迫る月組戦!
舞花の入学経緯話が終わった後、リングシューズに履き替えた舞花と千路がリングに上がりスパーリングを始めようとしていた。
「これがリングの感触か感動だねえ」
キュッキュッとシューズをリング上で足踏みし鳴らす。千路も頭に身に付けていたグローブを両手に付け準備万端。
「じゃあ姐さま始めましょう」
千路が素早く身を低くして突進してくる、舞花は後方に勢い良く下がり、後ろにあるロープの反動を利用し一気に間合いを縮め、千路を馬跳びして飛び越えバックに回る。
一瞬の出来事に戸惑う千路の背後から片脇に頭を入れその腰に両腕を回しヘソの前で両手を組み、そのまま後方へ放り投げる。バックドロップという技である。放り投げられ背中から落ちる千路。
「つい興奮してやり過ぎちゃったゴメンねチロ」
「痛いですよお」
プロレス技は受け身を知らないと命に関わる技が多く素人に放つのは危険なのだ。
「相手を大怪我させずにプロレスを見せるのは難しいねえ」
「…なら違う闘い方すれば良いじゃない」
闘姫学園の手帳には、相手を殺すもしくは後遺症を残すほどの怪我をさせなければどんな闘い方をしても良いと書いてあるのだが、年端もいかない少女が その判断をするのは難しい。そう考えると千路や孔雀の闘い方は実にこの学園向きなものである。
「だけど、アタシはあえてプロレスでいくよ!」
「…チームの為の考え方をしてくれないかしらね」
「大丈夫、勝つから!」
「…まったくどこからそんな自信が。」
「そうだ!アンタらもプロレスの受け身覚えてどこまでの技が使えそうか協力してよ!」
「ウチは姐さまに協力しますよお」
「…後2ヶ月しか期間が無いのに正気ですか?舞花さん」
孔雀が呆れた顔で舞花を見ている
「そうと決まれば じいちゃんに連絡してビデオと資料を送ってもらわなきゃ」
「…私はまだ協力するとは言ってないのですが」
それから2日後の朝、部屋にダンボールが届き中身を取り出す。呼び出された孔雀もやってくる。
「これがビデオテープですか ウチ初めて見ましたよお」
「んでこれがビデオデッキ、テープを入れて再生する物さ」
「…何故DVDに焼き直すか、HDDに録画し直すとかしなかったのかしら」
「アタシもじいちゃんもそういうの苦手だからねえ」
テレビに配線を繋ぎいざ視聴。
「あれこれ終わり際の場面だ、じいちゃん見た後巻き戻してなかったのか」
舞花がテープを巻き戻す、キュルキュルとデッキがテープを巻き戻し始める
「姐さま これは何をしてるんですか」
「巻き戻しさ、ビデオテープはテープを巻き戻さないと最初から見れないんだよねえ」
「…実に無駄な時間ね」
カチッとデッキが止まりテープが最初まで巻き戻ったようだ。
「よし、じゃあ試合を見るとするかねえ」
サーティーペアとしてのデビュー戦が収められたビデオが始まる、開幕から悪役軍団の先鋒の二人組から凶器攻撃や反則攻撃を受け、血だらけになるサーティーペア、中盤に相手の虚をつき反撃開始、華麗な飛び技に続き綺麗な投げ技
悪役軍団はそのまま倒れフォールされ敗北する。
「なんですかこれ ウチ感動しましたよお」
千路が涙を流し見つめている。
「…台本通りの展開なんでしょ、感動する要素なんてないじゃない」
孔雀が呟く
「わかってないねえ、これがプロレスの良さじゃないかい、まだまだテープはあるから今日の午前中は視聴会といこうかねえ」
「楽しみですよお」
「…午前中全部潰す気!?」
ー二時間後ー
文句を言いながらその場に残っていた孔雀も段々と面白くなってきたようでマジマジと画面を見ている。
「よし、今日はこの辺にして午後は食事とったら月組校舎でトレーニングしようか」
「姐さまビデオの続きは?」
「これからは午前中はビデオを見て午後はトレーニングという日程にしない?」
「…何を勝手に決めているの」
「いやなら孔雀は別行動でもいいよ」
「…イヤとは言ってないじゃない!続きが気になりますし、見てあげます」
「素直に見たいて言えば良いのにねえ」
「クーちゃんはいつもこうなんですよお」
顔を紅くしながらスルーして月組校舎食堂を目指す孔雀を追いかけていく。
ー1ヶ月後ー
ー月組校舎2階リングの間ー
「サーティーフラッシュ!」
リングの四角にあるコーナーポストの上から前方回転して飛びおりる千路。目標地点に倒れていた孔雀は横に転がり立ち上がると
「…チーちゃん私のサーティーニーをくらいなさい!」
孔雀は千路に高いジャンプからのヒザ蹴りを放つ、千路は両腕でガードした。
「やるねクーちゃん」
「…ハッ!?試合まで一月切ったのに私達はなにやってんの?」
孔雀が我に返る。
「長いノリツッコミだったねえ」
月組戦開始まで残り3週間