帰る方法
言われた通りにユーザー登録というものをする。といっても、名前を登録するだけだった。
霜山雪緒という名前を登録すると、こいつが「ご主人様」とか言ってるので、気持ち悪いから名前で呼ぶように訂正した。ちなみに25歳。
話しながら左手を触っていると、さっきの水を吸収する感覚を思い出す。手の甲には、蛇がお互いを咥えるようにする模様。しかし、俺と融合したって言ってたけど、コイツってこの左手の模様が体なのだろうか?
「なぁ、お前ってこの左手の模様が体なの?」
「否定します。雪緒の全身に私の体は融合しています。その模様は、魔導士ノア・ディーンの魔導具である証明です。」
ノア・ディーンとかいうキチ○イが、こんなもん作りやがったのか…。
「なるほど。で、聞きたいのはどうやったら俺が元居た世界に帰れるのか。この一点のみだ。」
「それは、マナ結晶を媒介として転移するという方法があります。」
なんだ、帰る方法あるんじゃねーか。
「で、そのマナ結晶っつーのはどこにあるんだ?」
「ノア・ディーンの研究所には、2キロほどの蓄えがあります。」
「よし、じゃあそいつんトコロに連れてけ。壊れたボイス機能付き市松人形のように罵倒し続けてやる。身体的な悪口を含めてな。」
「しかし、私が転移してから120年が過ぎています。マナ結晶についても最低量で103.28キロ必要になりますが、どうしますか?」
「・・・・・・・・・はい??」
「復唱します。しかし、私が転移してから…」
「ちょちょ、ちょっと待って。120年?103キロ?」
「わかり易いように経緯からお話します。転移プログラムに欠損があったため、場所・時間・世界が違う雪緒のもとへ転移してしまいました。私には時間を越える魔導プログラムはありません。そのため、現在はヴァルヴュエナ暦でいう442年に転移して戻ってきたことになります。ですので、現在ノア・ディーンの年齢は180歳。世界最高峰の魔導士と謳われたノア・ディーンでも、180歳で生きている可能性は0.000012%であると推測します。しかし、転移プログラムを自発的に修正・更新したので、雪緒の世界との転移は可能です。その転移に必要なマナ結晶の最低量は103.28キロになります。」
「…とりあえずは、理解した。はぁ~あ、わかったよ。じゃあ手っ取り早くマナ結晶を集めるには?」
「世界各地に点在する、マナの自然発生源<ダンジョン>の最深部で手に入るとされています。」
「…それ、なんてファンタジー? …まぁ、いいや。それでどこのダンジョンへ行けば103キロが手に入るんだ?」
「私に記録されている限りでは、278年のサルディアナダンジョンで発見された2.98キロが史上最大の質量です。しかし、多くの人が入ったダンジョンからは、より大きなマナ結晶が発見されると言います。それはダンジョンで死んだ人のマナを、ダンジョンが吸収してマナ結晶が精製されるからだと推定されます。そのことから、現在、人が集まるダンジョンということになります。」
はい。絶句しました。たっぷり20秒ほど。
「…史上最大のモノを何回集めりゃいいんだよ…。他に方法は無いのか!?」
「方法はひとつあります。私のマナ運用プログラムは使うごとに最適化されていくようになっています。雪緒がマナを使うたびに、運用効率は上がっていきます。使用するマナの量を減らすために、マナの最適化を推奨します。」
マナを使用する。っていうことがわからないが、とりあえず使えば使うだけ運用効率が上がっていくことは理解した。
「そのマナを使うには?」
「効率化に一番適している方法は、体内にあるマナを放出・吸収することです。また、魔法の行使でも運用効率は上がります。」
その方法自体が両方とも出来ないんだが…。こいつ、ホントは頭悪いのか…? っていうか、サラッと魔法って言いやがった。ということで、一番適していると言われるマナの放出・吸収からやってみる。コツというか、その方法をコイツから聞くとおりにやってみると、意外なほど簡単に出来てしまった。
「おお。なんか力が溢れ出すような感じだな。」
「生物の体内には、必ずマナが存在します。得手、不得手はあるにせよ、子供でも出来るのがこの世界の常識です。」
あれ?コイツってもしかして嫌なヤツなんじゃね?
「とりあえず、これをまた身体に戻すんだよな。…っと、出来た。これをあと何回ぐらいやればいいんだ?」
「雪緒。恐らく捕食を目的とした魔物がおよそ300m先から来ます。」
「・・・・・えっ?」
なになに?なにが起こってるの?ここで、また頭がフリーズ。
「こちらから200mを切りました。すみやかにマナを展開して迎撃体制をとることを推奨します。」
「…は?魔物!?もう一回、マナを放出すればいいってことか!?」
「肯定します。目の前の森から、7秒後に来ます。」
身構えるように森を見つめると、何かが近づいてくる音がする。
一瞬の間に森から飛び出てきたソレは、一直線に俺の首へ牙を向けた。




