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渇いた夜に  作者: ナッツ外道
第1章
4/16

名前

 思いっきり咬まれました。突進された勢いそのままに、砂利の上に倒れる。なんか、うなり声を上げながら必死でガウガウやってます。


 なんでこんなに平然としているかというと、全然痛くないから。よだれはすごーく嫌だけど、この際どうでもいい。


 「おい!!マドウなんとかっっ!!」


 「雪緒。私は魔導式インターフェ…」


 「いいから!!こっからどうすりゃいいんだよ!!」


 「魔物の活動を停止させることを推奨します。」


 「だきゃらっ!!どうやってっっ!!!」


 「マナを込めて、頭部か胸部に強い打撃を加えるなどが有効だと推測します。」


 「そ、そんなことしても大丈夫なのかよ!死んだりするんじゃねーか!?」


 「活動を停止するには、生命を奪うことが最善であると考えます。」


 「だ、だって、そんなにむやみやたらに動物を殺すなんて…。」


 言いかけていたところで、顔面に血の雨が降り注いだ。


 「・・・・・・えっ????」


 見ると、俺の首にかじり付いていた犬のような動物の首がなくなっている。


 「…ふ、ふぇあああああああ~~~!?」


 後ずさる俺に、何かが近寄ってくるのがわかった。


 「無事か。」


 全身フルメタル。フルプレートアーマーとでもいうのか、2m近い巨体がこちらに手を差し伸べているのがわかった。


 「…へ?」


 「無事であったか。それは返り血だな。立てるか。」


 黒い兜には、見る限り穴というか隙間が一切無く、くぐもった男の声が聞こえる。この人は、どうやって空気を吸っているのだろうか、と意味も無いことを考えていた。


 差し出された手につかまり、ようやく起き上がってあたりの惨状を確認する。まさに惨状だ。俺の上に乗っていたであろう動物は、首から上を無くしてピクリとも動かなかった。首から上はと言うと、近くの木に当たったのだろう、弾け飛んでいた…。どんな力でやったら、あんなことになるんでしょうか…。


 「…あ、えと、すみません。ありがとうございます。」


 「いや。こんな山奥で1人は危険だ。戦う手段をお持ちでは無いように見える。」


 この男、デカくて怖いのに優しいじゃないか。まさか…俺を今夜の抱き枕に……。


 「陽も落ちてきた、麓の街道まで送ろう。」


 大きなツルギ…黒く太い1.5mくらいもある剣を地面に刺し、兜を取りながらそんな提案というか、優しさを向ける鎧の男。たぶん善意だよな。兜を脱いだ男は、思いのほか若そうな顔立ちをしていた。赤茶っぽい長めの髪に、鋭い眼。瞳の色も赤に近いブラウン。歳も俺と近い印象を受けた。


 「私は、べヘルス公爵家の騎士。リフと申す。」


 「あ、どうも。霜山雪緒です。」


 「シモヤマユキオ。変わった名だ。アトゥムへ行くのか?」


 「あ、いえ、えへへ…。」


 なんとなく、笑ってごまかす。


 「アトゥムの街を目指しているなら、これも街道へ出たほうが早い。」


 「な、なるほど~…。えへへ。」


 ごまかし笑いは、どの世界でも役に立つのだろうか。とにかく、もうあんな危ない目は御免だ。


 ということで、すったもんだありましてリフと名乗る鎧の男が馬に乗せてくれた。今夜の抱き枕もアレだけど、馬って違った意味でケツが痛いのな。とりあえず、なんか黙ってるのもなんだし話しかけようとしたんだけど「喋るな。舌を噛む。」という、男らしいご忠告を頂き沈黙。


 30分くらいは走っただろうか、森を抜けて大きめの道へ出たところで馬を下りるように言われた。


 「イツツ。ケツが…。あ、ありがとうございました。」


 「問題ない。どちらへ行かれる。」


 「とりあえずは、街へ行きます。」


 「そうか。行く場が無ければ、ベヘルス家へ来い。」


 こいつ、スゲー怖そうだけどイイヤツな。


 「ありがとう。」


 リフは街道を反対へ走っていった。


 「…おい。マドウなんちゃら。」


 「雪緒。私は魔導式インターフェースです。」


 「もういいよ。このやり取りも疲れた…。ということで、お前に名前をつける。」


 「…名前。私に名前?」


 「そうだよ。呼びづらくってしょうがね~しな。」


 う~ん、と考えてみるがそう簡単には思いつかない。コイツって、名前になりそうな特徴とかないしな。ていうか、そもそも目に見えない。


 「お前を作ったのは、ノア・ディーンとかいうヤツなんだろ?」


 「肯定します。私の創造主は魔導士ノア・ディーンです。」


 「もう死んじまってるだろうし、親から取ってお前はノアな。」


 「私の名前が…ノア…。」


 「そうだ。お前は今からノアだ。」


 「了承しました。私はノアです。雪緒の魔導式インターフェース。」


 「なんだよ…。お前、人工知能みたいなやつなんだろ…?嬉しそうな声とか出せるんだな。」


 「嬉しい…とは、人の感情ですか?私には感情という機能は備わっていません。」


 「でも、嬉しそうにしてんじゃん。」


 「理解不能。訂正を求めます。」


 「え、なんで俺がお前ごときにそんな…。」


 「私は、お前ではありません。ノアです。雪緒。」


 「…はいはい。」


 なぜか、この時不安な気持ちを忘れていた。俺は日の暮れかけたあぜ道に、しょうがなく足を踏み出していた。

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