一方的な送信
「ああ、愛華」
「はい!?何良兄!?」
帰り道、俺は愛華を呼び止める。なぜか愛華はパニックに陥っているが気にしないで置こう。
「一緒に帰りたければ普通に言いなさい。周りの視線が冷たくなって俺のライフがゼロに近づいていくから……」
「うん、わかった」
「それと橘」
「なんだ?」
「この後、商店街に向かおうと思うが、お前も来るか?」
「えっ?いいの?」
橘は驚愕の顔を隠せずにいた。反対に妹の機嫌は少し悪くなったみたいだ。どうしてだろう?
「さっきの罪滅ぼしだ、安いものであれば奢るぞ」
「ひゃほぉおおおおおい!ありがとう天津!心の友よ!」
「お前はどこのガキ大将だよ」
そこで商店街に向け、歩き出そうとした瞬間、
ドドドドドドドドドド……!
何かがものすごい速度でこちらに近づいていた。
「ん?何の音だ?」
いち早く気づいたのは橘であった。
「どうしたの橘さん?」
「いや、何か音が聞こえるなーって」
橘の話を聞き、耳を澄ませる愛華、
「ーー本当だ、聞こえる」
「音?そんなもん聞こえねぇぞ」
「よく聞いてみろよ天津」
橘がそこまで言うのであれば聞いてみてぇじゃねぇか……
そう思い俺は耳を澄ませてみる。
……ドドドドドド!
確かに聞こえるなーーというより、近づいていないか?
「りょ~~~う~~~た~~~!」
この聞き覚えのある声って……まさかなー、あんな轟音立てて走る知り合いなんかーー
一人しか思いつかねぇ……
「とうっ!」
「げぶらー!」
俺の頬に重い衝撃が走る。思考が加速し、目を開き何が起こったのかを確認して見ると……
足が見えた。
というより、跳び蹴りを受けているようだ。何がどうなって跳び蹴りを受けなければならないんだと疑問に思うが、加速していた思考が通常の思考速度に戻っていく。
するとあらま不思議、俺の体が後方に勢いよく吹き飛ぶではありませんか……
「どむっ!」
そして地面に一回……二回……三回バウンドし、地面をすべり動かなくなったではないですか。まさに匠の技。
「待ってろって言ったじゃないか」
「……」
跳び蹴りを与えた少女は、|動かぬ死体(俺)に話しかける。
「鈴さん!良兄を屍にしないでください!」
「おー、今日も綺麗に決まったね……」
二人の抗議?に気づいたのか鈴と呼ばれた少女は二人に顔を向ける。
「あっ!愛華ちゃん、橘君ちぃーす!元気にしてた?」
「おうともさ!ついでに言うと、俺たち一緒のクラスだかんね」
「そうだっけ?」
鈴は首をかしげる。
「と、いうことでパンツ見せてください!」
橘は、九十度の綺麗なお辞儀をする。
「そうだ鈴!人を蹴り飛ばしたのだからパンツ見せてください!」
「清々しいくらいに下種だね二人とも、というより良太は復活早いねー」
鈴は軽蔑するように俺と橘を見下す。ちなみに俺を蹴り飛ばしたこいつは上風鈴、小学校から一緒の幼馴染でバカ、しかし、見た目は良く黒い短髪にポニーテール、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んでいる。見た目道理の活発な少女、特技は運動、なのだが、こいつの運動神経は人の限界を軽く突破しているのであった。
というか、なんで俺は蹴られたんだ?
「それで?なんの用だよ?」
俺は鈴に質問をする。鈴は笑いながらこう告げる。
「いやね、さっき教室で一緒に帰ろうって言ったじゃん」
「そうだっけか?俺ずっと橘と話してたと思うけど……」
「いやいや、送ったじゃん」
「んっ?」
送ったじゃん?メールでも送られたのかとスマホを確認する俺。画面にはメールも着信履歴も一切無い。
「メールじゃなく」
「メールじゃない?手紙とかか?」
「いや、テレパシー」
「「「……」」」
その場の空気が凍りつく、いやさ、バカだバカだとは思ってたけど、ここまで駄目になってるとか思わないじゃん?高校生だよ、高・校・生!
「あのー、鈴さん……本気で言ってます?」
さすがの俺でも敬語になるよ。なっちゃうでしょ普通?知り合いがここまでバカだと思いたくないんだもの……
「えっ?本気だよ、何言ってんの?」
本気だったぁあああああああああああああああああ!
嘘であってほしかったよ!本当に!
「す、鈴さん?さすがに高校生でそれはどうかと思いますよ」
「愛華ちゃんには関係ないでしょ?少し黙っててくれない?」
嫌ぁああ!妹が怒ってるよ!昔っから愛華と鈴は何かあるたび喧嘩してるんだよな…
「関係なくないですよ、うちの兄が迷惑してるんです。即刻やめてください」
「たかが妹が口出ししないでほしいなー、ボクと良太の問題だから」
火花が散ってる、今目の前で爆発寸前のダイナマイトが二つある……
「天津!俺用があったんだよ、先帰るな」
「待てお前!一人で逃げる気か!戻って来い…戻って来ーい!」
橘は不穏な空気からすぐに戦線離脱をした、俺を残して……
二人は口喧嘩に集中していて周りに気づいてないみたいだ、ならば!
「俺も帰るか……」
俺は二人に気づかれないようにその場を後にした。