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渇いた夜に  作者: ナッツ外道
第1章
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アトゥムへ

 そう、人がいる。ここは街だから。街から出てくる人の流れを遠目から見ていると、ひとつの疑問と不安がよぎる。


 「ノア。俺ってさっき会った鎧の男と普通に会話してたけど。ここって日本語圏?」


 「否定します。ここはレイスです。私のデータでは、ヘレナ国サルーン領にあるアトゥムという街です。雪緒、頭を打ちましたか?」


 うるせぇ。


 「じゃあ、聞くけどよ。なんでさっきは普通に会話できたんだよ。」


 「私が翻訳しているからです。」


 うん。便利だ。じゃなくて。


 「俺はまんま日本語を喋っているつもりなんだけど。」


 「発声の際や、耳から脳に伝わるときに電気信号を変換しています。」


 なにそれ。便利すぎるだろ。


 「へ~そうなんだ、で解決していいものなのかは置いといて。とりあえずもう驚くのは疲れたからいいや。じゃあ、街に入るか。これって普通に入っていいのか?」


 「門内の通行所で、身分証明が必要です。」


 街の入口は大きな門のようになっていて、係員が目視で通る人の証明をチェックする姿と、自動改札のような何かを読み取る機械が置かれている。


 どちらも5つほどの数があって、そのうち2つは使われていないようだった。


 「…それを俺にどうしろと?」


 「有人通行所の横にある、魔導式センサーを左手で触れて下さい。本来は身分証や通行証でデータを読み取るものなのですが、ハッキングします。」


 …ぶっそうだなぁ~。それって、この世界でも犯罪じゃないのでしょうか。


 「逆に言えば、それしか方法がないと。」


 「この街は、上空からの進入も感知されます。魔導障壁とセンサーを兼ねた『壁』が街を覆うように展開されています。力づくで入ることは可能ですが、その際には勅令憲兵ちょくれいけんぺいや軍令憲兵が出動すると思われます。」


 「…警察とか軍隊みたいなものか。」


 「肯定します。しかし、私の知るレイスの魔法科学では雪緒を傷つける術は、ほぼありません。最大出力の魔導衛星砲でも、雪緒のマナは貫通出来ないでしょう。」


 「なんかそんなあぶなっかしいモノで撃たれるとか考えたくないんですが…ほぼっていうと、俺にダメージを与える方法があるにはあるんだな。」


 「肯定します。ひとつはマナを展開していない場合、雪緒は普通の人間と変わりません。そして、もうひとつは魔導反転因子を軸とした魔法や魔導具での攻撃です。これは、モノによっては世界が滅ぶ火力です。一万年以上昔に栄えていたという、古代文明『イムホテプ』の遺産を使ったもので120年前には世界条約で使用が禁止されています。保有国はレイスで5つです。」


 「核兵器みたいなものってことか…。」


 「肯定します。核兵器より、よっぽど質は悪いですが。私に使われている『テクノス』もイムホテプ文明の遺産であると、データに記録されています。」


 ノアって、そうとうヤバイ代物なんじゃなかろうか。


 「てことはさ、お前の存在自体、国家機密レベルなんじゃないの?」


 「肯定します。テクノス自体が国家機密レベルであることは間違いありません。テクノスを使用した魔導式インターフェースは、私が最後に製造された時から20年前、ですので今から140年前にプロジェクトが開始され、その事実を知るものはノア・ディーンと少数のスタッフのみです。国家プロジェクトではありませんが、国家に匹敵する魔導士のみで造られ、その軸となる設計はノア・ディーン1人が担ったものです。私が雪緒の世界へ転移した120年前、プロジェクトは失敗したものとなっているようです。」


 ん?120年前は?そんなこともわかるのか??


 「なんで、今のレイスで聞いてきたように言えるんだよ。」


 「アトゥムにある、マナの情報集合体にアクセスしました。今までは近くに街やアクセスポイントがありませんでしたので。現時点で、データの変換、蓄積、情報の置き換えが完了しました。」


 完全にインターネットです。そんなもんまであるのか。この『レイス』って世界、俺が考えているよりもずっと文明が発達してるみたいだ。でも、街のまわりは森と山だらけ。なんか、ちぐはぐな印象を受けるんだよな。


 「とりあえず、町から出てくる人は色んな服装してるし、俺も不審者には見えないだろうから行ってみるか。…頼むから、ハッキングがばれないようにしてくれよ。」


 「了解しました。」


 人の流れに乗って、電車の改札のような機械の前まで行ってみる。前の人は、首からぶら下げている鉄の板みたいなものを、係員らしき人へ見せているようだ。その隙に、さっと認証部分っぽい場所へ左手を当ててみた。


 『ピヨン』という間抜けな音と共に、通路を塞ぐようにしてた光が消える。


 何食わぬ顔で、スッと入ることが出来た。その際には、左手はポケットへ入れておいた。


 「あ~、なんか犯罪気分。」


 「雪緒。この国では犯罪です。」


 うるせぇなコイツ。生きるためにはしょうがないんです。


 地下鉄の通路に似た場所を通っていくと、上がる階段がある。そこを上っていくと、町の内部へ出たようだ。外からだと、屋根の部分が半透明なドーム型の建物だったのだが、中にはビルが立ち並ぶ街があった。山と山の間にあるとは思えない、それこそ地球の文明に近いものを感じた。


 気のせいかもしれないが、さっきからすれ違う人とよく目が合う。


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