勇者になって、どうするの?3
少女は無表情で何も言わずにこちらをみている。
「・・・・・・ありがとう」
「え?」
「・・・・・・助けてくれて」
こちらとしては無意識にやった事なので別にお礼を言われるようなことではなかったのだが。
「あぁ、咄嗟のことで俺にもよくわかってないんだけど助けられてよかったよ」
軽く微笑んで少女を見ると、少女の頬に朱が差した。
なんだ、かわいらしいじゃないか。
そんなことを思っていると、ダレンが農作業をしていた人たちを引き連れて戻ってきた。
「おう、待たせたな。これで全員だ。じゃあ早いところ街に戻るぞ」
どこまでもマイペースにダレンは言う。しかし俺はまだ質問したいことがたくさんあるのだ。
「ダレンさん、質問してもいいですか?」
「ん?いや、さっき魔物が出たばかりなんだ。取りあえず街に戻ってからだな。宿を紹介してやるから今晩そこで質問に答えてやるよ」
そういってズカズカと街のへとあるきだした。しょうがないのでついていく。
・・・・・・
街に入って最初に思ったことは、まさにファンタジーにでてくるような中世の街並みだなと思った。
大通りには露店が出て、もう日が暮れているというのにまだ活気がある。
道行く人は人間から獣人まで様々だ。
売っているものは酒らしきものから、食品、そして武器やアクセサリーとなんでも売っていた。
一つ100ルーンとか書いてあるが、おそらくルーンはお金の単位だとして100ルーンが高いのか安いのかわからない。
そもそも俺は一文無しだ。おなかもすいてきて、若干不安を感じてきた。
「この先どうすりゃいいんだ・・・」
そんなぼやきを聞きつけたダレンが答える。
「フリードよ、お前さん勇者なんだから生活の事で心配はいらない。そもそも転生者で生活に困る奴なんてまずいないと聞いた。まぁ取り合えず宿まで行くぞ!とりあえず今日は俺たちの出会いを祝して朝まで飲むぞ!ダーハッハッハッ!」
「宿についたら質問に答えてくれるんじゃなかったんですか?」
「おっとそうだったな!悪い悪い、飲むことしか考えてなかったわ。んじゃ飲みながら答えてやるよ!」
この人はただ飲みたいだけなんじゃないのかと少し不満を思ったが、知り合いも居なければ金もない俺にここまで親切にしてくれるのだからと大人しくついていった。
・・・・・・
酒場らしきところについた。中は人で埋め尽くされている。そんな喧騒の中、一人の男の店員が愛想のいい笑顔で声をかけてきた。
「いらっしゃいませ!・・・、なんだダレンじゃないか。魔物が出たらしいじゃないか?噂になってるぞ」
「あぁ、ブラックウルフがでた。けが人は誰も出なかったぞ、こいつのおかげでな!」
と言って、俺の背中をドンと叩いてきた。
突然の事によろめいてしまう。
「へぇ!あんた見ない顔だけどブラックウルフを倒したのか!やるじゃないか!」
「え、いや、無意識に体が動いてしまって・・・」
「かーっ!いいねぇ!謙虚な態度に、しかし実力もあると来た。ダレンよ、この兄ちゃん何者なんだ?」
ダレンは口元をゆがめ、いじわるそうに答えた。
「そうだなぁ・・・、教えてやってもいいが、今日は酒が飲みたいんだよ。あとは腹も減ったな」
「ちっ、しょうがねぇな。酒一瓶と料理一品だけだぞ」
「あぁ、助かるぜ。じゃ、仕事終わったらおれんとこに来い、教えてやるよ」
それを聞いた店員は満足そうに頷き、喧騒の中へと戻っていった。
「んじゃ、俺らも席に着くか」
店の隅にちょうど空いている席があったのでそこに座る。
「で、聞きたいことってなんだ?」
「聞きたいことがたくさんあるんですけど・・・・・・とりあえず、この世界ってなんなんですか?」
「何っていわれてもなぁ、この世界の事はベルーフと言われている。そしてここはその中の街で、術都リンクフリードだ」
ベルーフ・・・・・・聞いたことがない。
まぁ取り合えず次だ。
「転生者ってなんですか?」
「それは俺たちもよくわからねぇんだ。なんでも違う世界から転生してくる奴らで、ステータスが軒並み高く重宝してる。さっき話したダンジョンの冒険者になったりしてるな」
この世界はステータスがあるのか。
「ステータスってどうやってわかるんですか?」
「そんなの簡単だ、頭の中でステータスが見たいと念じてみろ」
そんなゲームみたいな話があるんだろうか・・・・・・。訝しみながら試してみると、脳内に情報が浮かんだ。
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ステータス
名前:XXX
通称:フリード
年齢:17
出身:地球
職業:勇者
HP:1200
MP:800
力:120
器用さ:92
耐久力:90
魔力:100
運:28
スキル
言語理解:∞
魔法:II
ブレイブ:∞
体力強化:IV
魔力強化:V
リジェネレーション:II
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よくわからない。上から順に確かめていくことにすると、名前の表記がおかしい。
次に年齢が17になっている。俺は向こうで20だったはずだが・・・・・・。
あとはまぁなんとなく意味が分かる。
「どうだ、ステータスは見れたか?」
「あ、はい。なんだか自分の認識と違うところもありましたが、把握できました。ちなみにこの世界ってどのくらいのステータスが平均なんですか?」
「そうだなぁ、HPMPに関しては100あれば一人前だな。あと力とか魔力は10あれば一人前、20あれば達人、30を超えると伝説級だ。まぁ転生者は40前後の奴らが多いらしいな。それで運だけは少し特殊で基本的にみんな1だ。これは転生者も変わらない。極稀に2とか3の奴もいるが、1との差は体感できないな」
「あの、運28っておかしいんですか・・・・・・?」
「ハ?」
ダレンは間の抜けた声を出す。
「運28です」
「おいおいおい、何言ってんだ・・・・・・。ちなみにほかのステータスは?」
「HPとMPが約1000、運以外のステータスは100前後です。あとはスキルとか色々ありますけど」
「・・・・・・」
ダレンは飲みかけていた酒をだらだらこぼし始めた。こちらをみて固まっている。
そしてハッっと我に返り、小さな声で耳打ちしてくる。
「フリード、それは人に言うなよ・・・・・・。人に教えるときは嘘をつけ、全部1/10位で伝えておけ。国の医学院に拉致されて解剖されかねん」
「はぁ、まぁわかりました」
ダレンの話を聞く限り、俺のステータスはかなり高いんだろうがしかしそこまで隠す必要はあるんだろうか?
しかしダレンが言うからには従っておく。
そこに先ほどの店員の男が近づいてきた。
「おう、ダレンと兄ちゃん。ちょっと時間できたんで来たぜ。さぁ教えてくれよ!」
「すまん、ゴラト。言えなくなっちまった」
「そりゃないぜ!俺が酒と飯代建て替えたんだぜ?」
「あぁすまん・・・・・・、まぁ1つ言えることがあるとすれば、この坊主、いやフリードは勇者だ」
「勇者?それまたすげぇな。ていうことはアレが使えるのか?」
「あぁこの目で見た」
「はぁ~、そりゃ言えないこともおおいだろうなぁ。わかったよ」
そんな二人の話についていけず、俺は料理を一人で食べていた。
次回も説明回です。