HR(ホームルーム)
「おーいリョウタよ、夕飯はまだかの?」
「リョ、リョ、リョウタさん!?このせ……せ……穿孔機ってどう使えば!?」
「良兄ー、ここの問題わかんないんだけど教えてほしいなー」
今、俺こと天津良太は同居人である三人の美少女達から面倒この上ない問答を行っていた。
「リョウタよ!聞いておるのか!我は腹がすいたのじゃ!」
「リョウタさん!洗濯ってどうすれば!?」
「良兄聞いてる?ここの問題がわかんないんだって」
俺自体もどうしてこうなったのかわからないが、平穏な日々は消えうせてしまったことが事実だと思い知らされる。少し前のことを思い出してみよう…
☆☆☆☆☆
「ふぁ~眠い……」
六時間目が終わった今、HRを始めていた。
「おい天津」
「何だ?橘」
声の主に面倒そうに返事をしたのが気に食わなかったのか、顔をしかめる。
「おいおい、折角お宝情報を教えてやろうと思ったのによ」
「ぜひ教えてください橘様」
気ダルそうにしていた体をきっちりと伸ばす。
「うおっ!?……なんという身代わりの早さだ、まぁいいーーぶぁ!」
「ぐふぅ!」
俺と橘の顔に黒板消しを投げつけられていた。
「そこの二人……何回同じ事をするんだ……いい加減、学習することを覚えてくれないか?」
いままでHRを進めていた担任、川田舞がこちらに視線を移す。
「先生、俺は橘君にそそのかされただけです」
「本当に身代わり早いな!都合のいい奴だな!」
「先生、橘君が興奮しすぎて変なこと言っています。この変た……橘君を保健室に連れて行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
「今変態って言おうとしただろう!つうか俺はおかしくなってぎゃ!」
「がっ!」
今度は眉間にチョークが飛んできた。つうか、威力が強すぎてチョークが消失するとかおかしいだろ。
「HR中は喋るなといっとろうが、理解してるかバカ二人?」
「つ~、分かりましたが、今の一撃で橘君が気絶してます」
「ならいつも通りに起こせよ、もうね……先生もそいつに水かけるの疲れたわ」
「わかりましたー、ではいつも通り俺が起こします」
と、このようにいつも通りのHRが終わった。
「天津!てめぇよくもあんなことしやがったな!」
「何のことだ?」
「とぼけるな!」
HRが終わってから、橘はずっとこの調子であった。まぁ、いつも通りのことなのだ。
下駄箱につき靴を履き替える俺と橘。
「そもそも、お前が話しかけなければこんなことにはならなかった」
「うぐっ!それはそうだがーー」
「けれど、俺も悪かったと思ってる」
「天津……」
そして俺は満面の笑みで橘に話しかける。
「気絶したお前の顔に熱湯をかけたことぷふっ!」
「許せるかぁああああああ!つうか、謝る気まったく無いだろお前!」
即答だった。なぜだろう?こんなに誠心的に謝っているというのに……
「なぜだ?」
「なぜじゃねぇよ!どうしたらあれを許せる気になるの!?俺マゾなの?違うからね!それにまだ皮膚がヒリヒリするからね!」
「女々しい奴め、俺のお宝本2冊やるから、とっとと許してお宝情報よこせ」
「女々し……かしこまりました、何なりとお申し付けください、天津様」
「お前も人のこと言えねぇよな」
さすが我が悪友、俺と同じで物につられやがる。
「あっ!おーい!」
校門から誰かの呼ぶ声が聞こえる。知り合いの声に似ているが違うだろう。というよりも他の誰かを呼んでいるのだろう……
「おーい!聞こえてないのー?」
校門から近づく足音、橘はその足音の主に目を移す。
「あっ!愛華ちゃん」
「人の妹の名前を気安く呼ぶんじゃねぇ!」
「げぶし!」
俺は橘の顔面に拳を叩き込む。そう、ただいま校門からこちらに向かっている人影、
天津愛華、
俺の最愛の妹、勉強、運動、家事、何でも出来る自慢の妹だ。容姿は俺に似ず、茶髪のショート、猫みたいな可愛い目、細身でいて胸は成長途中、実に完璧な妹である。
俺たちと同じ神童高校に通っている。
ちなみにこの高校、見た目はそこら辺の高校と変わらないが、生徒や教師は個性的な人間が多いのである。
そして、妹が俺たちの元についた頃には橘も復活していた。
「こんにちわ橘さん、良兄遅いよ」
良兄とは良太こと俺のことである。愛華の兄で良太だから良兄、実に分かりやすい愛称である。
そして橘よ、そんな顔で俺を睨むな、すこし怖いぞ……
「どうした愛華?また俺をたかりに来たのか?」
「違うよ!えっと……そ、その、良兄と一緒に……その、帰ろうと思って」
「チッ!……天津の野郎、夜の背後に気をつけな」
橘は直接口に言ってくれるからいいものの、それ以外の男子の目線がつらい……とりあえずは
「勘違いするな橘よ、後2冊追加してやろう」
「今までのご無礼をお許しください」
さて、この位で早くここから離れるとしよう。