戦う理由
洋子の剣を扇子で受け、脚で蹴り上げ攻撃する孔雀、以前は相手の動きを見て安全な状況からでしか攻撃をしなかった少女が いまや隙をみれば即座に攻撃する好戦的な少女に変わっていた。
「中々やりますわね、では我が必殺の剣技をお見せいたしましょう!」
洋子が剣を両手で持ち上段に構えて力強く振り下ろす。孔雀は扇子をクロスさせて攻撃を防ぐ、パキッという音とともに、洋子の聖剣が
折れた。孔雀の扇子はカシの木で作られた特注品で普通の扇子よりも骨組みが厚く頑丈に作られている。
「我が聖剣が…。」
狼狽える洋子。
「洋子くん、私と代わりすぐに替えの剣を用意するんだ!」
赤コーナー最後の一人 半田すずが声を上げる。
「やむを得ませんわ、この場は貴女に任せます!」
洋子がすずとタッチする。パンダを模した口の部分が開いた覆面を被り、白い手袋とブーツを履き、背中には上半分が黒下半分が白のマントを身に付けた、背丈が低い少女が上がる。
「私は正義の戦士パンダマンレディ!」
掛け声と共に胸でタイヤを掴むようなポーズを決める。
「クーちゃん、そろそろウチにも出番くださいよお」
「…仕方ないわね」
孔雀が千路のもとに行きタッチする。リングインした千路がすずに近づく。
「先輩のその格好て5年前にテレビでやっていた猫熊戦士パンダマンレディですよね」
「キミ パンダマンレディを知っているのか、私は この作品が何度も見返すほど大好きで、将来はパンダマンレディのようなヒーローになりたくて、その夢を叶える為に、この学園にやって来たのだよ。」
「ウチも好きでしたよお」
「ほほう、同じパンダマン好きのキミに怨みはないが、悪いが 我が夢の為に倒させてもらおう!」
ビッと千路に人差し指を向け宣言すると、すずが踏み込みミドルキックを打つ、後ろに下がり躱す千路に、すぐに足を地につけパンチで追い打ちをかける。
「ふざけた格好してるけどあの先輩はキックボクサーかねえ」
「…舞花さんて格闘技詳しそうだけど色々と習っているのかしら?」
「プロレスの延長で異種格闘技戦を見てただけだよ。」
「…ああ、テレビの知識だけなのね…」
「その知識だけでも充分だと思うけどねえ」
「…まあ、何もないよりはマシね」
舞花と孔雀が会話をしていると、リング上ではすずが千路を無人のコーナポストに追い込み 逃げ場をなくした千路をガードの上から殴り蹴り千路ガードをさらに上げ固めようとした瞬間、すずは千路の首を両手で抑えて腹部にヒザ蹴りを放つ。くの字に折れ倒れる千路。
「相手の心に問いて正すがパンダマンレディ!さあキミの夢を語るがいい!」
パンダマンレディの決めゼリフと決めポーズをとり、すずが千路に指をさし問いかける。
パンダマンレディは必ず怪人に この問いかけをし、それに答えた怪人へ さらに一言返しトドメをさすのだ。
「ウチの夢…?ウチの夢は…姐さまの夢を叶えること。」
「他人の夢を叶える事?そんな気持ちでキミは戦うのか、ならばキミは私には勝てないな!キミへの問答は終わりだ!さあ決着をつけようか!」
「勝てない…勝てないのかなあ。」
千路は自分の戦う理由を改めて考えてみて、立ち上がりボーっとする千路。
「必殺パンダマンレディキック!」
すずの飛び蹴りが千路に決まり倒れる。
立ち上がらない千路にレフェリーがカウントを始める。
「…9…10。テンカウントにより、勝者 半田すず!」
10カウント後に立ち上がり心なしに舞花達のもとに帰る千路。
「姐さま、クーちゃん、ごめんなさい、ウチ 戦う理由を聞かれて分からなくなっちゃった。」
「…チーちゃんの馬鹿に素直な性格が災いしたわね。でも安心なさいチーちゃん、舞花さん、この朱雀が全部勝つから。」
千路に代わり孔雀がリングに上がる。
「後はキミを倒せば私達の勝利だ、さあ行くぞ!」
すずが攻める、孔雀もガードしつつ反撃する。
「クーちゃんって、別人みたいに変わりましたよね、それに比べてウチは…」
「本当に驚くくらいに変わったねえ、でもチロだって変われるから、そんなに落ち込まずに今は孔雀を応援しよう」
すずがミドルキックを放つタイミングに合わせてドロップキックを放つ千路。綺麗に胸元に決まり吹き飛ぶ すず。
「初戦のキミとは別人のような戦い方だね、でも私も負ける訳にはいかない!」
すずが立ち上がり、孔雀へ向け走る。
『疾風迅雷!』
孔雀が扇子を広げ視界を塞ぎ、ドロップキックを放つ。が、すずは後ろに下がっていてドロップキックが空を切り、孔雀は地面に倒れる。
「その技はキミ達の初戦を見ていたから効かない、そういうフェイント技は 相手の虚をつくからこそ効果がある」
立ち上がる途中の孔雀へ すずはローキックを打つ、孔雀の胸元にローキックが当たった孔雀は後方へ回転し、すぐに立ち上がる。
「…大技は外すと隙が大きい、迂闊でした。次からは もう少し考えて打ちましょう、アドバイスありがとうございます先輩。」
再び向かい合うと孔雀がローキックで攻める ガードして反撃する すず。お互いに怯むことなく殴り合う。
『疾風迅雷!』
またも孔雀は すずの顔の前に扇子を広げる。反応し下がるすず、そこへ孔雀のドロップキックが再び空を切り倒れる。体を起こし立ち上がろうとする孔雀の胸元へ すずがミドルキックを放ち孔雀は後ろへ倒れる。
「相手の心に問いて正すが パンダマンレディ!さあキミの夢を語るがいい!」
決めポーズをとり孔雀を指差す。
「…夢なんてないわ、ただ私は我が友 舞花さんの為に この試合 絶対負ける訳にはいかない!」
「無駄と警告しておいた技を再度放ち、無意味なダメージを負うような者では私には勝てないぞ!キミへの問答は終わりだ!さあ決着をつけようか!」
『疾風迅雷!』
またも顔の前で扇子を広げる、すずが下がる、孔雀は一歩前に出て逆の扇子を顔の前で広げる。反応して下がるすず、さらに孔雀は最初に広げた扇子を閉じ投げる。すずは少し下がり手で払う、孔雀は投げた手の方向に回転し裏拳をすずの顔へ見舞う、これもすずにガードされるが、ガードの後、少し遅れて すずの後頭部に衝撃が。
「え?」
つい注意を後ろに向けた すずの隙を見逃さず孔雀は片足を真上に蹴り上げる、顎に当たりよろけるすずに、立て続けに扇子と蹴りの連続攻撃を決める。何が起こったのか わからぬまま すずは倒れた。レフェリーのカウントが始まる。
「…9.10! 10カウントにより 勝者 雨乃 孔雀! 」
すずが よろけながら立ち上がり孔雀の元に来る。
「裏拳をガードした後に、頭に何か当たって ついそちらに気をやってしまって やられたがそういうことか。」
孔雀の扇子が制服の内袖から垂れる紐に繋がれてブラブラと揺れている。 孔雀は扇子を握ったままでは出来ない動きをする時の為に、制服の袖裏に紐を縫い付けストラップのように扇子を付けていた。
「…扇子を投げてからの裏拳は、この紐の反動で繋がれた扇子を先輩の体に当て動揺を誘う事が狙いでした」
「なるほど、三度も同じ技を繰り返したのは、本命のそれを狙う為だったのか、してやられたよ」
すずは笑いながら赤コーナーに戻っていく。
「…この技の名前は『疾風迅雷』の派生系『嵐影湖光』とでも名付けましょうか。」
孔雀が呟いていると、代わりの剣を用意した洋子がリングへ。
「先程は良くも我が剣エクスカリバーを折ってくれましたね、ですがこの聖剣バルムンクはそうはいきませんよ!」
先程のエクスカリバーより長く幅広な模造刀を構える洋子。洋子は剣道の心得があるのか常に剣の間合いを把握して孔雀の胴と腕を狙ってくる。孔雀は剣のリーチの長さに近寄れず、一定の距離をとる。
「朱雀さんでしたっけ、我が聖剣の前では鳳凰も小鳥と変わらぬようね。」
「…そんな挑発には乗りませんよ。ところで先輩は、騎士みたいですけど、騎士ならばどのような方にお仕えしてるのですか?」
「フ…我に主はおらず。我は騎士王よ!」
「…騎士王たるお方が 私のような者を簡単に倒せないのですか?」
「ならば望み通りすぐに屠ってくれよう。」
挑発し攻めさせるつもりだった洋子が気付けば挑発に乗り攻撃を仕掛ける。圧倒的リーチ差に頼って、一定距離を保ち戦えば洋子の勝ちであっただろう。しかし、その有利差を捨てて相手の間合いに踏み込んでしまった洋子。
「我がバルムンク一閃を受けるがいい!」
「…待ってましたよ」
孔雀も洋子の元に踏み込む。
「なにっ!?」
剣を振り上げた洋子は孔雀に密着され剣が降り下ろせない。
「…雨乃流奥義『孤城落日』!」
洋子の膝裏に孔雀は片足をかけながら洋子の上体を腕押し洋子を後ろに倒す。
仰向けに倒れた洋子の腹部に孔雀は前転宙返りをして尻から落ちる。孔雀のヒッププレスを喰らった洋子は立ち上がれない。
「KOにより、勝者 雨乃 孔雀!」
「クーちゃんすごい!それに比べてウチは…」
「そんなに気にするなチロ、今は素直に勝利を喜んで孔雀を迎えいれよう」
孔雀が舞花達の元へ戻る。
「ありがとう孔雀、アンタのおかげで次の試合が戦えるよ。」
「…仲間の為だもの、これくらい当然だわ。」
孔雀を眺めて落ち込む千路。
「ウチは何の為に戦うんだろう…」




