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初戦決着

「チロ、いい加減タッチしなよ」

「ウチが三連勝しますよお」

「…調子にのると人の話を聞かない チーちゃんの悪いくせね」

「まったく仕方ない子だねえ」


赤コーナー最後の一人 短髪ソバカス顔の遠山絹江がリングに上がる。


「…チーちゃん、多分その人が柔道家だろうから寝技と投げ技に気をつけなさい」


前もって得ていた情報 柔道家の存在、エリスが違ったので、この相手がそうであるのは間違いないだろう。舞花とのスパーリングである程度柔道対策をしてきた千路は油断していた。


「大丈夫掴まんなきゃいいんでしよお」


千路は自分のパンチがギリギリ届く位置をキープし様子を伺う、絹江は腰を低く落とし両手を広げ構えている。

柔道とは違う構えに違和感を覚えた舞花が声をかける。


「まずい、チロ!大振りのパンチは出すんじゃない!」

「え?」


声掛けが間に合わず千路の打ち下ろしストレートが飛ぶ、すかさず絹江はパンチを引き寄せ絡め取る 前屈みになった千路の首を両脚でロックし三角絞めを決め締め上げる。千路は膝をつき倒れる。


「ギブアップしなよ」

「いやです」


千路は抗うが三角絞めは完璧に決まって抜け出せない


「仕方ないね、レフェリー。」

「技の入りを確認しました。カウントを始めます。1、2、3」


絞め技に対しギブアップをしない場合 選手の安全のためにレフェリーは10カウントをとり、それで脱出 出来なければ技をかけられた相手は敗北となる。


「9、10!勝者! 遠山絹江」


勝敗が決し 技を外され、フラつきながら立ち上がり舞花達の元に戻る千路


「ゴメンなさい、負けてしまいました」

「チロは良くやったよ、後は任せな!」

「…チーちゃんの仇は私が討つわ!」


舞花より先に孔雀がリングに上がる。


「先こされたか。孔雀気をつけな、あの先輩のレスリングに似た腰を落とす低い構え方は、柔道じゃない、おそらく柔術使いだよ」

「…柔術。」


柔術とは集団戦や武器持ち相手を想定して闘う武術でほぼ何でもあり、この月組戦のような 異種格闘技戦においては猛威を振るう。柔道や空手は柔術から 分かれて派生したスポーツである。


リング中央で絹江と孔雀が対峙する


「…さあ、始めましょう」


両手に握られた閉じた扇子の先を向け間合いを測る孔雀、警戒しつつ間合いを詰める絹江。しばしの膠着状態が続いた後、絹江が動き孔雀に掴みかかる 孔雀はその手を扇子で叩き捌く。


「良い反射神経だ、扇子の分だけアタイの方がリーチは不利みたいだね」


しばらく小競り合いを繰り返した後 孔雀が動く


「…雨乃流舞闘術奥義 『疾風迅雷!』」


絹江に近づき顔の前で扇子を広げ視界を塞ぐ、虚をつかれ視界を塞がれた絹江に即座にドロップキックを放つ孔雀。モロに喰らい仰け反りバランスを崩す絹江。絹江が体勢を整える前に孔雀はハイキックと扇子の打撃で追い打ちをかける。堪らず後方に下がりガードポーズをとる絹江。ちなみに この技はプロレスを見て孔雀が新たに生み出した新技である。


「ナイス孔雀!どうやらアタシの杞憂だったようだねえ」

「クーちゃんそのままいけー!」


舞花達が孔雀の勝利を確信して試合を見守る。


「油断した、今のは危なかったよ」

「…倒すつもりで攻撃したのにタフですね」

「さて これでアナタの見せ場も終わったし、そろそろアタイの番にさせてもらおうかな!」

「…私の見せ場?」



絹江の言葉に疑問を持つ孔雀へ 絹江はガムシャラに掴まえようとしつこく手を伸ばす、孔雀は冷静に捌く。そのまま先程と同じ展開になるかと思われた矢先、絹江が強引に踏み込んで孔雀の足を踏みさらに肩で体を押す、後ろに倒れる孔雀の上に跨り馬乗りになると孔雀の顔を殴る、殴る、殴り続けた。


「本当ならすぐ倒せる相手の見せ場を作ってあげなきゃいけないとか、まったく面倒な制約つけられたもんだよ。イライラした分殴らせて貰うよ」


絹江は文句を垂れながら孔雀を殴る。


「おっとこれ以上は危ないか、そろそろやめなきゃね」


意識を失った孔雀を殴るのをやめ立ち上がる絹江。


「相手KOにより 勝者 遠山絹江!」


唖然とする舞花と千路の前を担架に乗せられて運ばれる孔雀を見て舞花は拳を握りしめた。


「青コーナーの選手はリングへ」


怒りの形相の舞花がリングインする。見たことの無い表情に千路は驚いた。

絹江の前についた舞花。


「先輩始める前に 2、3聞きたい事があるんだけど、ほぼ何でもありのルールだから足を踏んで動けなくした所を攻撃するのは理解できる、だけどその後の孔雀を倒した後の行動が理解できない、千路の時のように絞め技をやれば簡単に終わったのに、それをやらずに何故馬乗りになって殴り続けたんだい?」


「さっきも言っただろ、殴らせた分殴ったって、別に死ぬほどの怪我じゃないし問題ないじゃないか」


「そもそも、先輩の実力なら最初から孔雀の不意をついて瞬殺出来たのに何故殴らせたんだい?」


「去年の月組戦でアタイは先鋒に出てあっさりと三人抜きしたんだよ。だけど この月組戦とか言う奴にはふざけた裏ルールがあって、試合はチームの為に戦えなかったから敗北とか訳のわからん理由で負けになった。馬鹿げてるだろ?オマケにペナルティとして アタイはチームメンバーが全員やられるまで試合に上がれない事とアタイと戦う相手チームの人間を見せ場なく倒した場合 アタイの負けになるとか面倒な制約つけられてさ、その制約守る為に殴らせたのさ」


「理由は分かりましたよ…最後に一つ、何故先輩はそこまでしてここで戦うんだい?」


「この学園は娘のいる古流武術の家元を援助する代わりに娘が年頃になったら学園に入学させて戦わせるって約束があって、アタイも家の為に来てるって訳だ、ホントはこんな生温くて下らないルールに縛られた戦いじゃなくて緊張感のある潰し合いがやりたいのにさ、まあこれも一種の勉強ってやつなのかね まあアンタにも最初は見せ場として殴らせてあげるよ、その後アタイが勝つけどね」


嫌な笑顔を浮かべ舞花を挑発する絹江。


「月組戦始まる前は凄く試合が楽しみだったのに今は物凄く不快極まりない、実に不愉快だねえ…」

「馬鹿かいアンタ、試合に不快も不愉快もないだろ、あっていいのはヒリつく緊張感だけさね」

「プロレスと総合格闘技は相容れないものだと今、改めて感じたよ」


下を向き両拳を力強く握る舞花。


「ハア、何言ってんの?早くかかってきてくれないかな、とりあえずアンタの見せ場作んないと、アタイは勝てないんだよ」


両手を横に広げて尚も挑発してくる。


「不快だねえ…実に不愉快だねえ…」


舞花がゆっくりと絹江に近づく。


「おしゃべりは終わりかい?早く仕掛けてき…」


絹江の無駄口が終わる前に舞花は絹江の足を踏み頭に頭突きを入れる。強い衝撃で一瞬意識が飛んでいる絹江に舞花は大外刈りを決め倒す、倒した絹江の片腕を取り極めようとするが、絹江は避けて横に転がり立ち上がる。


「おいおい いきなりやってくれるじゃないかい」

「先輩、プロレスってさ相手に見せ場を作った上で相手に勝つって所に美学があるんだよ」

「アンタ何を言ってんの?」


舞花が殴りかかる絹江はガードする


「派手な投げ技も相手の協力と受け身をとってもらえるって信頼関係があるから放てるんですよ」

「さっきからアンタ何を言ってんだって」


ガードの上から殴り続ける舞花


「だから相手には敬意を持ち お互い全力で良い試合を観客に見せようと頑張る」

「ハア…そろそろアンタに見せ場作ったし、面倒臭いから速攻で倒してあげるよ 」


絹江が少し下がり舞花のパンチを低空タックルで躱し舞花の脇腹に頭をいれて両腕を腰に回し背中で両手をロックする。後はそのまま舞花を寝かせて殴れば勝利だ。だが、


「先輩、知ってます?女子プロレスって男子と違って体が軽い相手もいるから相手の力借りなくても技がかけられるんですよ」


そう言うと舞花は絹江の腰を両手で抱えて持ち上げ後ろへ倒れこむ、変則的なDDTのような形で絹江は頭から叩き付けられた…大きな音の後 リングは静寂になる。

三角締め うつ伏せの相手の片腕を両手で引き両脚で引いた片腕ごと相手の首を絞める


DDT 向かい合う相手の頭を片脇で抱え込んでロックし後ろに倒れ頭から相手を落とす技。頭から落とすので一歩間違うと大変危険


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