オリアスへ到着
早朝、ノアに起こされてから朝食を食べた。ホテルをチェックアウトしたあと、食料と水を3日分ホテルで買ってから、ダンジョンへ行くための馬車へ乗る。ここでも身分証明のためにカードを提示した。俺以外は誰も居なくて、広い車内は快適だ。
「朝早いとはいえ、誰も居ないとはついてるな。」
「馬車での移動は危険です。御者もある程度の装備は整えているかと思いますが、護衛を付けずに街を出ることは少ないでしょう。」
「じゃあ、俺がシーカーだってわかったから運行してるって事か。」
「肯定します。昨日の騒ぎは新聞と情報集合体『シトリー』に出ていましたから。」
勝手に名前が出ていたらしい。個人情報やぞ。まぁ、とにかく出発したわけだ。そして、シトリーとは情報集合体であるネットみたいなものの総称であるらしい。
ちなみに、馬車の支払いはカードである。このちぐはぐ感。慣れるまで時間が掛かりそうだ。馬車代6日間で600テイルなり。
飛んでいったら早いのはわかっているんだけど、馬車にした理由は2つ。
1つは、ノアから地球へ帰るために必要な時間を算出してもらったところ、最適化の進行具合とマナ結晶の採取状況にもよるが、大体早くても3年くらいだと言われたので、腰を据えてこの世界を見ようと思ったから。
2つ目は、ノアにこの世界のことを詳しく聞きたかったからだ。
車内では色々と聞いた。レイスには6つの大陸があり、10の国がある。大陸は東西南北に1つずつ、中央に2つという配置である。国や大陸についても色々と聞いたのだが、ほとんど覚えていない…。俺ってヤツは勉強が苦手なのだ。
覚えていることは以下。東のアラマズド大陸は工業的にとても発展している。今居る西のアナヒット大陸は多くの自然を残していて、食品輸出をメインとした大陸だ。南のヴァハグン大陸は、密林が大陸の大半を覆っており、魔法科学とは多少縁遠いらしいが、太古からの秘術ともいえる治癒魔法がとても得意らしい。長生きの人が多いらしく、長寿の大地とか言われているようだ。北にあるハイク・ナハペト大陸は、ハイク帝国と呼ばれる軍事国家のみが統治する場所。1人の帝が絶対の権威を振るっているらしい。ハイク帝国には奴隷が居るそうだ。
まぁ、俺が覚えられるのなんてこの程度です。はい。
オリアスへ到着するまでに2つほど農村を経由したのだが、食料や水の補給くらいで特に何もしていない。4日目の道中で、御者のお兄さんが遭遇した熊のような魔物を銃で殺していた。銃あるんだ。発射するのは自分のマナらしい。
あ~、自衛のためとはいえ生き物が死ぬ瞬間って慣れない。気分が悪くなった。魔導獣はマナで動く『機械』らしいから、壊しても罪悪感はなかったんだけど…。もし、魔物と言われる獣に出会った場合、殺さずに逃げようと思った。
そんな6日間はあっという間に過ぎ、ダンジョンのある街オリアスへと到着。シーカーと観光客で溢れる街だそうだ。
「シーカーって、数が少ない職業なんだよな。」
「肯定します。現在の登録人数は15,318人です。」
レイスの総人口は3億人ほどらしいから、1万人以上でも少ない部類なわけか。
「この街に居るシーカーって、ダンジョンに潜って稼いでいるわけだろ?俺がもらった報奨金やお前の話だと、かなり稼げそうな職業だと思うんだが。命懸けの職種だから少ないのかね。」
「肯定します。戦闘分野において非凡な才能を持つ者でも、年間に300人以上が死亡するために、人気とは言い難い職業です。しかし、レイスでは最も尊敬される職業のひとつでもあります。文明はダンジョンからもたらされるというのが、一般的ですからね。」
なるほど。シーカーが居ないと文明は発展しないというのが通説なのか。
「また、ダンジョンから得られる技術を解析して普及していく研究者のことを『魔導士』と言います。この魔導士の中でも、歴代で最も優秀な人物と言われるのがノア・ディーンです。」
「お前の親は優秀だな。今でもノア・ディーンって有名なのか?」
「肯定します。情報通信分野と魔導力学では、他に類を見ない天才だったと言われているようです。ノア・ディーンの発明では、情報集合体シトリーや携帯マナ端末、軍事人工衛星の『ソドム』と『ゴモラ』などが有名です。」
シトリーは前にもあったが、携帯マナ端末は電話やPCにあたるものらしい。軍事人工衛星っていうのは、ハイク帝国の所有する衛星砲を積んだ人工衛星なんだと。恐ろしい。
「なんかノア・ディーンって悪役っぽいな。仕事っぷりがさ。」
「善悪について、私は主観を持ちません。しかし、より多くの人的被害を生み出すという事象を悪と定義するのであれば、ノア・ディーンの発明は史上類を見ない悪と言えるでしょう。」
ですね。こいつに感想を求めても無駄か。
「ノア。ついでだから言っておくが、俺は『善』の行いが好きだ。人が死んだり、苦しむことを嫌う。お前の情報的に悪だと判断した場合は、俺に知らせるように。」
ノア相手だからか、大口を叩いてしまった。でも、こいつの判断基準がわからないし、何かの指標というかデフォルトの意識みたいなものはあったほうがいいと思う。
生きていく上で勧善懲悪とはならないこともわかってはいるが、そうでありたいという理想くらい話てもいいだろう。まぁ、ノリであったことは言うまでもない。
「了解しました。では、雪緒。今にも死にそうなマナ反応には対処するべきでしょうか?」
「そりゃあ、するべきだろうな~…って、そんな反応があるわけ…??」
「領主の城内、4時間24分ほど前から急激にマナを失っていく反応を確認。現在は生命維持に最低限必要である量を残しています。」
街について早々、これですよ。
オリアスに到着してからものの5分。なぜか死にそうなやつをノアが発見したおかげで、俺はベヘルス領の領主であるベヘルス公爵家へと足を運んでいた。
「領主の城にいきなり行っても中へ入れてくれる訳も無し。っていうか、病気とか怪我人とかそういう人なんじゃないかな~…。」
自分の正義は簡単に曲げる男。それが俺である。要は面倒臭くなっていた。
「急激にマナを消耗するというのは死ぬ直前に見られる現象です。しかし、対象は最低限のマナを残して生きています。普通は考えられません。人為的にマナを抜き取られている、というのが正確な情報だと推測します。」
そいつは…なんというか、罪人みたいな人とか?拷問的な?
「…拷問みたいなものかな?」
「マナ自体を抜き取ることに意味があるものと推測されます。抜き取られた強いマナの反応を隣室で確認。通常、人が保有するマナのおよそ3,000人分が蓄えられています。」
んだよ、それ。人からマナを引っこ抜いて、それを使おうって言うのか?
「ノア。マナを抜き取るなんて、そんな魔導具まであるのかよ。」
「否定します。私の知る情報には存在しません。」
存在しないって…どういうこと?とりあえず、ノアの反応が正しければレイスの中でも異常な事態が領主の城で起こっているわけだ。存在しないはずの何かで、人からエネルギーを吸い取っている。しかも、3,000人分も蓄えてあると…。
「…憲兵さんに、相談する時間は?」
「衰弱している個体が絶命しても問題なければ、そうするべきでしょう。」
時間は無いと…。
とにかく、どういう状況なのか見るべきか。
「行こう。ノア。」
「はい。雪緒。」




