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不運な男






男は廊下を足速に進んでいた。

視線は真っ直ぐ前だけを見ており、すれ違う同僚の声さえも聞こえてはいないのか足を止める様子はない。仮に聞こえていたとしても歩みを止めはしなかっただろう。彼はこの国から出ていこうとしているのだから。





男の名前はアデル。

寸刻前、大臣bに紅茶入りのカップを投げつけられた兵士だ。彼はそのことにひどく憤り、部屋を出るとすぐに荷物を纏めて自室を後にし城門を目指した。


アデルが理不尽な怒りをぶつけられるのは、なにもこれが初めてではない。むしろ自分のような兵士や使用人にとっては日常と言ってもいい。アデルも今まで数え切れないほどお小言をもらった。新人であることを理由に、謂れのない疑いをかけられることもあった。その度に雇ってもらった恩を思い出し耐えてきたが、今回ばかりは我慢できなかった。



ーー 陶器を人に投げつけるような奴の側にはいられない。破片が目に入ったら失明だぞ、どうやって責任を取るつもりだ!



アデルは憤る。だが怒っているのはそれだけが理由ではなかった。彼は執務室での一件についても腹を立てていた。



ーー 一国の王に呪いをかけてどうして笑っていられるんだ!



執務室で警護の任に就いていた彼は、図らずも一部始終を見ることになった。クルムの呪い、カナリアたちの投獄、その後の使用人たちの対応、その全てを。

頭がおかしいと思った。

使用人も兵士も魔法使いも、この城の連中は揃いも揃ってどうかしている。一国の王に呪いをかけ隠蔽し、国賓扱いのはずのベスティアたちを投獄するなど正気の沙汰とは思えない。ましてや暗殺など以ての外だ。

城の連中は城下の精霊付きたちを悍ましい化け物だと嫌悪していたが、アデルの瞳には彼らの方がよほど醜悪に映った。

早く出て行こう。これ以上こんな狂った連中と一緒になどいられない。家出してすぐに兵士として雇ってもらったが、義理立てする必要はもうないとアデルはさらに足を速める。恩などとうの昔に返し終わった。




チルルルルル



鳥の声がした。

昼夜問わず日の登らないこの国で鳥なんて珍しい。澄んだ声にアデルは思わず足を止め、誘われるように窓へと視線を向けた。枝に止まった小鳥が目に入る。深い海の色の小鳥だ。窓の向こうで枝にとまって小首を傾げている。



チルルルルル


鳴き声が耳に心地よい。

青い鳥は幸福を運ぶ。存在自体が希少で滅多にお目にかかれないことから、出会えば幸運が訪れると言われている。外から来たアデルも実物を目にするのは初めてだ。これは幸先いい。まるで新たな門出を祝うかのような幸運に、アデルは喜び手を合わせた。



ーー どうか無事に戻れますように。



小鳥は神物の類ではないが、縋ると心が軽くなる気がした。

アデルはこれから家出した国へと戻らなければならない。城を出て行くあてがないのも確かだが、国にベスティアが投獄された有無を伝えなくてはならない。彼は祖国では神にも等しい存在だ。報告を怠れば自分は死よりも恐ろしい目に合わされる事だろう。家族や友人にねちねちと嫌味を言われるのは癪だが、それよりはずっとマシだ。



チルルルルル


まるで承ったと言わんばかりに鳴いた小鳥にアデルは微笑んだ。せっかくの機会だ目に焼き付けておこうと顔を上げるも、小鳥はすでに飛び去った後だった。少し残念に思いながらも一歩踏み出したその時、廊下の正面、なにもない虚空が歪んだように見えた。



「え、」



ひと息、たった一瞬の間に歪みは膨らみ少女を吐き出す。小柄な肢体に金色の髪、羽根があれば天使と見紛う美しい少女が、なにもない空間から突如として現れた。

空色の瞳と目が合いアデルの身体が固まる。

あり得ない状況に脳の処理が追い付かない。

それは少女がハンマーを振りかぶっていても変わらず、ただ唖然と見ていることしか出来なかった。ヘッドが目の前に迫ってくる。



スパン! ピュッ!



コミカルな音とは裏腹に勢いのある打撃がアデルを襲った。脳がぐらりと揺れ、彼の意識は闇へと落ちていった。






ぴこぴ○ハンマーで思い切り叩く動画見たんですけど、スパン!って鳴るんですよ、本当に。あのピュコピュコって音しないんですよね、驚き。


あ、明日も更新しますね〜

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