二回戦へ向けて
初戦が終わった翌朝
ー闘姫学園 医務室ー
闘姫学園の医務室はベッドが十数個それぞれカーテンの仕切りで区切られて並ぶ 入学式、月組戦開催中は医師が数人駐在しており 地下には手術室も完備。
孔雀の寝ているベッドの横に座る舞花と千路。
孔雀は布団を頭まで被り顔を隠している。見舞いに来た二人であったが、昨日の一件のせいで誰も口を開かない。重い空気が十数分流れた頃に教師の吉原凛ことヨシリンが3人の元にやってくる。
「いつもは騒がしいのに、随分と静かね、まあ、あんな事やれば仕方ないかな」
昨日の舞花対絹江戦のラストに放った舞花の技により、絹江は顔面から落ちて負傷した。
月組戦規定では相手に後遺症を残すほどの大怪我を負わせた場合その者の負け。試合の勝敗は遠山絹江の検査結果待ちである。
「遠山さんの結果が出たわ。鼻と顎の骨折、前歯も二本折れてるそうよ、規定では舞花ちゃん貴女の負けになるけど、遠山さんが問題児であった事、直前の雨乃さんへの過剰な攻撃が舞花ちゃんにあんな行動をとらせた一因になったと判断し、学園は今回の一件を不問とし 舞花ちゃん達の勝利とする。ただし一歩間違えば遠山さんを死なせていたであろう技を放った舞花ちゃんは警告として次の試合に出る事は禁止ね」
「アタシは相手が怪我すると分かって技を放ったんだよ?」
「若いうちは過ちを犯す事も多い、でもその失敗を糧に成長していけるのも柔軟な思考の若者の特権。折角もらったチャンスなんだから、生かしなさい。舞花ちゃんには 先生期待してるのよ。」
「学園教師が特定の生徒に肩入れしてもいいのかい」
「まあ先生といっても私は教師であって教師じゃないから、いいのよ。…『それにアナタはまだ相手を殺した訳じゃない』…」
いつも笑顔の教師が、笑顔を止め後半の言葉を舞花達に聞こえない大きさの声で呟く。
「いつも言ってる教師じゃないってどういう意味なの?」
千路が尋ねる。
「まあ言葉通りの意味だよ、んじゃそろそろ先生は帰るから、孔雀ちゃんのお見舞いの続きしてあげてね。」
ヨシリンが医務室を出て行く。またしばし沈黙の後、舞花が口を開く。
「アタシのせいで次は二人で戦う事になってゴメンな」
「…それを言うなら一勝も出来なかった私が悪いわ」
布団の中から声を出す孔雀。
「クーちゃん、あの先輩は凄く強かったから仕方ないですよお」
「…いえ私が弱すぎるのが悪かったのよ…私が強ければ、舞花さんにこんな想いをかけさせなくてすんだのに」
「クーちゃん…」
また重い空気が流れる。
「ウジウジするのは止めよう!孔雀が弱いと思うなら強くなればいい、まだ次の試合までには時間があるし、アタシも付き合うからさ!」
舞花は精一杯の空元気で言葉を絞りだす。
「…私達二人が沈んでるせいで、いつも元気なチーちゃんまで黙らせてしまっているようだし、いつまでもこうしていても仕方ないですね」
ガバッと布団を上げ上半身を起こす孔雀。
「クーちゃん。やっぱり顔が腫れてるから布団に潜ってたんですね」
「強くなってここまでやられないようになろうね孔雀!」
ボコボコに腫れ上がる孔雀の顔をみて二人は声をかけた。顔を赤らめすぐに布団に隠れる孔雀。
「ひとまず悩むのはやめて次の試合の事に気持ちを切り替えようかねえ」
舞花は自分にそう言い聞かせた。
ー2日後 月組校舎二階マットの間ー
医師の許可が下りてトレーニング出来るようになった孔雀と舞花がマットの中央で向かいあっている。少し離れて千路が見守る。
「さてと、孔雀の弱点である威力のなさを、どうやって解決しようかねえ…と、その前に今更だけど雨乃流舞闘術ってなんなんだい、それが分かれば何か思いつくかも知れないねえ」
「…そうね、別に秘伝の武術でもないから話してあげるわ」
孔明モードになった孔雀が語る。
雨乃家では代々 赤子の時に部屋いっぱいに準備された 対になった物を触らせ その子が気に入った物を生涯の武器とさせ その者独自の武術をさせると言う しきたりがあり、しきたりを守る事で家が繁栄していったと言われており 現在でもそれは続いている。
「ん?チョット待って、という事は今の闘い方って全部孔雀の考えた技だし、その扇子は家のしきたりで使ってるのか」
「…そうよ、何か問題でもあるのかしら、過去に一度だけ、このしきたりを守らなかった家系があってその時は雨乃家は没落しかけたそうよ。だからこの扇子は絶対に使わなくてはいけないの!」
幼い頃からそう育てられた所為なのだろうか、孔雀は何の疑問も持たずに言い切る。
「いや扇子を否定した訳じゃないんだけど、うーん参ったねえ。」
頭を片手で掻きながら千路に助けを求める目を向けるが千路は目をそらす。
「孔雀は動体視力も良いし動きも速い だからそれが活かせるカウンタースタイルになったんだろう、でも この前の敗北から学んだと思うけど、カウンターってのは相手の全ての攻撃を予想出来なきゃ反応できない。だからカウンタースタイルを止めないかい?ホントは扇子も使うのやめて欲しいけど。」
「…扇子は手放せないけど、スタイル変更は考えましょう、ですが どのような変更をすればいいのかしら」
「扇子は リーチが長くて相手より早く攻撃を当てれる利点はあるけど、ダメージがなさすぎる 。それを解決できるのは、孔雀が負ける前に放った技あったじゃん、あれだよ」
「…疾風迅雷の事かしら」
「それそれ、相手の虚をつきドロップキックからのハイキック。孔雀は脚が長いし動きも軽いから足技をもっと使った方がいい」
「…足技ですか。」
「理想は扇子で間合いを長くとらせて、隙をつき強烈な足技で相手を倒す。それが確立されれば間違いなく強くなれるよ」
「…なるほど、今迄 自分で積極的に相手を倒しにいこうと考えた事もなかったわ」
「よし、じゃあ次の試合までに孔雀の足技を強化しよう」
「クーちゃん頑張りましょう!」
何時の間にか近くにいた千路が声を上げる。