名前
思いっきり咬まれました。突進された勢いそのままに、砂利の上に倒れる。なんか、うなり声を上げながら必死でガウガウやってます。
なんでこんなに平然としているかというと、全然痛くないから。よだれはすごーく嫌だけど、この際どうでもいい。
「おい!!マドウなんとかっっ!!」
「雪緒。私は魔導式インターフェ…」
「いいから!!こっからどうすりゃいいんだよ!!」
「魔物の活動を停止させることを推奨します。」
「だきゃらっ!!どうやってっっ!!!」
「マナを込めて、頭部か胸部に強い打撃を加えるなどが有効だと推測します。」
「そ、そんなことしても大丈夫なのかよ!死んだりするんじゃねーか!?」
「活動を停止するには、生命を奪うことが最善であると考えます。」
「だ、だって、そんなにむやみやたらに動物を殺すなんて…。」
言いかけていたところで、顔面に血の雨が降り注いだ。
「・・・・・・えっ????」
見ると、俺の首にかじり付いていた犬のような動物の首がなくなっている。
「…ふ、ふぇあああああああ~~~!?」
後ずさる俺に、何かが近寄ってくるのがわかった。
「無事か。」
全身フルメタル。フルプレートアーマーとでもいうのか、2m近い巨体がこちらに手を差し伸べているのがわかった。
「…へ?」
「無事であったか。それは返り血だな。立てるか。」
黒い兜には、見る限り穴というか隙間が一切無く、くぐもった男の声が聞こえる。この人は、どうやって空気を吸っているのだろうか、と意味も無いことを考えていた。
差し出された手につかまり、ようやく起き上がってあたりの惨状を確認する。まさに惨状だ。俺の上に乗っていたであろう動物は、首から上を無くしてピクリとも動かなかった。首から上はと言うと、近くの木に当たったのだろう、弾け飛んでいた…。どんな力でやったら、あんなことになるんでしょうか…。
「…あ、えと、すみません。ありがとうございます。」
「いや。こんな山奥で1人は危険だ。戦う手段をお持ちでは無いように見える。」
この男、デカくて怖いのに優しいじゃないか。まさか…俺を今夜の抱き枕に……。
「陽も落ちてきた、麓の街道まで送ろう。」
大きなツルギ…黒く太い1.5mくらいもある剣を地面に刺し、兜を取りながらそんな提案というか、優しさを向ける鎧の男。たぶん善意だよな。兜を脱いだ男は、思いのほか若そうな顔立ちをしていた。赤茶っぽい長めの髪に、鋭い眼。瞳の色も赤に近いブラウン。歳も俺と近い印象を受けた。
「私は、べヘルス公爵家の騎士。リフと申す。」
「あ、どうも。霜山雪緒です。」
「シモヤマユキオ。変わった名だ。アトゥムへ行くのか?」
「あ、いえ、えへへ…。」
なんとなく、笑ってごまかす。
「アトゥムの街を目指しているなら、これも街道へ出たほうが早い。」
「な、なるほど~…。えへへ。」
ごまかし笑いは、どの世界でも役に立つのだろうか。とにかく、もうあんな危ない目は御免だ。
ということで、すったもんだありましてリフと名乗る鎧の男が馬に乗せてくれた。今夜の抱き枕もアレだけど、馬って違った意味でケツが痛いのな。とりあえず、なんか黙ってるのもなんだし話しかけようとしたんだけど「喋るな。舌を噛む。」という、男らしいご忠告を頂き沈黙。
30分くらいは走っただろうか、森を抜けて大きめの道へ出たところで馬を下りるように言われた。
「イツツ。ケツが…。あ、ありがとうございました。」
「問題ない。どちらへ行かれる。」
「とりあえずは、街へ行きます。」
「そうか。行く場が無ければ、ベヘルス家へ来い。」
こいつ、スゲー怖そうだけどイイヤツな。
「ありがとう。」
リフは街道を反対へ走っていった。
「…おい。マドウなんちゃら。」
「雪緒。私は魔導式インターフェースです。」
「もういいよ。このやり取りも疲れた…。ということで、お前に名前をつける。」
「…名前。私に名前?」
「そうだよ。呼びづらくってしょうがね~しな。」
う~ん、と考えてみるがそう簡単には思いつかない。コイツって、名前になりそうな特徴とかないしな。ていうか、そもそも目に見えない。
「お前を作ったのは、ノア・ディーンとかいうヤツなんだろ?」
「肯定します。私の創造主は魔導士ノア・ディーンです。」
「もう死んじまってるだろうし、親から取ってお前はノアな。」
「私の名前が…ノア…。」
「そうだ。お前は今からノアだ。」
「了承しました。私はノアです。雪緒の魔導式インターフェース。」
「なんだよ…。お前、人工知能みたいなやつなんだろ…?嬉しそうな声とか出せるんだな。」
「嬉しい…とは、人の感情ですか?私には感情という機能は備わっていません。」
「でも、嬉しそうにしてんじゃん。」
「理解不能。訂正を求めます。」
「え、なんで俺がお前ごときにそんな…。」
「私は、お前ではありません。ノアです。雪緒。」
「…はいはい。」
なぜか、この時不安な気持ちを忘れていた。俺は日の暮れかけたあぜ道に、しょうがなく足を踏み出していた。




