目覚め
「ふあぁぁ。」
俺は布団のなかで目を覚ました、道場らしき場所の隅にただ布団がひかれ寝かされていた。体を起こそうとするが力が入らないし胸が痛む。
(俺は何でこんなとこに?。)
剣の聖地の入門試験を受けていた筈だが記憶がはっきりしない。何かやらかしたのかと不安になる。
「目が覚めたかの?、わしは剣王ラファエル。皆からは老師と呼ばれている。」
確か試験の時に来た老人だよな。未だに状況が掴めないが老師からは怒りや困ったような感情は感じられない、人のいいお爺ちゃんって感じだ。
「俺の名前はダインです。休ませて頂きありがとうございます。何で自分はここに?体中痛くて力が入らないのですが。」
とりあえず丁寧に挨拶してみる。状況が掴めない内は好印象を与えた方がいいと思った。
「君は魔力に呑まれて暴走したんじゃよ。」
あ~。これは不味いやつだな。どうしよう逃げた方がいいかな?と思ったが、どのみち体は動かないし老師は悪い人では無さそうだ、このままやっかいになるしかない。
「まだ無理はしない方がいい、君は5日も寝てたんじゃ。先ずは魔力を纏えるか?少しでいいぞ。」
少し魔力を纏うと体に力が戻ってくる。体を起こし手を握ってみる、まだ胸は痛むがなんとかなる。
「大丈夫なようだな粥を用意させよう、話はその時にするとしよう。」
そう言うと老師は道場を出ていき道場が静寂に包まれた。
魔力の暴走か…。自分の知っている情報だとこの世界で魔力を持っている人はいないし暴走するなんて聞いたことが無い。しかし、老師は他にも魔力の暴走を見たことがありそうだ。俺は魔力の事をまるで知らない。クルフは自分の都合でしか出てこないし魔力の事だって何も教えてくれない。老師なら魔力の使い方とか知っているかも知れない、そしたらいろいろ教えて貰えばありがたい。
少ししたら老師が見慣れない男と少女を連れ道場に入ってきた。男は背が高く少し痩せている、黒い髪で真面目そうだ。少女は青い髪を一つに纏めていて年は俺より少し上だろう。手には粥を持っている。
「待たせてしまったかね?」老師が話かけてきた。
「いいえ。ありがとうございます。」
老師と男は布団の近くへ腰を降ろし青髪の少女に合図する、少女は粥の入ったお椀を自分の前に持ってきた。近くでみると本当に真っ青だ。年は俺より少し上かな?
「ありがとう。」
少女は特に反応は無く老師の所へ行き、少し後ろに腰を降ろした。老師はあぐらをかいて男と少女は正座だ。
俺が粥を食べ終わるのを見計らい老師が話かけてきた。
「体調はどうかな?」
「大分落ち着きました。何から何までありがとうございます。」
「礼には及ばんよ、元気になれば何よりじゃ。」
そう言うと老師は紹介を始める。
「この男は剣聖様の側近のイーリスじゃ、この聖地の中でも有数の知恵者じゃ。一緒に話を聞いてもらう。」
「イーリスです。よろしくダイン君。」
「こっちはわしの孫のテレスじゃ。ここで修行しておる。」
テレスは無言で頭を下げる。
「聞きたい事が幾つかあるが…。君は魔力を誰からもらったんじゃ?黒い魔力はわしも初めて見たからな。」
「誰から… ですか?」
「そうじゃ。祝福を受けたときその者は自身の名前を言ったはずじゃ。」
「あ~…。獣王って言ってました。」
「「!!」」
老師は言葉を詰まらせる。
「じゅ…、獣王じゃと…。」
あれ? 何かまずった?