底手には見えないし、随分とコンパクトなサイズになってはいるがカナリアはすぐにそう判断した。できた。なぜならつい先程までこれをカナリアは見ていたからだ。

これは手だ。己を追う黒い生物に付属していた......



「クルムの腹の所に生えてた手?」


「メェー!」



肯定するように鳴いた黒羊擬きにカナリアの頬が引きった。

え、千切ったの? クルムさんの手を? 仮にも王の手ぞ? 齧った跡あるけどもしかして食べようとした? 疑問が右から左にどんどん脳内で流れて行く。



「........美味しかった?」


「ゲプッ」



いま聞かねばならないのは味の感想ではない。

ベスティアがいればそうツッコんだことだろうが、生憎と彼はカナリアの頭上で待機していてここにはいない。ツッコミ不在のまま時は流れ、動転気味のカナリアは良かったねと黒羊擬きの頭を撫でる。



「まじかぁ」



あんたらあれ食べれるんか。

どうにか絞り出した一言に黒羊擬きは、またメェーと鳴いた。その黒い瞳はいったいなにを考えているのだろうか。カナリアには分からなかった。






黒羊擬きがだんだんウールーに見えてきました....

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