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渇いた夜に  作者: ナッツ外道
第1章
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ベヘルス公爵家前

 ベヘルス公爵家へアンと向かう前日。とても美味しそうにご飯を食べるアンを見ていた。


 「雪緒…。でいいの?」


 「そう。俺の名前は雪緒。君はアン。」


 それにしてもこの子、何というか歳の割には幼い印象を受ける


 「雪緒。これはなんという食べ物?初めて食べた…。」


 「これは…なんだろう。ごった煮?味噌っぽいスープ?」


 「ミソッポイスープ?」


 「いや、違うな。そうじゃねーな。」


 「じゃあ、これは?」


 「これは、あれだ…。おい。ノア。そろそろ教えてくれ…。」


 「鹿肉と地野菜のセグスープ。それと、その果物はテリアンですね。ミルクは鹿の乳でしょう。」


 「ということだ。そういえばまだ紹介していなかったが、この声は俺の…なんだ…下僕?家来?…まぁ、友達のノアだ。」


 まぁ、子どもの前で下僕は無いだろうな。


 「雪緒。私は雪緒の魔導式インターフェース。」


 「あー、もういいんだよ。友達でもいいだろ?どうやって魔導なんちゃらのくだりから説明するんだよ。」


 「魔導式インターフェースについては、魔導因子テクノスを使用した…。」


 「いや、だから!!そこが理解出来ないから…」


 「…ふ、ふふっ。」


 アンが笑った。会ってから初めて。仏頂面というか、無感動な表情がデフォルトのアンが笑った。


 「…ごめん。二人の話がとてもおもしろくて。」


 俺もノアも、その瞬間に黙ってしまった。ノアに顔があったら、お互いに顔を見合わせていただろう。


 「そうか。おもしろかったならいいんだ。」


 「雪緒。友達ということで、再度登録しますが宜しいでしょうか?」


 「うるせーな、お前は…。いいよ。いい。勝手にしてくれ。」


 とても家族っぽい、と思った。




 …ありがとう。いま、この家族っぽいものを守れる力に。


 「ノア。こいつらを一発で動けなくして、しかも殺さない威力のマナを展開したいんだが。」


 「了解。自動制御します。出来るだけ四肢を狙って下さい。」


 前方のベヘルス家の私兵、およそ100名。瞬く間に距離を縮めてくる奴らに、とりあえず先制攻撃。一番先頭のガタイのイイ奴を、後列まで届く勢いで殴り飛ばす。


 「まぁ、相手もマナを展開しているわけだし…死なねーよな。」


 「相手のマナの量は私が計測しています。打ち所が悪くなければ死なないでしょう。」


 それで充分か。ということで、銃での同士討ちを避けるためなのか、近接戦に切り替えた奴らを主に足を折るなどして戦闘不能にしていく。数が多いといえども、一度に来るのはせいぜい4・5人くらいのものだ。


 30人ほどを戦闘不能にすると、俺のことを脅威と判断したのか後退する。


 「貴様ら!!一人を相手に何をしているんだっ!!」


 ベヘルス公爵の声が響く。と、俺と私兵たちの間に黒い剣が突き刺さった。


 「…待て。」


 俺が蹴り飛ばしたリフだ。忘れていた。


 「雪緒…と言ったか。」


 「ああ、さっきのでよく起き上がれるな…お前、相当我慢強いのか?」


 さっきは、3割のマナではあるが思いっきり蹴り飛ばした。魔導獣相手でも3割で行けるらしいのに…。


 「舐めるな…。それよりも先ほどの話は本当か?」


 「先ほどって…いつ?」


 「お前が、アン様の家族になるという話だ。」


 「当たり前だ。アンはさっき言った俺の宣言をもって、うちの子になった。」


 「そうか…アン様がそう望まれたんだな。」


 「そうだ。」


 なんだこいつ。とりあえずおっかねーな。


 「では、私も宣誓しよう。今現在をもって、私、騎士リフはベヘルス公爵家の騎士を辞退する。」


 「なっ…!?」


 やり取りを見ていたベヘルス公爵が、信じられないという目でこちらを見やる。


 「き、貴様…っ!!拾ってやった恩を、あだで返すというのか!?」


 「…拾って頂き、とても感謝しています。しかし、私が初めて恩を受けたのはアン様です。アン様のためになるならと、父であるヘイネ様に忠誠を誓った次第です。」


 「…い、今まで世話をしてやったベヘルス家に剣を向けるというのかっ!?」


 「アン様がこの場所に居ることが、私は一番安全で、正しいものだと思っていました。アン様が冷たく暗い部屋に居る時間も、望んでいるものだと思っていました。アン様と日に一度、私のマナが尽きるまでの時間、お話をさせて頂く事だけが私に出来ることだと思っていました。」


 肩が震えている。こいつ、泣いているのか。


 「しかし、この男は本当の意味でアン様の幸せを願い、行動した。私は、先ほどヘイネ様の言葉を聞いた直後でさえ、混乱してアン様を苦しめてしまった。」


 「リフっ!!死を選ぶというのだな!?」


 「…だまれ…虫もたからぬウヴァルの使徒がっ!!アン様への先ほどの言葉…万死に値するっ!!」 


 リフは剣を握り締めると、切っ先をベヘルス公爵へと向けた。


 あかん。こいつ殺す気だ。


 「ま、待て。そいつは確かにクソ野郎だが、殺すのはマズイんじゃないか?」


 「だまれっ!!長年、こいつはアン様を…あの暗く冷たい牢獄の中に閉じ込めていた悪魔なのだ!!もはや慈悲は無用っ!!四肢を切り落とし、ベリトの谷へ突き落としてくれるっ!!」


 いっちゃってる…。遠くに。


 「俺もそれには賛成だが、まわりを見ろ!!アンの心に傷が残る!!」


 「……!!??」


 「人が死ぬ、それも自分がさっきまで親だと思っていた人間が目の前で死ぬんだぞ?優しいアンの心に傷が残らないわけ無いだろう?」


 「…ぐっ、お前の言うとおりだ…。」


 「とりあえず、縛り上げて憲兵に突き出す。これが今出来る最善策だと思うのだが。」


 「…すまない。冷静さを欠いていた。」


 仕切りなおしとばかりに、リフの横に並んだ。


 「リフ…って呼ぶぞ。」


 「ああ。雪緒だな。」


 「そうだ。とりあえず、兵隊連中を相手にしてくれ。罪はなさそうだし、殺すなよ?」


 「殺さん。ベヘルス家に雇われている連中だが、それほど悪い奴らではない。」


 「じゃあ、頼んだ。」


 頷くと、リフは小さな声で喋る。


 「…纏いし風、ウンディーネよ…。」


 魔法の詠唱ってヤツだろうか。すると、またリフの足元が爆発したような風を起こす。その勢いに乗り、カタパルトのように突っ込んでいく。いまさらだけど、魔法ですよ。奥さん。


 「スゲーな…って感心してる場合じゃない。」


 飛び上がると、上空からベヘルス公爵の位置を確認。目の前に下りて、背中側から襟をつかんで元の位置まで戻る。全員、鎮圧してやろうかと思ってたけど、リフの怒りのおかげでこいつだけ捕まえればいいことに気づいた。俺もだいぶ頭に血が上っていたようだ。


 「き、貴様っ!!離せ!!!!」


 無視して、とりあえずリフに声を掛ける。


 「おい!リフ!もういいぞー。」


 無双しているリフを呼び戻して、ベヘルス公爵を預ける。


 「リフ、とりあえず街の勅令憲兵がいる待機所まで行こう。」


 「わかった。」


 アンのもとへ駆け寄る。泣き腫らした顔でこちらを見ていた。


 「雪緒っ!!」


 「おわっ。」


 急に抱きつかれて変な声が出た。


 「だ、大丈夫?怪我は?」


 「平気。後ろの兵隊たちが来る前に行くぞ。」


 お姫様抱っこの形で、空から行くことにした。


 「わ!え?と、飛んでる!!」


 「うん。しっかり捕まって。」


 俺の肩にギュッと顔を押し付けるアン。


 「雪緒。」


 「ん?」


 「…ほんとに雪緒は家族?」


 「ほんとに家族。」


 「ずっと?」


 「ずっと。」


 「…あたしの事を嫌いになったら?」

 

 「家族っていうのは、それでも家族。」


 さらにギュッと力を込めて、離れないように抱きつくアン。


 俺も少しだけ、強く抱きしめた。


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