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勇者になって、どうするの?2

厳つい男に連れられ行く間、様々なものが目に入った。

整理された街道や、その脇の畑でトウモロコシのようなものを作っている獣人の姿。

猫耳やキツネ耳を生やしたものが何人もいる。

こんな状況とはいえ、ワクワクが抑えきれず厳つい男(以下巌と呼ぶ)に質問してしまう。


「あの~・・・すいません」


「なんだ、ギルドはまだ先だぞ。それともお前の近くに落ちてた小さな木箱の事か?」


「え?そんなものありましたっけ?」


言われてみれば視界がまぶしい光にふさがれる直前に足に当たった記憶がある。あれは木箱だったのか。


「転生者がこの世界に来るとき、稀にそいつの近くに木箱が出現する。なんでもすごいお宝が入っているらしいぞ、坊主、お前運が良かったな!」


と、その大きな手のひらに木箱が握られていた。

金で縁取られている。よくよく見れば小さな宝箱だった。

まじまじとその宝箱をみつめていると、巌が安心させる様に声をかけてきた。


「安心しな、別に盗ってやろうって訳じゃねぇよ。転生者はこっちのこと何も知らないやつらが多いからな、拾ってきてやっただけだ。ほらよ」


ぽんとかるく投げられた木箱を慌てて受け取る。

もってみてその重さに驚いた。

見た目は100グラムもなさそうな箱だが、実際に持ってみると1キロはあるだろうか。

引きこもりを続けていた身に取っては、不意に1キロの物を投げられて受け取るだけでも大変だった。


「そういや、お前さん名前はなんていうんだ?」


「え?」


「名前だよ、名前。転生者は変わった名前の奴が多いと聞いたぞ」


「あ、名前・・・」


おかしい、思い出せない。

自分がいた国は思い出せる。住所も言える。しかし名前が出てこない。

おし黙っていると巌が気楽そうに声をかけてきた。


「なんだ、名前いいたくないのか?おっと、人に聞くときはまず自分からだったな。いつもかーちゃんに怒られるんだわ。ダーハッハッハッ!」


厳つい顔を愉快そうにゆがめながら周囲に響くでかい声で笑いだした。

農作業をしている獣人達は何事もなかったかのように作業を続けている。


「ハハハ・・・」


乾いた笑いで返すことしかできなかったが、少し緊張がほぐれてきた。

これが巌なりの気遣いだったのかもしれない。


「はー!笑いつかれた。さて、俺の名前だったな。俺はダレンだ。ギルドで働いてる、まぁ平凡な戦士だ」


戦士?という事はこの世界はジョブシステムなのだろうか、と若干慣れてきた頭で考える。

ということを俺も何か職業を持ってるんだろうか?


「おいおい、坊主。難しい顔で黙ってちゃダメだろうが。名前、教えてくれよ。さすがに名前が分からん奴はギルドに登録できないからな」


そういわれても困る、思い出せないのだから。

しかし向こうは若干ワクワクした感じで待っている。

ここは適当な名前でいいか。

その時、ふと案内板が目に入った。


【術都リンクフリードまでもうすぐ!】


自分の国の言葉とは全然違うのに、なぜか意味が分かった。

しかしそのことを考えるよりもまずは自己紹介だ。


「名前はリンクフリードです」


そういった途端、しまった!と思った。さすがに町の名前は安直過ぎた。


「へぇ、リンクフリードか。奇遇だな、俺たちがこれから行くところもリンクフリードだ。坊主、お前さんもしかしたら凄い奴なんじゃないのか?」


そんなことを言われても困る。今適当に思い付きで言っただけだ。意味なんてないし、すごくもない。


「かの大祖リンクリードと同じ名前か。あんまり街中でその名を名乗らない方がいいぞ。この町の連中は結構保守的というかなんというか・・・伝統を乱す奴には割と厳しい。大祖の名前を騙るとは何事だ!って事になりかねん。そうだな・・・リンク、フリード・・・ううむ・・・フリードと呼ぶくらいならまぁ大丈夫だろう。おし、坊主、町の中ではフリードと名乗れ」


一人で何やら話を進めてしまっていたが、どうやら俺はフリードと名乗れば問題ないらしい。

まぁもとの名前も思い出せないしこれでいいかと思った。


「わかりました、ダレンさん。」


「おう、いいってことよ。と、そろそろお待ちかねの都が見えてきたぞ」


そう言って指をさした向こうには大きな石でできた砦のようなものが見えた。おそらくあれは街の周囲をかこっているんだろう。

大きさは・・・どれくらいだろうか。すくなくとも端から端まで見えない。


「おぉ~、これはすごい」


思わず声が出てしまった。自分がいた世界にはここまでのものはなかった気がする。

それを聞いたダレンは少し神妙な顔つきで返事をしてきた。


「まぁな、あれがなきゃ俺たち人類は滅びてたらしいからな」


とんでもないことをいいだした。一体どういう事だろうか。

そのことを質問する前に、ダレンが説明してくれた。


「8000年ほど前にな、魔王とその配下の魔物達と人類で大きな戦争があったんだ。戦いには負けに負け、ついに残すところはこの街だけになってしまったらしい。もともと城のあった町は守りに特化していてな。ここからみえるあの大きい塀もその時から残っている。」


8000年?魔王?というか魔物もでるのかこの世界は。


「この街には人類の生き残りがいたが、しかし戦おうにも戦力差が大きく、もう滅亡するしかないと思っていた。その時に現れたのが、大祖リンクフリードだ。口伝によると、雷と一緒に空から現れたそうだ。きっと転生者だったんだろう」


「転生者」


思わずつぶやいた。

自分と同じだと、その時思った。つまり自分もそんな大役を担っているんだろうか。

そんな心配が顔に出ていたのだろう。


「坊主、ああいや違った、フリード、そんな気にするな。これは8000年前の話で今は戦争なんてしてない。つまり戦争は終結したって事だ。お前に戦争に参加しろって訳じゃない。最初に会った時にこの国救ってくれ云々いったのは別の内容だ」


「まぁ色々あって、戦争は終結したわけだ。だが魔王も魔族も居なくなったわけじゃない。地下に逃げ込んだ。俺たちは奴らの世界をダンジョンと呼んでいる。これがお前さんに頼みたいことに関係してくる」


と、ここで言葉をとめ、歩くのもやめ、ダレンが周囲に目を配らせた。


「ッ!!」


その瞬間ダレンは走り出した。

とっさのことで反応できなかったが、その方向を見ると農作業をしている獣人の女の子に背後から黒い塊が近づいていた。

ダレンは腰に下げていた剣を抜きつつ声を上げる。


「嬢ちゃん!にげろ!」


その声を聴いて一瞬びくりとした少女が迫る黒い塊に気が付いて青ざめる。


「ヒッ!」


少女は腰が抜けたのかその場にへたり込んでしまった。


それを眺めていた俺も、さすがにこの状況はまずいと思い、なにかしなければと思ったその瞬間、木箱がまばゆく光りだした。


それは一瞬のことで、光が収まった後には何もなかった。

しかし光る前と違うところが2つだけあった。

1つめは、何とも言い難い、「人を護らねば、己の命をかけてでも」という意識で頭が埋め尽くされた。

2つめは、全身にみなぎる力だ。2年間引きこもっていたのは思えないほど体中から力が湧いてくる。


そこで少女に目を向けると黒い塊があとほんの数メートルのところまで迫っていた。

ダレンはまだ遠い。

そこで俺は無意識に右手を突き出し、塊に向けて一言発した。


「霧散」


その言葉通り塊は霧散した。あとかたもなく。

それを見て動きを止めるダレン、そして少女の体を抱き、俺の方へとあるいてきた。


「フリード、お前・・・」


ダレンの目が真剣だった。

俺はきっと化け物の類にでもみられているのだろう。しかし、ダレンは手を挙げて俺の背中をたたいてきた。


「フリード!やるじゃねぇか!お前勇者だったのか!さすが大祖リンクフリードと同じ名前なだけあるな!よし、ギルドは後回しだ!農作業してる連中を町まで護衛するぞ!」


というや否や大声で人を集めだした。

俺はどうしたらいいのかわからず、ただ茫然としていた。

傍には先ほど助けた少女が、じっとこちらを見つめていた。


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